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35.呉 大空山堡塁を彩るツツジ

 呉を初めて訪れたのは、2022年11月5日です。2名の学生と、3D地図の先端的な技術を学ぶ機会として、国土交通省主催のPLATEAU Hack Challenge 2022 in 大和ミュージアムに参加するためです。早朝から車を飛ばし、少し早く呉市内に着いたので、お手軽に市内が見渡せる展望台がないかと思い、東広島・呉自動車道から降りて近い標高205mの大空山公園を訪ねました。下調べせずに訪問しましたが、思ったとおり、堡塁ほるいなどの戦争遺跡があり、コバノミツバツツジが自生する花崗岩の山でした。
 広島県の地質は、花崗岩が面積の約40%を占めています。全国で最も広く花崗岩が分布しています。さらに、花崗岩類・流紋岩類等の火山岩の分布が約70%です。

広島県の地質図  出典:産業技術総合研究所の地質図Navi
濃いピンクの花崗岩が4割、薄いピンクの流紋岩や赤い花崗閃緑岩を含めると7割が火成岩

 元々農漁村だった呉に、鎮守府が置かれることが決定し、1884(明治17)年に海軍の軍港を起工し、1889(明治22)年に呉鎮守府が開庁しました。陸軍は鎮守府を守るために、周囲の島や山に砲兵隊を配置することになりました。その1つの大空山では、1902(明治35)年に工事を始め、1903(明治36)年に大空山堡塁ほるいを完成させました。1904(明治37)年に日露戦争が始まり、ロシアの攻撃から守るための備えが必要でしたが、他所の堡塁よりも優先度が低く、結果的に砲は置かれませんでした。その後、海戦から航空機による空中戦の時代に移って、1926(大正15)年に陸軍の堡塁ほるいは廃止され、海軍に移管されます。

 第二次世界大戦中には海軍が、大空山堡塁ほるいを防空砲台に利用しました。元々陸軍が建設したこれらの遺跡には、円形の砲台、司令所や観測所、円筒形の弾薬庫などの石造建築物群が、戦争遺跡として残されています。
 写真の2か所の円形の土の植込みは、陸軍の28センチ榴弾砲の砲座の跡です。同じような砲座が左右に並んで、計4門、配備されました。1934年には、海軍の88式7.5cm野戦高射砲が6門、配備されました。砲座の後ろの石積みの凹みは、即応用の砲弾置き場です。

2つの丸い砲座跡

 横の階段と一体となった砲側庫の石積やその笠石、入口のアーチは、実用性を兼ね備えた石の造形美といえます。

砲側庫

 砲台周りの石積を上からみると、コンクリートの綺麗なカーブが描かれています。

砲台を取り囲む

 階段を登ると、地下兵舎、観測所、指揮所があります。

観測所に上がる階段

 地下兵舎の上に観測所があり、そこに登る横の階段も一体的な石積で造られています。

地下兵舎

 指揮所の石積みも、緩やかなカーブを描いています。どの施設も、既存地形をなるべく活かしながら、大空山やその近くで掘り出した花崗岩を使った造形が美しいです。

指揮所

 戦後は、公園となって、1200本の桜が植えられました。展望台から呉市東部の阿賀、広、横路の街並みが一望できます。
 訪問した2024年4月11日に、著者より年配の3人組の地元の女性と話しました。チラシを渡し、コバノミツバツツジの木は、柴刈りの柴だと伝えると、3人とも幼少期に、竈や風呂の燃料にするために、この山で柴を刈ったことを思い出して、「柴だったのだ!」と、とても感動していました。今では緑に覆われた山ですが、1970年頃までは、段々畑と柴草の山でした。

1947年5月5日の青空山の航空写真  出典:国土地理院

 クマバチがブンブンと飛んでいて撮影したかったけれども、石積の撮影にも時間を取られ、次の場所に急いでいるので、大空山公園を後にしました。ちなみに、尻が黒いクマバチは、羽根音が大きくても、おとなしい性格です。そもそも多くが針のない雄で、雌に刺されることも稀です。動き回るので撮りにくいですが、待ち構えると写真におさめられます。

クマバチの撮影を逃したコバノミツバツツジ

 呉市内の港の中心部にある大和ミュージアムは、見ごたえのある博物館ですので、ぜひ見てください。

大和ミュージアム 26.3mの戦艦大和1/10模型

 呉市は、倉橋島まで広がっています。2021年3月26日に訪れた、倉橋島の火山ひやまの山頂に花崗岩の大岩があり、とりわけ瀬戸内海の眺望が優れています。

火山山頂に咲くゲンカイツツジ

 山頂近くの駐車場あたりまでは、コバノミツバツツジが多いですが、山頂付近は、ほぼ同じ色と大きさの花をつける、ゲンカイツツジが咲いています。花弁の先が丸くて縁がヒラヒラしていてかわいい花です。

ゲンカイツツジ

 倉橋島の海岸にも、海軍の基地や発射場などの跡があります。そして倉橋島では、海岸沿いにもコバノミツバツツジが咲いています。

倉橋島の桂浜

 平和に咲くコバノミツバツツジを愛でながら、戦争遺跡の美しい石積にふれるのも良い機会でしょう。

【文献】
奥本剛『呉・江田島・広島 戦争遺跡ガイドブック <令和版>』2023


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