泣くほどやめたかったこと
私が泣くほどやめたかったこと。それは娘の習い事だった。
2024年3月まで、10歳の娘は団体競技に全力を注いでいた。
全国大会に2回出場した。
「可愛い」というだけで、私の独断ではじめた習い事。まさか6年も続けることになるとは思わなかった。5年目に選手コースに入った瞬間、生活が競技一色に染まった。
とにかく親の負担が大きい。親の仕事は送迎だけでは済まず、大会のエントリーや引率、衣装やメイク決め、会計管理、練習場予約……熱心な親御さんは3時間ある練習もずっと見学。私には負担が大きすぎた。
特につらかったのは、日々の練習を親がフォローしなければならなかったこと。レッスン後動画を見て、できていないところを自宅で補う。2時間も子どもにつきっきりで練習させる日々。
レッスンのない日には、親たちが練習場を予約して自主練習をする。大会前には週7日、練習があった。
親のやる気が子どもを超えている空気が、私にはとてつもなく苦痛だった。いわゆるステージママ。子どもたちが勝つことに一生懸命になっているママたちの姿を見て、冷めた気持ちになる自分がいた。私の教育スタイルとは全く違っていた。でも団体競技だから足並みを揃えなければならない。まわりに迷惑をかけないように、頑張るしかなかった。
自主練習では、ママたちから怒号が飛んだ。「そこ違う!もっとこうして‼︎やる気あるの⁈」と。子どもが泣きながら練習する、私には耐えられない空間だった。
何度も泣きながら「やめたい」と言ったのは、私のほうだった。
それでも娘は続けたがった。「大会に出るのが楽しいから、練習も頑張れる」と言う娘。
娘は、怒られるからではなく、自ら進んで一年間1日も休まず筋トレ、練習をコツコツ続けた。偉すぎるほどに。
たった数分の競技のために数百時間を費やす日々。親子で費やした膨大な時間の重みを、今でも忘れない。
大会の日は、早朝の出番に合わせて前泊することも少なくなかった。親が何十分もかけてヘアメイクを施し、練習場を確保し、大会前のアップをさせる。大会で良い結果が得られれば親が泣くし、悔しい結果でも泣く。私はアツイ親御さんたちを前に冷めていた。自分たちがやれば良いのに、とかげで思った。
実は自分も学生時代に同じ競技をやっていた。けれど、私の知っている競技とは違うなと、違和感を抱えていた。もっと楽しんでやるものではなかったっけ?
親子ともに生活が競技に侵食されて、疲れきった日々。学校は休んでもレッスンは休まない。練習が予定より長引いて帰宅が22時を過ぎることもしょっちゅうだった。息子には寂しい思いをさせた。旅行にもいけない競技中心の生活。
思い出すだけでつらい。泣いちゃう。
それでも好きだからとコツコツ頑張る娘を応援したかった。
この生活が続いていくのだと諦めて、覚悟を決めていた。
ところが、切り替えの時期に娘はあっさりと言った。
「自分の時間が欲しいから、次の大会で終わりにする」と。
え?ほんとに?いいの???
娘はやり切ったのだと思った。
チームのみんなから「もったいない」と親子で引き止めてもらった。毎日のように顔を合わせる仲間だし、価値観や子育てのスタイルは違えど、尊敬する大好きな人たち。人間関係で悩むことは親子とも一度もなかった。娘も大好きな友達に引き止められて決心が揺らぐかと思ったが、最後まで変わらなかった。
3月末で競技をやめて、今、ゆっくり呼吸できている気がする。やめることができて本当に嬉しい。と何度も感じた1年だった。娘、素晴らしい決断をありがとう。
旅に出る余裕ができた。旅に出まくろう。
子どもには、誰かにジャッジされるのでなく、自分で自分をジャッジするような人生にしてほしいな、と思う。
娘の「やりたい」を応援してきて、得たものも確かに多くあった。そこでの出会いは一生ものだし、親子で頑張った経験は、それぞれ確実に自信になっている。
何かに夢中になるのは確かに素敵なことだ。でも、心に余裕を持つことも同じくらい大切だと思う。そのバランスを取るのは難しい。