27.花の名峰 井原山
九州で最も有名なコバノミツバツツジの群生地は、福岡県糸原市と佐賀市の間の背振山地にある、標高982mの井原山です。念願かなって2021年4月30日に、糸原市の水無登山口の駐車場から入り、井原山から標高955mの雷山までの縦走路を往復しました。
駐車場から1時間少しで、井原山山頂まで登れます。谷道には、7月に咲くオオキツネノカミソリの群生地があります。
井原山の山頂の手前で稜線に入ります。960mの元富士山、944mの富士山を経て、雷山まで1時間少しの間は、ずっとコバノミツバツツジの花が咲き乱れています。
ツツジのトンネルには、木漏れ日が差し込みます。
ツツジのトンネルの足元には、花絨毯が敷き詰められています。
あいにくの春霞たなびく日でしたが、縦走路は開けた場所が多く、福岡市の街並みや玄海灘の雄大な景色が一望できます。
笹が刈られた開けた場所には、独立した立派な株があります。
九州の山地のコバノミツバツツジは、ツクシコバノミツバツツジという亜種で、太い枝が多く、1つの蕾に2輪咲きます。蜜標の赤が濃い花ですね。
1時間強で、雷山に到着です。この中腹には、雷山神籠石という古代の山城があり、玄界灘を見下ろす防衛の拠点でした。
『筑前名所図会』の「井原山村」の説明を引用します。
凡此里は谷口狭く奥広し。恰も陶淵明か桃花源記に記せるか如し。山の形、川の勢いを見る所多く、誠に隠者の盤施し仙客の遊術すべき佳境なり。此所山の中豊に広く、谷多くして土地肥饒なり。凶年饑歳には遠近の貧民此山に入りて、葛蕨の根をほりて飢を免れる。他郡に山多しといえども、其利此地に及ばず。然れば此山は人民の命を助ける所なれば、珠玉多きより猶增りて真の宝の山と云うべし。
【現代文訳】
村は、谷口が狭く、山奥に隠れている桃源郷のように美しい。山の形や川の流れの景色に優れ、仙人が住むような理想郷だ。山の懐は広く、土地が肥えた豊かな谷が多い。凶作で飢饉に陥ったときには、周りの村も含めて人々が葛や蕨の根を掘って飢えをしのいだ。筑前には他郡にも山が多くあるが、豊かさはこの地には及ばない。人々の命を助ける場所なので、宝石よりも価値がある本物の宝の山だ。
ということで、井原山は、飢えをしのぐ山の幸となる有用植物が豊富で、コバノミツバツツジ、オオキツネノカミソリを始めとする各種の花が咲き乱れる、理想的な山です。
奥村玉蘭『筑前名所図会』1801 田坂大蔵、春日古文書を読む会校訂 1985 文献出版