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Elektron Model:Cyclesの魅力と残念な点

Elektronのグルーヴボックス「Model:Cycles」についての記事を多く書いていますが、今回は切り口を変えて

なぜModel:Cyclesを
気に入って使っているのか

について独断と偏見で書いていきます。

Model:Cyclesを買おうかどうか迷っている方にも参考にしていただける内容にしようと思います。

(Model:Cycles:以下、m:c表記)

まずはm:cとはどういう機材かについてと、ざっくりとしたスペックを書きます。詳細はElektronの公式サイトとマニュアルをご確認ください。

【 Model:Cyclesとは 】

1998年スウェーデンのヨーテボリで設立された楽器メーカーElektron2020年2月28日にリリースした機材。

ドラムとシンセサウンド用の
6つのサウンドエンジンと
6トラ​​ックのステップシーケンサーを
搭載したFM音源ベースのグルーブボックス

です。

m:cを使って筆者が制作した曲はこんな感じの雰囲気です。

下記はElektronの公式サイトから抜粋して引用しました。

ハードウェアスペック:

・6 × ベロシティセンシティブパッド
・1 × 1/4 インチ ステレオヘッドフォンジャック
・2 × 1/4 バランスオーディオ出力ジャック
・高速USB 2.0 Micro Bポート×1
・3.5 mm デュアル極性 TRS MIDI 入力、出力/スルー ジャック
・128 × 64ピクセルのLCD画面
・48 kHz、24ビットD/Aコンバータ
・電源入力: センタープラス 3.5 × 1.35 mm バレルジャック、5 V DC、1 A
・バッテリー入力: センタープラス 5.5 × 2.1 バレルジャック、4~10 V DC
・幅 270 × 奥行き 180 × 高さ 39 mm (ノブと脚を含む)
・重量: 約0.80 kg

同梱品:
・ACアダプター PSU-4b
・マイクロUSBケーブル
・MIDI アダプター (5 ピン DIN から 3.5 mm TRS ミニジャック) x 2

6つのサウンドエンジン(マニュアルにはマシンと記載)とは下記です。

上記はToneに設定した時の表示

・KICK → キック音
・SNARE
 → シンセサイザーの音からシャープなスネアまで幅広い音
・METAL
 → ハイハットなどメタリックな声色
・PERC
 → パーカッション音色
・TONE
 → シンセリードなど2オペレーターのFM構成
・CHORD
 → 和音

これらのマシンを6つのトラックに自由に割り当てて音を編集し、シーケンサーに打ち込んで曲を作ります。

【 m:cでの楽曲制作の流れ 】

ざっくりとした説明ですが、以下図の①〜④の順に作業をして曲を作り演奏します。

【 m:cの魅力的なところ 】

筆者が個人的に気にいっているポイントは下記になります。

① 内蔵サウンドとエフェクトのクオリティが高い
② 音色のエディットが容易
③ 打ち込みのしやすい多機能なシーケンサー搭載
④ 軽量、コンパクト、洗練されたデザイン
⑤ ライブパフォーマンスしやすい
⑥ プロジェクトファイルや音色の管理が容易

ひとつずつ説明します。

① 内蔵サウンドとエフェクトの
クオリティが高い

●音作り

昔からシンセサイザーに搭載されてきたFM音源は一般的に音作りが難しいです。

しかし、m:cの音色は極端にエディットしても破綻しないどころか、実用的な範囲に限定されているため、

とにかく扱いやすい

です。

フワッとしたパッド音、シーケンスフレーズに使えそうなきらびやかな音、厚みのあるシンセベースなど、音色作りだけでも十分楽しいです。

●エフェクト

サチュレーション的なディストーションがあるものの、基本はリバーブとディレイを各トラックにセンドでかけるだけです。

なので、エフェクトで音を作るというよりも、モジュレーションやフィードバックを駆使しての音作りがメインになります。

リバーブとディレイは内蔵音源に特化されてチューニングされているので、心地いいサウンドスケープを作ることが簡単にできます。

そして、マスター出力はS/N比がいいのでとても綺麗です。

② 音色のエディットが容易

m:cでの音色エディットは階層をいくつかもぐってパラメーターを変更するというスタイルではありません。

例外はあるものの

本体のツマミごとに
ひとつのパラメーターが
割り振られているため、
音作りが非常にわかりやすく、
操作しやすい

です。

筆者はDigitaktも曲制作で使用していますが、それと比べてもm:cの音作りのしやすさや操作性は特筆すべきものがあります。

そのため曲のアイデアを思いついてからすぐ形にできたり、ライブパフォーマンスがしやすいです。

③ 打ち込みのしやすい多機能なシーケンサー搭載

m:cを購入した理由は大きく二つあります。ひとつは内蔵音源が自分の好きな雰囲気だったこと、もうひとつは

シーケンサーが非常に優れている

ことです。

MIDIキーボードを接続するという前提ですが、ステップ入力やリアルタイム入力のしやすさ、打ち込んだステップ(=トリガー)の編集のしやすさ、パラメーターロック、CHANCEなどたくさんの機能が搭載されています。

