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79.力強いトサノミツバツツジ 雲早山

 徳島県の山のいたるところに、トサノミツバツツジが分布しています。とりわけ標高1496mのジュラ紀付加体の混成岩でできてい雲早山くもそうやまは、山頂周辺が群生地で、登山路を登り詰めた反対側の高丸山方面を含めた尾根の南斜面沿いに、見事なトサノミツバツツジの独立樹が数多く存在します。
 雲早山くもそうやまには、2019年5月3日、2020年5月23日、2023年5月3日の3回挑戦して、ようやく三度目の正直で、稜線沿いにまともな写真が撮れました。幼児や小学生を連れた親子連れにも、3回とも会っており、登りやすくて人気の山です。

登山口の案内板  

 山頂の周辺104haが雲早くもそう風景林に指定されています。案内板では、トリカブト、スズタケ、ウラジロモミ、ブナ、ドウダンツツジが紹介されていますが、残念ながらトサノミツバツツジの説明が抜けています。ブナとともに、樹皮が綺麗なヒメシャラの巨木が目立ちました。

ヒメシャラ

 雲早山くもそうやま山頂は、2019年5月3日は、早すぎたようで、まともに咲いていたのは1株だけです。2019年は、近年では珍しく春が遅い年でした。著者の住む滋賀県湖南市でも、4月3日の朝、雪が降りました。この年、高知県の白髪山を訪れたとき出会った人からも、「4月に四国として珍しい大雪が降ったので、花がとても遅い」と言われました。何とか咲き始めた株を撮りました。

咲き始めたトサノミツバツツジ

 山頂は、360度パノラマで、雨乞信仰の雲早くもさ神社が祀られています。ちなみに元々は雲早山くもさやまと呼ばれていたようですが、近在の人はいざ知らず、徳島県の山人は雲早山くもそうやまと呼び、案内板にもそう書かれています。

山頂の雲早くもさ神社

 翌年の2020年5月23日は、遅すぎました。徳島のソロの登山者から「もっと早く来ないと。2週間前は山頂の周りが満開だった。雲早山くもそうやまは、徳島でもトサノミツバツツジが多い山だ。」と言われました。山頂周辺で、風雪に打たれて横倒しになっている満開の株をかろうじて写しました。遅く咲く株は、葉も同時に開きます。

懸崖のトサノミツバツツジ

 トサノミツバツツジかどうか確認のために、花弁を取って撮影します。子房に白い粒々の腺点せんてんと白い毛があり、10本の雄しべがあります。実は、白い毛が混じるのは、アワノミツバツツジという変種だという説もありますが、子房以外の差はほとんどなく、個体差の範囲で区別できないという説もあります。

子房に白い腺点と毛がある

 そして2023年5月3日は、満を持したリベンジです。2023年5月3日、車で雲早くもさ隧道ずいどうを抜けると、剣山スーパー林道は閉鎖されていました。バリケードの前に1台、先の車がとまっていたので、その横にとめました。せっかくだから、雲早山の南側の隧道の上の標高1330mの鹿舞かまダキ山にも登ってみました。男性2人組と出会います。「トサノミツバツツジが多く咲いている山はどこですか?」「徳島の山はどこにでも咲いていますよ。だからあまり気にもかけていない。」「でもとてもいい花ですね。」「確かに。でも・・・」「ちょっとマニアックすぎますか。」「いえいえ、ツツジはメジャーです。」「比婆山で、広島県の備後だけのスミレを写しているマニアックな人に出会って、ミツバツツジを撮っていると言うと同類と思われて、夕暮れが近く急いでいるのに捕まってなかなか放してくれなかった。スミレの細かい違いを言われてもチンプンカンプンでした。」「もっとマニアックな人がいますよ。ゾウムシの写真だけ撮っている人。全国に10人もいないらしい。失礼だからその場はにこやかにごまかしたけれども、別れてから二人で噴出して笑いこけた。」世の中には、本当にマニアックな人がいますね。
 ちなみに、鹿舞かまダキ山は、コバノミツバツツジの可能性が高いです。

子房に白い毛がある鹿舞かまダキ山のコバノミツバツツジか?

 雲早山くもそうやまは、子房に腺点せんてんがあり、3花集まっているトサノミツバツツジです。

雲早山くもそうやまのトサノミツバツツジ

 鹿舞かまダキ山で2時間ほど過ごして剣山スーパー林道に降りる手前で、登ってくる山ガール2名と出会います。「こちらがくも??やまですね。」「雲早山くもそうやまに行きたいの。こんなところ登ったら遭難しますよ。」「でも、スーパー林道が閉鎖されていますよ。」「あれは、車が通らないためで、登山口まで歩けます。」と交わして、コピーした雲早山くもそうやまの地図をあげて、ルートを教えました。
 ちなみに剣山スーパー林道の崩落場所は、雲早山くもそうやま登山路の手前でした。帰路では、バイクの集団がダートのツーリングを楽しんでおり、崩落場所だけ道の端を手押しで通り抜けていました。
 山頂周辺は、スズタケ-ブナ群団です。尾根の出会いと数十mの標高差でしたが、山頂付近はまだ蕾が多かったです。山頂付近の茂みに入ると、トサノミツバツツジの花が降ってくるようです。

空を覆うトサノミツバツツジ

 2023年は、高丸山に続く尾根筋とその南斜面に点在するトサノミツバツツジの株が満開で、実に力強く咲いていました。植生図では、伐跡群落とされており、数十年前に木々を伐ったのでしょう。斜面が急な場所では、横に枝が伸びます。山頂で風雪に耐えて、傾いている姿が、実に美しい。

斜面のトサノミツバツツジ

 シカが多いので、ササの背丈は食べられて低いです。トサノミツバツツジの下部1.5mの枝葉も食べられています。それでも、多くの枝を出して武者立ちしています。

見事な武者立ちのトサノミツバツツジ

 花が燃え上がるように立ち上がり、その合間から山頂が見えます。

立ち上がるトサノミツバツツジ

 見返すと、高丸山への尾根が連なっています。2019年5月16日に登った高丸山の山頂も、トサノミツバツツジがにぎやかに咲く場所でした。いつかこの尾根筋を縦走したいものです。

高丸山までの尾根を望む

 路なき斜面を進みます。岩の上に咲くかわいい株もありました。低くてもシカが食べにくい岩場です。

岩の割れ目のかわいいトサノミツバツツジ

 斜面で薮漕ぎをしながら、力強く咲くトサノミツバツツジの撮影に熱中して、過ごしました。車に戻ってきたら、フロントガラスに山ガールから地図が返却されていました。


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