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15.ツツジの甘い蜜と毒
『つつじ』 詩 金子みすゞ
小山のうえに
ひとりゐて
赤いつつじの
蜜を吸う
どこまで青い
春のそら
私は小さな
蟻かしら
甘いつつじの
蜜を吸う
私は黒い
蟻か知ら
青空が晴れわたった春の日、金子みすゞが一人で小山に登って、赤いツツジの蜜を吸いました。小さな黒い蟻も、同じように蜜を吸っています。
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昔から今まで、全国いたるところで見られた子どもたちの楽しみです。みすゞが住む現在の長門市仙崎でのツツジの分布から見て、吸ったツツジは、紅紫のコバノミツバツツジか、朱色のヤマツツジだと思われます。
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『花づくし実づくし』 渡辺隆次
チュッ、チュッ、チュッ!
子供らはちいさな口をすぼめ、ツツジの花の蜜を吸う。
――ツツジは、くすぐったくてたまらない。
・・・赤いヤマツツジ、葉に先だって赤紫の花をつけるミツバツツジ。そして、橙や黄のひときわ大きな花びらのレンゲツツジ。・・・
「誤ってこれを食べるとね、羊や牛は、足ぶみしながら死んでしまうんだよ」幾度となく聞かされた大人たちの言葉だ。
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教訓に飛んだ、是々非々の判断を示しています。
もっと恐ろしい民話が、福岡県八女郡広川町のホームページに載っていました。
『十三塚とツツジの毒』
その昔、山の上にあるお寺に十三人の子どもが、手習いに通っておりました。
ある日のこと、一人の子がお弁当のおはしを忘れていることに気づき、とっさに境内の山ツツジの枝を折って、おはしのかわりにしたのです。
それを見たほかの十二人もおもしろがって、全員が山ツツジの枝をおはしのかわりにしたではありませんか。
ところがです。お弁当のあと、子どもたち全員が腹痛を訴えて苦しみだしたから大変です。山の上でのできごとでお医者さんも間に合わず、とうとう全員が亡くなってしまいました。
原因は、山ツツジの枝に含まれる猛毒にあたったのです。子どもたちの師匠である和尚さんは、ツツジの枝には毒があることを教えていなかったことをとても残念がり、悔やんでも悔やみ切れずに涙が止まりません。
ここでいう「山ツツジ」とは、本州や九州全般と四国の一部の、高い山で咲くレンゲツツジのことです。
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薬学者の木下武司は、「日本ではレンゲツツジは有毒植物として認識され、その群生地には養蜂家は近づかないといわれる。花にロドジャポニン、葉にはアンドロメドトキシン(アセビ毒素のアセボチンに同じ)と称する毒性の強いグラヤノトキシン系ジテルベンを多く含み、この成分は花蜜にも含まれるからである。」と述べています。羊躑躅の漢字は、日本ではツツジ全般に誤用されましたが、中国では有毒のトウレンゲツツジを指しています。毒によって、食べた羊が躑躅が、原義です。中国でツツジは、杜鵑花や映山紅と表します。
小学館の児童向けの図鑑には、レンゲツツジは「食べると腹痛、嘔吐、下痢、神経麻痺などを起こします。みつも有毒です。」と、わかりやすく説明されています。
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戦前は軍馬牧場があり、毒があるレンゲツツジだけは馬に食べられずに残った
3つの話から読み解いて、子どもたちに伝えることは、何でしょうか。著者の木登り体験に例えます。
著者が小学校2・3年生のころ、自宅の横の銀行協会にある並木のヒマラヤスギに登っていたときに、上級生に下からホースで水をかけられました。驚いて手を放したあと、すぐに木にしがみつきました。その日、父とともに風呂に入ったとき、右の乳首の下に大きな傷があるのを父に見つかったので、事情を話すと「おまえアホやな。木に登ってるときに手を放したら落ちるに決まってるやないか」と言われて、内心えらくムカッとしました。すぐあとに父は「柿の木にだけは、絶対に登ったらあかん。すぐ枝が折れるさかい」と忠告しました。確かにその後すぐ、『二十四の瞳』の映画の中で、柿の木から落ちて亡くなった女の子を見て、恐ろしくなりました。さらに20代のとき、東京で80代の老婆と60歳を超えたその息子が住む家に下宿をしていたころ、息子が庭の柿の木に登り落ちて亡くなりました。老婆の悲痛な顔が忘れられません。
25年ほど前のこと、妹が姪を連れ、母を誘って遊びに来たときに、近所の公園で、著者の娘二人は梅の木に登ったけれども、二人の姪は下で見ていただけです。母は「なんやあんたら。東京の子は木も登れへんのか」と、言い放ちました。もちろん著者は娘に常々「柿の木だけは、絶対に登ったらあかん」と注意していました。
海外では、「やってもよいが、自己責任で」という注意が一般的ですが、日本では一律に禁止する傾向が強いのは問題ですね。黄や橙のレンゲツツジの蜜は毒です。レンゲツツジを交雑した黄や橙の花弁が大きな園芸ツツジの花にも毒があるかもしれません。自生しているキノコを食べるかどうかの判断と同様です。自己責任で、金子みすゞのように、おいしいツツジの蜜を吸ってください。緊急時に自分の力で生き抜くためにも、子どもにもこのような判断力をつけさせてほしいものです。
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ヘッダー写真のように、子どもたちはおいしくいただきました
詩と詩論研究会編『金子みすゞ作品鑑賞事典』2014 勉誠出版 p151
渡辺隆次『花づくし実づくし』2001 木場書店 p36-38
木下武司『万葉植物文化誌』2010 八坂書房
多田多恵子監修『花 小学館の図鑑NEO』2014 小学館 p140