商標権の更新時に確認・検討しておくべきことは?
商標権は、10年ごとに更新することで、半永久的に権利を維持できます。
毎年(あるいは定期的に)権利の棚卸しをやっていればよいのでしょうが、そこまで管理できていないこともあるでしょう。商標権の更新タイミングでは、単に更新手続きを行うのではなく、棚卸しを含めて社内の状況を整理しておくのがよいと思います。
ここでは、商標権の更新時に留意すべき点などをまとめておきます。
確認事項
(1)管理部署・担当者の確認
まずは、この商標を管理している事業部門を確認します。
出願時や前回の更新時から10年が経つと、例えば事業部門での管理部署が変更されているかもしれませんし、当時の担当者が異動・退職しているかもしれません。
このような情報をすでに管理・把握できていればこれらの確認は省略していただけますが、そうでなければ、まずは社内での管理部署と担当者を確認して、権利維持要否を問い合わせる準備が必要になるでしょう。
(2)使用状況の確認
次に、先ほど確認した管理部署・担当者に、商標の使用状況を確認します。
具体的には、まずは使用しているか否か、使用している場合にはその使用証拠の管理方法などを確認します。担当者の「商標を使っているよ」という一言で済ませるのではなく、どの事業(商品・サービス)で、どのように使用しているのかをしっかり確認しています。
というのも、商標権は、継続して3年以上使用していない場合には、不使用を理由に取り消すことができるからです(商標法50条)。この請求を受けた商標権者は、使用証拠を提出することで、取り消しを免れることができます。
つまり、仮に不使用取消審判を受けた場合でも、権利を維持できるか否かの観点から定期的にチェックしておくのが望ましく、少なくとも更新のタイミングではその確認をしておくのがよいと考えます。
更新の方針
使用状況を確認できれば、権利を維持する(=更新手続きを行う)か否か、事業部門や広報部門などと検討・判断することになります。
費用を気にしなければ、すべて権利を維持しておいてもよいのでしょうが、費用対効果などの観点から、権利の要否を見直すことになろうかと思います。知財担当者の観点からは、下記の方向で考えるとよいのではと考えています。
(1)商標を使用している場合
当然に更新します(それ以外の選択肢はないと思います)。
誰の目から見ても使用していることが明らかであれば、不使用取消審判の請求を受ける可能性は低いと思いますが、不使用の指定商品・指定役務があれば、その商品・役務に対して不使用取消審判の請求を受けるかもしれません。
更新の意思を確認する際に、どの指定商品・指定役務に使用しているのか、仮に請求を受けた場合に使用証拠を出せるのかもあわせて確認し、明らかに不使用と思われる商品・役務がある場合には取消リスクがあることも伝えるようにしています。
(2)使用していないが、使用見込みがある場合
基本的には、権利を維持しておく方向で考えます。あわせて、現在の状況や具体的な使用開始予定などを、事業部門や広報部門と確認しておくのがよいと思います。仮に不使用取消審判の請求を受けた場合には、「登録商標を使用していないことについて正当な理由があること」を立証する必要があるためです。
このケースの一例としては、事業化を見据えて商標権を取得したものの、諸事情により事業化が遅れており、使用には至っていないというケースです。事業化の状況(遅れている原因など)を確認しておけば、「登録商標を使用していない正当な理由」を主張できる可能性は高いと思います。
ときどき、商標権を保有していたことを事業部門が知らなかったケースがあります。かつて商標権を取ったものの、その後担当者が退職したりなどで使用には至らず、今のメンバーはまったく認識していなかった場合などです。現在の担当部署に問い合わせた結果「いい商標がある」となれば、今後の使用を検討してもらい、その結果に応じて権利を維持するかどうかを判断しています。
(3)使用しておらず、かつ、使用見込みもない場合
せっかく商標権を取得しているので、今後の使用可能性を見込んで、維持しておくのも一案ではあります。ただ、当面使用する可能性がないようであれば、事業部門や広報部門とも相談のうえ、更新を見送る方向で考えるようにしています。
商標は、使用して初めて信用が蓄積します。使用していない商標は、信用が化体しないため、保護すべき法益が乏しいと考えます。登録から10年間使用されていなかった商標が、この後の10年間で使用される可能性はあまり高くないと思います(会社によって違うかもしれませんが…)。
また、権利を維持したからといって、第三者による同一または類似商標の使用を阻止できるのかについても懸念があります。
例えば、同じような商標(名称・ロゴ)を使用したいと考えた第三者は、事前の商標調査をしたり商標出願をすることで、当社の登録商標を認識するはずです。そして当該第三者は、不使用取消審判によって当社商標権を取り消せば、商標登録を受けることができます(54条2項参照。商標権が消滅してしまえば、もはや4条1項11号における「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標」に該当しなくなります)。つまり、権利を維持したからといって、同一または類似の後願を排除できるとは限らないということです。
もちろん、権利が取り消されると決まったわけではないので、事業部門・広報部門が維持しておきたいというのであれば、それを否定するものではありません。ただし、不使用の期間に取り消されるリスクがある(審判請求を受けた場合には太刀打ちできず、取り消しを受け入れざるを得ない可能性が高い)ことは、しっかり認識してもらうようにしています。