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13.野生ツツジの図鑑

 13話は、国内での野生ツツジの本といくつかの種の特徴を、紹介します。山登者、ハイカーがネットに載せている記事には、結構種の間違いがあります。これらを踏まえて、山でよく見かけるツツジの種について説明します。なお近年、被子植物の科名が変わってきています。遺伝子技術が発達して、系統分類、つまり進化の過程でどのように種が分かれてきたのかを遺伝子から分析して、APGという分類体系が定められたからです。下記の文献は、2016年に定められた最新のAPGⅣに従っています。

 最も手ごろな図鑑は、『ツツジ・シャクナゲ  ハンドブック』です。国内の野生のツツジ科ツツジ属が網羅的に取り上げられており、写真と端的な説明が載せられている図鑑です。野生種の分布が地図で示されている点が、現場でわかりやすいです。ミツバツツジ類は17種類、亜種・変種も入れれば25種が掲載されています。著者はこれをいつもリュックに入れて、ツツジ旅に出かけています。ただし、ドウダンツツジの仲間は、ツツジ科ですがツツジ属ではないので、載っていません。

ツツジ科  ドウダンツツジ属  サラサドウダン 奈良県  大台ヶ原 2018年6月3日

 国内の樹木の種を見分けるためには、約1700種についてスキャニングした葉を載せている『増補改訂 樹木の葉』が、花が咲いていない時期も含めて使えるので最適です。初版には、「花や実がなくても、数枚の葉があれば、日本本土でみられる樹木の95%以上の種は、見分けることが可能であろう。」と記されています。増補改訂版では、「主な追加種は、・・・野生種ではミツバツツジ類・・・である。」とされています。ミツバツツジ類は12種類、亜種・変種も入れれば24種が掲載されています。著者はこれを車に積み込んで、ツツジ旅に出かけています。

 より詳しく野生ツツジを知るには、本格的な図鑑の『改訂新版 日本の野生植物 4』を図書館で見てください。ただし、ミツバツツジ類については、『植物研究雑誌』掲載の論文「日本産ミツバツツジ類の分類」(1)と(2)が最先端の研究成果です。ミツバツツジ類には雑種が多いとのことで、さらに(3)の論文で雑種を報告することが告知されています。『増補改訂 樹木の葉』では、この論文の成果をもとに、稀な種を除いて、ミツバツツジ類の端的でわかりやすい説明をしています。著者は生物学者ではないですが、これらの文献を読んで、誰でも編集できるウィキペディアのいくつかのツツジ属の記事を編集しました。ウィキペディアもネット上の図鑑ですね。

 オンツツジは、ミツバツツジの仲間で落葉ですが、木、葉、花ともに大きいです。花は5~6cm程度あり、朱色です。三輪生の三つ葉ですが、花の色と大きさが違うので、ミツバツツジという接尾語がつきません。紀伊半島から、四国、九州南部に、分布しています。

オンツツジ 香川県  公渕森林公園 2020年4月10日

 フジツツジは、半常緑でミツバツツジと似た紅紫の花を咲かせますが、ミツバツツジより背が低く、花は3cm弱と小さく、ミツバツツジの仲間とは違います。オンツツジと似た分布です。花を遠くから見ればミツバツツジに見えますが、葉が三つ葉でないので近づくと違いが判ります。宮崎県の特別史跡公園西都原さいとばる古墳群の高取山には、フジツツジとオンツツジとが植えられて、群生しています。フジツツジは、メンツツジに対して、メンツツジともよばれます。高取山はミツバツツジで売り出していますが、オンツツジは言葉の上でも形や色の標準からもミツバツツジらしくないし、フジツツジが抜けているので、他所に見られない雌雄のツツジの競演の場としてPRしてほしいですね。

フジツツジ/メンツツジ 宮崎県  高取山 2021年3月23日

 ゲンカイツツジは、落葉で、中国地方、愛媛、九州北部、対馬から、朝鮮半島東部に分布しています。これまた、葉が開いていない花だけのときに遠くから見ればミツバツツジ類に似ていますが、近づくと花の縁が丸いのがわかります。

ゲンカイツツジ 広島県  火山 2021年3月26日

 シロヤシオは、本州の太平洋岸や四国の山地に分布しています。愛子さまの家紋ですね。葉が5枚なので、ゴヨウツツジとも言います。落葉で葉と一緒に白い花が開花します。

シロヤシオ 奈良県  八経ヶ岳 2018年6月3日

 ムラサキヤシオは、落葉で、北陸以北の日本海側の山地に分布します。同じ桃紅の花弁のユキグニミツバツツジに間違えられて、山登りの記録にミツバツツジと報告されていることが多いです。花弁の先が丸くて、葉とともに花が展開します。葉が三輪生でなければ、ムラサキヤシオだと考えてください。

ムラサキヤシオ 福井県  取立山 2018年5月26日

 ツツジの花は、5cmを超えるオンツツジは大型、3cm以下のフジツツジは小型、その中間のつつじは中型です。
 学術論文は難しい文で書かれてていることが多いですが、1・2年たつと無料でネットで公開される場合が増えているので、ダウンロードして見られます。

参考文献
渡辺洋一、高橋修『ツツジ・シャクナゲ ハンドブック』2018 文一総合出版
林将之『山溪ハンディ図鑑14 増補改訂 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類』2020 山と溪谷社
大橋広好、門田裕一、木原浩、邑田仁、米倉浩司『改訂新版 日本の野生植物 4』2017 平凡社
南谷忠志、門田裕一、米倉浩司「日本産ミツバツツジ類(ツツジ科)の分類(1)」『植物研究雑誌』第93巻第2号、2018年4月、75–103頁、ツムラ
南谷忠志、門田裕一、米倉浩司「日本産ミツバツツジ類(ツツジ科)の分類(2)」『植物研究雑誌』第94巻第4号、2019年8月、195–241頁、ツムラ

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