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中間対応で考えていること|①1回目の拒絶理由通知の場合

審査官からの拒絶理由通知に対して、どのように応答するかを考えるのは、非常に悩ましいです。チャレンジの要素を含んだ出願だったはずなのに、できるだけ広い権利範囲を維持できるように粘りたくなることもしばしばです。また、拒絶理由のない請求項がある場合には、このまま限定して傷を残すことなく特許査定を狙うほうがよいのか、迷うこともあります。

各社の出願戦略によっても違うでしょうし、ケースバイケースとしか言いようがないかもしれませんが、何らかの判断指標は欲しいところです。
どこまで参考になるかわかりませんが、私の考え方をまとめておきます。


はじめに

審査官が指摘した拒絶理由は、決定事項ではありません。このままの状態なら「こういう理由で拒絶査定を出しますけど、それでいいですか?」と確認されているに過ぎません。
そのため、審査官の認定におかしな点があれば、その旨を説明することができ、主張を審査官に受け入れてもらうことができれば、拒絶理由がなくなって特許にしてもらうことができます。また、審査官の認定が正しければ、権利範囲を見直す(クレームを補正する)ことで、拒絶理由を解消することができます。

特許事務所のコメントを参考にしながら、どのように対応するのがよいかを検討・判断することになります。

拒絶理由に対する応答方法

出願時には、「どんな拒絶理由が通知されそうなのか」をある程度想像していたはずです。その方針をベースに応答方針を検討することとし、まず1回目の拒絶対応では、安易な限定はしないようにしています。
そのために、まずは拒絶理由通知と引用文献を読み込んで、審査官の主張に納得できるかどうか、じっくり検討します。その結果、審査官の主張(拒絶理由)が全体的にはもっともだと考えれば、100%納得いかないところがあったとしても、多少の細かい点には目を瞑って、権利範囲を限定する方向で考えます。一方、審査官の主張はおかしいと考える場合には、その点をしっかり争います。

(1)拒絶理由の確認

まず前提として、出願時には、どのような拒絶理由が来そうか、ある程度の見込みを立てています。今回の拒絶理由が、出願時の想定通りの内容なのか、それとも、想定外の内容なのかを確認します

想定通りの内容であれば、出願時に検討していた方針に沿って対応します。とはいえ、出願以降の状況等を改めて確認したうえで、必要であれば対応方針を見直すようにしています。
例えば、下位クレームを落としどころとして考えていた場合でも、事業化・製品化の方向性が変わってしまったために、十分な落としどころとはならなくなっている場合があります。反対に、拒絶理由を受けたときに備えて、進歩性を主張するための仕掛けを用意していたとしても、事業化・製品化の可能性がなくなったために、無理に争うことはせず、拒絶理由のない下位クレームに限定しても差し支えない場合もあります。

やや問題となるのは、想定外の拒絶理由だった場合です。
この場合には、拒絶理由通知をじっくりと読み込んで、「審査官はどういうロジックで拒絶理由を構築しているのか」を確認します。拒絶理由通知は、丁寧に説明されていることが多いとは思うものの、なぜ進歩性が否定されるのかを理解できるだけの十分な内容が書いてあるとは限りません。こういったケースでも、自分が審査官(今回の拒絶理由を起案した担当審査官)になったつもりで、できる限り、審査官の頭の中を再現することを目指します

(2)審査官の認定に、反論できそうか?

審査官の認定で誤っているところがあれば、その点に対してしっかり反論するようにします。反論が認められれば、拒絶理由がなかったことになり、その結果、特許性が認められることになります。

具体的な反論ポイントとしては、例えば、本願発明を誤解している(正しく認定してもらっていない)場合や、引用発明の認定に誤りがある(引用文献に書いていないことが書いてあるかのように認定されているなど)場合などがあります。このあたりの技術的な内容確認は、必要に応じて発明者にも確認しながら、精緻にやったほうがいいと思います。

また、進歩性判断についても、多少無理のある認定と感じることもあります。担当弁理士からのコメントが参考になると思いますので、不明点があれば積極的に質問するなど、納得のいくまで確認したほうがよいと思います。

