🍊② マルチサンプリングの手順 ▶︎ 1010music nanobox tangerine　通称みかん

2024.8.29修正、追記しました。

1010music(テンテン・ミュージック)のサンプラー

nanobox tangerine(タンジェリン)

のマルチサンプリングの手順をシェアします。

複数のベロシティレイヤーでのマルチサンプリングを行う際は事前にtangerineのファームウェアを1.1.6にバージョンアップする必要があります。(2024.8.29現在)

バージョンアップの手順は1010musicのtangerineのページを確認してください。

https://forum.1010music.com/forum/products/nanobox-tangerine/firmware-content-downloads-tangerine/47564-tangerine-1-1-release-version

マルチサンプリングの手順については、事前に公式マニュアルを確認いただいて、この記事はあくまで参考としてお読みください。

▼tangerine公式マニュアル

https://forum.1010music.com/forum/products/nanobox-tangerine/learning-material-tangerine

▼機材紹介は下記記事をご覧ください

【 最初に 】

マルチサンプリングとは…

　→任意の音程範囲(例：C3〜G5など)をひとつひとつサンプリングすること

ベロシティレイヤーとは…

　→サンプリング時に異なるベロシティで複数サンプリングすること(ベロシティの違いで鳴る音色が異なるため)

これらは、サンプリングした音色をよりリアルに演奏するための重要な機能です。

【 サンプリングした音源】

今回はNative Instruments(以下、NI表記)の

ピアノソフトウェア音源「Noire」

のプリセット「NOIRE Pure」のBasic Pureの音色をColorの値を少し下げて

88鍵の音域で実際にサンプリング

した手順をご紹介します。

あくまで筆者の方法ですので、それぞれのやり方に応じて参考にしていただければと思います。

【 マルチサンプリングの設定 】

①tangerineの設定

本体の電源をONにし、画面上部のプリセット名をタップ

Presets画面で、最下段のFileをタップ。

上部左のNewをタップ

プリセット名を任意の名前に変更し、右上部のEnterをタップ

新しく作成したプリセット画面に移動

本体下の▶︎ボタンを押下(以下、同様の時は ▶︎ 表記)

最下段左の１X をタップ

各項目を以下のように設定します：
・Rec Input　→　L＋R（モノラルの場合はLや片側Chに設定)
・Gain　→　+0.0dB（ソフト音源、DAW側で調整するのでここでは0)
・Filename　→　▶︎押下し任意の名前にリネーム（ここではPFに設定)
・Start Note　→　サンプリングを開始する音程（ここではA0に設定)
(＊サンプリング後、ここで設定する開始と終点の範囲以外も音は鳴りますが、音はリアルではないです。ビット落ちのような感じ)

・End Note　→　サンプリングを終了する音程（ここではC8に設定)
・Sample Every　→　1 に設定すると半音ごとにサンプリング。12 に設定するとオクターブごとに 1つサンプリング。リアルなピアノ音にしたいので、１に設定。
・Vel Layers　→　ひとつの音に対して分割するベロシティの数。
今回は５に設定。ひとつの音に対して５種類のベロシティでサンプリングされます。
・Max Vel　→　最大のベロシティの値。この値を上限に、Vel Layersで設定したレイヤー数(分割数)において、これより下のベロシティの値が自動で決められサンプリングされる。(例：ベロシティ75、60、45、30、15)

・End Length　→　サンプリングする時間を秒単位で設定。ピアノの場合、20秒あれば十分に感じます。
・Release Len　→　End Lengthで設定した時間のあと、Noteがoffになってからサンプリングを継続する時間を秒単位で設定。ここでは２に設定。
・MIDI Chan　→　tangerineからNote信号をMIDIで送信する際のMIDIチャンネル。DAW側でOmniに設定するなら値は任意で大丈夫です。ここでは１に設定。
・RecThresh　→　Off 録音(サンプリング)が開始される音量の閾値。ここではoffに設定。

②ソフト音源の設定と音色(ベロシティ)の確認

NIのNoireピアノ、DAW側の設定です。

・最大のベロシティで鳴る時、tangerine側の入力メーターで-1.0dB程度になるように上段右側端のマスターボリュームを調整する
・リバーブ、ディレイはoff
・Colorの値を-20%に調整(音を柔らかくするため)

適当な範囲でピアノの音を打ち込みます。(ここではCとGの音を複数のオクターブで打ち込みました)