とくに

パラメーターロックは
曲作りの可能性を広げてくれる

素晴らしい機能です。

この機能があると無いとでは、曲制作においてアイデアの実現性が雲泥の差になります。

パラメーターロックとは…

シーケンサーに打ち込んだステップ(=トリガー)ごとに音のパラメーター、音色さえも変更できる機能

m:cはElektronの製品の中では廉価版になりますが、MIDIの設定がしやすく、外部機器との同期など拡張性もあります。

④ 軽量、コンパクト、洗練されたデザイン

m:cを購入した理由のひとつは筐体デザインです。

広げた手のひら二つ分のコンパクトなサイズ

に、北欧プロダクツのカラーリング、フォント、ツマミやパッド、ボタンのサイズなど内蔵音源と同様にデザインが洗練されています。

また重さは約0.8kgですので、

非常に持ち運びしやすい

です。

モニターディスプレイは小さいものの、操作しづらいことはなく、細かな設定はしやすいです。

アイコンがかわいい点もElektron製品ならではのユニークなところです。

アイコンにユーモアがあるのもm:cのいいところ
ドット絵のキラキラなアイコン

⑤ ライブパフォーマンスしやすい

ボタンの配置や大きさは合理的

なため、リアルタイムでのパフォーマンスがとにかくしやすいです。

具体的には、ボタンを押すことで変更したパラメーターの値を瞬時に元の値に戻したり、変更した値がディスプレイに表示されたり、打ち込んだパターンに簡単にバリエーションをつけることができたり、

演奏しながら
その場で音を思いつくまま
変化させることが簡単

にできてしまいます。

事前に音や演奏を十分に作り込むことができ、かつ、シーケンサーを走らせながらさらに音を変化させることができます。

DAWと比較するとできることが限られますが、

音楽を非常にクリエイティブに
表現できるすばらしい機材

です。

⑥ プロジェクトファイルや音色の管理が容易

PCにUSB接続してTransfer(Elektron公式アプリ)経由でプロジェクトファイルや音色の保存や管理が簡単にできます。

Transferを使うことでプロジェクトの管理は簡単にできます

アプリ内でプロジェクトファイルを消したり、m:cにインポートしたり、プロジェクト名を変更したり、スムーズに作業ができます。

プロジェクトファイルのバックアップがすぐにできるので、あと先考えずに思いっきりm:cで曲作りができるので安心感があります。

m:cへのインポート手順は下記の記事をご覧ください

以上が魅力的な点です。

次は残念な点を筆者の独断と偏見で書きます。忖度(そんたく)せず率直な意見です。

【 m:cの残念なところ 】

① 初心者向けではない
② パッドボタンのレスポンスがよくない
③ ポリフォニックで打ち込めない

ひとつずつ説明します。

① 初心者向けではない

魅力的なポイントをたくさん書きましたが、下記に当てはまらない初心者の方にはm:cはオススメできません。

・これまでにシンセサイザーとシーケンサーを少しは触ったことがある
・ある程度、コード進行やリズム(1小節に4分音符はいくつとか)、アレンジのことが分かる
・通常のポップスではなく、テクノなどのミニマルミュージックを基本とした音楽を作りたい
・専門用語の多いマニュアルを読むのが苦ではない

●トリガーキーついて

トリガーキーとは、m:cの最下段に1〜16までの表示がある音を打ち込むためのボタンです。

少なくともシンセサイザーやシーケンサーを使ったことがあれば大丈夫と思いますが、m:cを買う際はミニ鍵盤でもいいので通常のMIDI端子がある簡易な

MIDIキーボード(KeyStepなど)を
用意することをオススメ

します。

上記はArturiaのMIDIキーボードKeyStep
背面に通常の5ピンのMIDI OUT端子がついています

m:c本体最下段に並んでいるステップを入力するための

16個のトリガーキーは
演奏にも使えるのですが、
見た目が鍵盤の配置になっていない

ので、例えば打ち込む時に、どこがCやDとか音が非常に分かりにくいからです。

MIDIキーボードのMIDI OUTからm:cのMIDI INにMIDIケーブルを接続し、m:cのMIDIの設定のIn Chanの中のAuto Inの値(MIDIチャンネル)とMIDIキーボードの送信チャンネルの設定を同じにすると、m:cのアクティブなトラックをMIDIキーボード側で自動で認識するので打ち込む時に便利です。

*MIDIキーボード側で送信チャンネルを随時変更しなくても、m:c側で好きなトラックをアクティブにするとそのトラックの音色をMIDIキーボードで演奏できます(打ち込める)

スパナのボタンを押下しMIDIの設定へ
In Chanの設定へ
Auto Inの設定を変更 上記ではMIDIチャンネルを10に設定 MIDIキーボード側も10に設定するとm:c側でアクティブなトラックを選択すると都度MIDIチャンネルを変更しなくても、MIDIキーボード側でアクティブなトラックを演奏可能