なお、審査官の認定の中で、細かい部分で誤解があったとしても、全体的な論理構成については首肯できる場合には、そのような細部に対して反論しても拒絶理由を覆すには至らないでしょう。
この場合には、審査官の認定を受け入れて限定等を加えつつ、審査官の誤解を正すための説明を意見書に加えるようにしています。

(3)補正の要否

「拒絶理由に対して争うこと」と「補正の要否」は、分けて考えるようにしています。

もちろん、補正しなくて済むのであれば、補正したくはありません。例えば、引用文献の解釈を誤っている場合や、本願発明の技術的意義を明らかに理解されていない場合には、補正することなく、意見書のみで反論する方向で考えます。

しかし、拒絶理由があると審査官が判断した背景に、こちら側の要因があることもあります。このような場合に、審査官に本願発明を正しく理解してもらうための補正(誤解を正すための補正)や、より適正な権利範囲になるような補正は、決して悪いものではないと考えています。
例えば、審査官に本願発明の内容が正しく伝わらなかった原因が、クレーム表現にあるならば、クレームを補正してよりわかりやすくしたほうが審査官も納得しやすいと思います。また、「こちらでは想定していなかった何か」を包含するクレームだったために拒絶理由を包含していた場合も、要するに「広すぎた」わけですから、適正な範囲に補正しておくほうがよいと思っています。意図して広げていた部分は明細書でサポートしているはずですが、意図せずに広すぎた部分は明細書でサポートされている可能性は低いので、仮に登録になったとしても、無効理由を包含することになりますので、広い権利範囲にこだわる必要はないと思います。

注意点

審査官とのキャッチボールになっているか?

審査官は、世の中一般を基準に、本願発明を簡単に思いつくことができたか否かを論じています。発明者の中には「私がこんなに苦労して発明したのに、審査官はなぜ認めてくれないのか」と思う方がいらっしゃいますが、決してそうではありません。その点をしっかり区別して、発明者と審査官の間を繋ぐ役割を意識するのが良いと思います。

山登りで例えると、本願発明という「山の頂上」に到達するのが、世の中を基準に考えたときに困難なのかどうかを問うています。「あなた達がどういう思いをしたかに関係なく、世の中を基準として簡単だと言えるのであれば特許にはできない」ということです。
例えば、私たちが、崖を登ったり足場の悪いところなどを通って、必死の思いをして、ある山の頂上に辿り着いたとしましょう。これまで誰も頂上まで到達したことがなければ、審査官はその偉大さをすんなり認めてくれるはずです。しかし、実はその山には他にもいくつかのルートがあって、そのうちの一つに、子供でも歩ける舗装された道が整備されていたとすれば、「あなた達が苦労して登ってきたのはわかるけど、一般的には、この山の頂上に到達するのは難しくない」と判断されてしまうのです。特許権が与えられるということは、その技術を独占できるということですから、みんなが簡単に到達できる山の頂上を、普通の人とは違うルートで登ってきたという理由で独占されてしまうと、みんなが困ってしまうからです。

この場合には、私たちが登ってきたルートの過酷さをいくら説明しても、審査官を納得させることはできません。「子供でも歩ける道がある」という審査官の理屈に対する反論ではないからです。そこで、例えば「その道は夏の特定の時期しか使えない」や「その道は数年前の地震のせいで今は使えなくなっている」のように、審査官が考えているルートでは頂上に到達できない理由を説明したうえで、だからこそ違うルートが必要とされていることを説明する必要があるのです。
山の頂上を独占するのではなく、その特定のルートだけを独占するように権利化の方向性を変えると考えれば、イメージしやすいかと思います。

本願発明に戻ると、「なぜ審査官の論理が成り立たないのか」という観点から、反論ポイントを検討するということになります。審査官が主張するような理屈は、机上ではそうかもしれないけれど、実は引用発明には技術的な課題があって使えないとか、本願発明とは技術的に相性が悪いので使えないとか、そういった説明(阻害要因など)が必要なのです。

特許にするかどうかを判断するのは、当たり前ですが、私たちではなく審査官側です。つまり、審査官の指摘に対して「言いたいことを言う」ではなく、「審査官が聞きたがっていること」を説明しないと、いくら説明してもその主張は届かないということになります。
反論しようとしている内容が、審査官とのキャッチボールになっているかどうか、冷静に考えるようにしたいです。

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