その後、

打ち込んだすべての音の
ベロシティを同じにし、
どのベロシティの値が
自分にとってイメージ通りの
音色(雰囲気)なのか確認

します。

ここでは75に設定(自分の好み)。tangerineのMax Velの値にしました。

ライブで柔らかなピアノの音色に限定したい意図

があり、これ以上のベロシティだと、

音色が硬すぎるので、
それを鳴らしたくなかったから

です。

事前にベロシティの値と分割数をいくつか試したところ、自分の好みの音でかつ自然な感じで演奏できるのは下記の設定になりました。

MAX  Vel：７５
Vel Layers：５

この場合、

ひとつの鍵盤につき
最大ベロシティ75を含む、
60、45、30、15の
計5つの音がサンプリング

されます。

ちなみにMAX Velが90でVel Layersが4だと90、64、45、22の4つに分割されます。

自分が一番好きな音色(ベロシティの値)をMAXに設定するといいかもしれません。

補足ですが例えば、リアルなクラシックのピアノの音色をサンプリングしたい場合はMax Velの値を127、Vel Layersを16(最大値)に設定するといいかもしれませんが、サンプリングに要する時間と容量が莫大になります。

またその設定でサンプリングしたとしても、ソフトウェアとまったく同じクオリティにはならず、あくまでもそれに近くなるだけで、その設定にするのなら、結局のところ、tangerineを使わずにソフトウェア音源を演奏した方がいいかもしれません。

サンプルの波形表示や開始位置の編集を
指でドラッグなど操作性もいい感じ

tangerineを使うメリットのひとつは、サンプリングした音という前提で

何かに特化すること

です。

リアルを追求するとか、演奏性や音質を求めるような使い方は向いていません。

どの値のベロシティで
音色をサンプリングするのか

ということは、tangerineに限らず、

サンプリングする際にとても重要な項目

のひとつです。

③DAWの設定

下記はDAWの設定です。SSLチャンネルストリップのプラグインでほんの少しサチュレーター的なものを加えました。これはほぼ音を通すだけです。

上記は好みですのでなくても大丈夫です。ゲインはtangerine側のGainでも調整可能です。

筆者はtangerineへの最大入力レベルを-1.0dBくらいになるように調整しました。(入力レベルが小さすぎるとノイズが目立ちます)

おそらく多少の入力レベルオーバーはtangerine側でリミッターが稼働し、閾値-0.1dBで音割れを防いでくれる感じがしますが、何度か試したところギリギリの入力レベルだといくつか音割れしました。

Gainで入力レベルを調整可能

音声出力はオーディオインターフェイスのサブアウトの3、4chをtangerineへ接続しています。(メインアウト(1、2ch)はスピーカーを接続しているため)

それから左右の音量差を少し小さくするために、ピアノソフトウェア音源のステレオパンを狭めています。

レコーディングではなくライブでの使用を目的としているため、ステレオ感を優先するよりも、音を真ん中に定位させ音をタイトにする意図があります。（これも任意）

④tangerineのケーブル接続

USB-C　→　電源ケーブル接続
MIDI OUT　→　オーディオインターフェイス(サンプリングしたい機器)のMIDI INに接続
LINE IN　→　　オーディオインターフェイス(サンプリングしたい機器)のオーディオアウトに接続
LINE OUT　→　ヘッドフォン、イヤホン等に接続

電源はPCからも供給可能ですが、サンプリング時にノイズが発生するらしく、できるだけ

コンセントから電源供給することをオススメ

します。

【 マルチサンプリング開始 】

tangerineの最下段中央にあるRecordをタップすると

サンプリングが開始されます。

tangerineからMIDIノート信号が送信されソフトウェア音源が鳴ります。

サンプリング中は上段に入力レベル、中央にサンプリングの個数と総数が表示されます。(８８鍵×５ベロシティレイヤー＝４４０)

失敗等、

途中で中断したい場合はStop

をタップします。(その場合は最初からやり直し)

サンプリング完了後はデフォルトの画面にもどり、リネームした名前でマルチサンプリングセットが登録されます。

８８鍵のピアノの音域を５種類のベロシティで

サンプリングするのに
要した時間は約３時間

でした。また４４０個の

サンプルファイル
(WAV　48kHz 24bit)の
合計サイズは2.79GB

でした。

そしてそれをtangerineで

Loadする場合は約１９秒

かかります。

(確認したわけではないですが、サンプリングされた音はおそらくノーマライズされているような気がするので音は若干変化します)

上記画像の最上段にあるプリセット名(ここではNew Preset)をタップすると下記画面に遷移します。

最下段のSaveをタップすると、さきほどマルチサンプリングした音を保存することができます。

必ずSaveを忘れずに行ってください。

Saveしないまま他のプリセットを呼び出したり(Load)、電源をoffにするとサンプリングしたデータが消えてしまいます。

【 サンプリングデータの確認 】

メイン画面(ホーム画面)から本体下の▶︎ボタンを３回押下

下記画面に遷移し最下段のLoadをタップ

マルチサンプリングしたWAVファイル(48kHz 24bit)を確認できます。ホームに戻る時は本体下左端の家のマークのついたボタンを押下。

＊下記のファイル名での説明
1 Noire Piano E-021-030.wav

1 Noire Piano E　→　サンプリングの設定で任意にリネームした名前
021　→　ピッチ　021はA0のこと
030　→　ベロシティの値

【 データを削除したい場合 】

マルチサンプリングしたデータを削除したい場合は、下記のデフォルトの画面上部左端にあるオレンジの横３本線をタップ。

下記の画面に遷移するので最下段のClearをタップすると、さきほどマルチサンプリングしたデータを一括で削除可能です。

また下記画面から最下段のFileをタップすると

下記画面に遷移します。現在選択中のプリセットで使っていないサンプリングデータがあり、それを削除したい場合は、左中央のCleanをタップすると、未使用のデータを削除可能です。