他には下記のようなこともあります。

・Attackのパラメーターがない

 → LFOのWAVをENVにし、DstをDIST(VOLUME)にし、Depをマイナスの値にして制御可能です。

下記記事の「2. パッドなどのアタックをLFOで遅くする」の項目をご覧ください

・LP/HPフィルターがない

 → フィルターでの音作りはあきらめて、コントロールできるパラメーターを駆使して対応(CHORDマシンはContourのパラメータでカットオフは変更可能)

・昼間の屋外ではLEDの視認性が悪い

 → 解決策はないかもしれません(いい方法があれば教えてくださいm(__)m)

・トラック数が6つしかない

 → パラメーターロックを駆使して擬似的にトラック数を増やすことで対応可能です。

・FM音源の音作りに限界がある

 → 制約の中で自分の表現を探し求める楽しさがあります。

・パラアウトがない

 → Outputはステレオアウトのみのため個別にトラックをDAW等へRecできません。(この記事を執筆の時点ではoverbridgeがm:cには対応していないs)

トラック制作後は2mixのままDAWでマスタリングする必要があります。ある程度の割り切りが必要かもしれません。

② パッドボタンのレスポンスがよくない

m:cのトラックを選択するボタン(T1〜T6と記載)のレスポンスが個人的にいまいち反応がよくありません。

少し強めに押せば問題ない

のですが、例えばMPCのパッドと比べると品質は悪いと思います。

そもそもドラムパッドではないと思うので、こういうものかという気もします。


③ ポリフォニックで打ち込めない

CHORDマシンを使うことで擬似的なコードは鳴らせるのですが、基本的に

和音を打ち込むということはできません。

ですので、フレーズを考える時は常に単音で打ち込む必要があります。別々のトラックで単音のフレーズを鳴らし、それらが同時に鳴ることで結果的に和音にはできますが、トラック数やアレンジなどで工夫がいります。

あと先考えずに複雑なことをしようとすると、トラックが6つしかないので、事前にアレンジを整理することをオススメします。

上記と矛盾するかもしれませんが、何も考えずに直感的に打ち込んでいき、結果、

予想外の形になるのも制約のあるハードウェア機材ならではの面白さ

でもあるので、

好きに作っていくのが一番いい

と思います。

その過程でm:cの使い方がわかったり、気づきがあったり有益なことがたくさんあると思いますので。


以上、Model:Cyclesの気に入っている点、残念な点を独断と偏見でお伝えしました。

【 m:cでの楽曲制作のおもしろさ 】

ポップな要素を基本にm:cを使って曲を作っています。loopしてもできるだけ飽きずに長く聞くことができる

フレーズやグルーヴを
作り込んだ上で、
そこからリアルタイムに
パラメーターを変えて
曲を崩していく

のが、筆者にとってm:cの最も「おもしろい」と感じる点です。

ポップでありつつ、
意外性を取り入れた
音楽を表現できる

ので、使う人に応じて色々な可能性を発揮できる機材だと思います。

【 おわりに 】

個人的なことになりますが、大学生の頃にYAMAHA SY85の内蔵シーケンサーに音を打ち込んで、SU10に入れた音を同期させたりしながら何十曲も作っていた頃がありました。

当時制作したカセット

その後、KORG Tritonの内蔵シーケンサーにグレードアップし、KORGのHD MTR D3200をマスターにして曲制作を続け、2015年ようやくDAWのLogicに移行しました。

それ以来、途中でMPC1000の後継としてDigitaktは買ったものの制作の中心を担うことはなく、DAWにどっぷりしたが、

2024年からm:cでの
曲作りの面白さにはまっています。


DAWはプラグインをベースに数値を追い込んで曲を作るのが基本になっていましたが、

何か物足りなさ

を感じていました。

そんな中、偶然に面白そうなハードウェア機材が目に止まり、それがm:cでした。

DAWのように何でもできることはなく、痒いところに手が届かないことの方が多いですが、

あえて制約のある中で
自分の作りたい音を表現するのは、
DAWでは満たされなかった
音楽制作のワクワク感に溢れている

ような気がしています。

m:cは自分にとってパーフェクトな機材ではないですが、

音楽の表現の可能性を
広げてくれる魅力的な楽器です。

もしm:cに興味があるようでしたら、一度挑戦してみるのも面白いと思います。

作り手のポテンシャルを
引き出してくれる可能性

もあるかもしれません。^^/


下記の演奏動画はm:cを使ってシネマティックなDeep Houseに挑戦しました。色々と盛り込みすぎな感は否めませんが(笑)もしよろしければ、参考までにお聞きください。

お読みいただき、ありがとうございました。

▼筆者の自己紹介

m:cを使った曲制作のコツについて

分かりやすい内容で
有料級の記事

を書いています。ぜひお読みください。


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