その下のDeleteは現在選択中のプリセットとそれに使用しているデータを一括して削除することができます。

【 マルチサンプリング後の作業 】

マルチサンプリングが終わった後、必要な設定を行います。

下記はサンプリングが完了し、データの保存が終わった画面です。

さきほどサンプリングしたデータをタップし選択します。(上記でいうとPFのところ)

本体最下段の▶︎を押下すると下記の編集画面に遷移します。

LEVEL　→　マルチサンプリングした音色の出力レベルの一括調整
PITCH　→　ピッチ修正　
FILTE　→　左に回すとローパス、右だとハイパスフィルターが適用されます
RES　→　レゾナンス　不要なら０%にします　
ENV　→　ADSR　
LFO　→　LFO
Pos　→　Loop Modeやリバースの設定
Conf　→　コンフィグの設定

Confをタップ

Launch ModeをPianoに設定

Poly ModeをPoly Xに設定。(ポリフォニック(同時発音)数)

InterpはNormalを選択

上記画面内のMIDI InをTangerineのMIDI INに接続した機器(例：MIDIキーボード)のMIDIチャンネルと同じにする。

tangerine本体下の◀︎を押下し下記画面に遷移させ、Envをタップ

ツマミを回し最下段の

VEL Amountを選択する

演奏時にベロシティの強さによる音量のダイナミクスが欲しい場合はVEL Amountを上げるといいです。

サンプリング時にベロシティレイヤーを１に設定した場合はこのパラメータを大きくすることでベロシティによる音量変化をつけることができます。

この値が０%のままだと、例えばMIDIキーボードでサンプルを演奏した場合、サンプリングで設定した最大値のベロシティ(MAX Vel)でしか音が鳴りません。

ベロシティレイヤーを５つ等に設定した場合は、ベロシティによる強弱が自然とつけれますので、このパラメータは０％でいいと思います。

ベロシティレイヤーについての補足ですが、公式マニュアルに注意書きがあります。下記に要約します。

ベロシティレイヤーでサンプル間のデータを補完することはできません。たとえば、33、66、100の3 つのベロシティレイヤーを含むマルチサンプル を録音し、それをベロシティ 60、66、 75で演奏すると、ベロシティレイヤー 66のサンプルが鳴ります。

つまり、

弾いた時のベロシティに
一番近いベロシティレイヤーの
サンプルが鳴る

ということです。

上記の例では、演奏時のベロシティが60だからといって、実際に鳴るベロシティも同じ60ではないということ。ベロシティが33、66、100の3つのサンプルしかないので、60に一番近い66のベロシティレイヤーのサンプルが選択され鳴るということです。

以上、「マルチサンプリングの手順」でした。

もし不明な点等がありましたらコメントかDMでメッセージしてください。

【 最後に 】

はじめてマルチサンプリングを行った際、ベロシティレイヤーでの演奏がうまくいかず、かなり悩みました。(原因はファームウェアが古いことでした)

VEL Amountの値を調整し上手くいったと思い込んでいた時に、1010musicの公式サイトを確認したら、まったくの勘違いだったことに気がつき愕然としました。

その後、ファームウェアのアップデートを行い、5つのベロシティレイヤーで再びマルチサンプリングを行い、うまくいきました。

演奏して音を出した時にもううれしくてうれしくて。。。

他にもお気に入りのソフトウェアの音色をいくつかサンプリングしました。

ソフトウェアが異なる音色を
ひとつの機材に統合

できること、しかも

ポリフォニック！！！

でライブで使用できることに感動しています。(音質がよく、しかも超小型軽量！)

tangerineは、リアルを追求するというよりも、

サンプリングした音に
特化して使用することで、
音楽制作のクリエイティブさが
一層広がるすばらしい機材

だと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。

- 付録

tangerineのプリセットに

6ベロシティレイヤーで
88鍵マルチサンプリングされた
「1010 Grand」というピアノ

が収録されています。

サンプルは、ノートの番号ごとに02x〜10xの9つのフォルダに格納されています。

以下は、「1010 Grand」のサンプルの情報を表にしたものです。もしよかったらサンプリングする際に参考にしてください。

#　→　項番
note　→　ピッチ　　
num　→　tangerineでマルチサンプリングを行う際に対応する番号(WAVファイルにも表記)
Dir　→　格納されているフォルダ
sec　→　サンプリング時間(単位秒)　ただし20以外のnoteはベロシティによって長さが変わります