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Piano Man/Billy Joel(1973)


「Piano Man」のイラスト

酒場と歌の話です

酒場と歌といえば、スナックの美人ママさんに歌ってもらう岩崎宏美の「聖母(マドンナ)達のララバイ」が、僕たち世代のサラリーマンには、お馴染みの曲ではなかったでしょうか。

    この都会(まち)は、戦場だから
    男はみんな傷を負った戦士
    どうぞ心の痛みをぬぐって
    小さな昔の子供に帰って
    熱い〜胸に~甘えて~♪ 


猛烈に働いて、辛いことやしんどかった事、色々な思いでいる時、「ねぇ、ママあの歌、歌ってよ?」とリクエストした方もたくさんいらっしゃると思います。

まあ、そんなたぐいの話です。


東京に居た頃、六本木にある70‘s〜80’sの洋楽中心に生演奏で聴かせてくれる老舗のライブハウスによく行きました。そこは会員制だったので友達に連れて行ってもらってました。いつもピアノを取り囲む席で聴いていましたが、バンドの中心は、「タカちゃん」というピアノを弾きながら歌う女の子でした。あまりきらびやかな感じでは無かったですが、若干ハスキーで、洋楽の雰囲気にぴったりの素敵な歌声でした。お客さんからのリクエスト中心で、ビートルズナンバーの他、時には「デトロイトロックシティー」なんかのハードロックなんかも歌ってくれました。

僕は、ある夜、小さなメモ紙に、フリートウッドマックの大好きな曲「ソングバード」と書いたのですが、ちょっと待てよ、少しマニアック過ぎるかな?それにオアシスの「ソングバード」と間違われるかもしれないと思い、その紙は破って大ヒットした曲「ドリームス」をリクエストしたのです。するとタカちゃんはなんと、「ドリームス」よりこっちの方が好きなんだぁと・・言いながらピアノでイントロを奏でながらフリートウッドマックの「ソングバード」を歌い出しました。

彼女は、僕が破って捨てた曲を知る由もなく、何かが通じたのか、少し動揺を隠せませんでした。確かに、彼女の歌声は、「ドリームス」を歌ったスティーヴィー・ニックスではなく、「ソングバード」を歌ったクリスティン・マクヴィーの歌声のようで、その歌詞の通り「楽譜がわかっているように歌う鳥」のように僕の為に歌ってくれているように勝手に想像しその歌に酔いしれてしまい、何とも心地よい気分になれた事を思い出します。

改めてビリー・ジョエルの「ピアノ・マン」を聴いて、ふと酒場での「タカちゃん」の歌のことを思い出して書き出しました。

今でもこのアルバムがビリーのデビューアルバムのように錯覚してしまいますが、これは彼の二枚目のアルバムです。デビューアルバムは、商業的に失敗作に終わりました。この失敗もあって、ロサンゼルスにある「エグゼクティヴ・ルーム」というピアノバーでピアノの弾き語りをして生計を立てていた事があります。

ビリーが歌っていたピアノバー「エグゼクティブ・ルーム」
(今は在りません)

アルバムタイトルと同じA面2曲目の「ピアノマン」は、このピアノバーでの弾き語りをしていた時の体験を元にした歌で、歌詞の登場人物は全て実在の人物を元にしているようです。登場人物には、ビリーの友人、たまたま立ち寄った知らない人物、ウエイトレスは奥さんだったエリザベスさんを指しているとも言われています。

この曲の詩に登場する人物の雰囲気が描かれたMVです。



そんな登場人物は、それぞれの仕事や生活に色々な思いがあってこの酒場に来ます。その人々をビリー目線で歌った曲です。「歌ってくれ、ピアノマン。歌ってくれ、今夜。みんな歌を聴きたい気分なんだ。いい気分にさせてくれよ」という歌詞は、人々が酒場に足を運ぶとても大切な気持ちを伝えているような気がします。どこにでもある風景ですが、喧騒を離れ、彼のピアノと歌を聴きたい、ピアノと歌が人々の心を癒してくれる心地よい大切な居場所になっていることをビリー自身も感じていたと想像します。

「ピアノマン」を聴くとお気に入りの酒場って、そんな自分の気持ちにそっと寄り添ってくれる、特別なところのように感じます。

先ほどの「ピアノマン」のMVは、結構、あでやかでコミカルです。

でも元々のオリジナル?のMVはこんな感じのようです。


こっちの方が、ドサ周りと日銭稼ぎに近かった時のお店の雰囲気に近いのかも知れません。昨年の東京ドームのアンコールの最後の曲がピアノマンでした。僕は、アルコール無しでもビリーのこの歌に酔いしれましたが、こんなピアノバーでジントニック片手に、生でこの曲聴けたらもう死んでも構いません。


ところで、そんな酒場とは関係ありませんが、このアルバムには、時節柄、ご紹介したい曲がもう一曲あります。A面曲4曲目の「You’re My Home(僕の故郷)」です。


当時の奥さん(エリザベス)とドサ周りのような生活をしていた頃、「心の故郷は君だ」と歌っています。この曲は、彼の1981年発売のライブ盤「Songs In the Attic」でも聴く事が出来ますが、このライブ盤には、彼自身によるライナーノーツが入っています。この曲をこのように紹介しています。

「古くさいけど、本当さ。当時(73年)全然お金を持っていなかった。だからこの曲を、バレンタインデーの贈り物としてワイフに贈ったのさ」
(アメリカのバレンタインデーは日本とは違うので、カップルがお互いの感謝を込める意味あいなのです)カッコ良すぎるけど、最高のプレゼントになること請け合いです。

彼はインタビューで、幼い頃、女の子に聴いてもらった体験をこんな風に語っています。
「ピアノを弾いていてふと顔を上げると、いつの間にか女の子がそばで聴いてくれてたんですよ。気を良くして、もうちょっと弾いているとまた、別の女の子が寄ってくる『こりゃすごいな』って思いました」って。ピアノと歌と女の子は切っても切り離せなかったんでしょうね?

バレンタインデーにワイフに贈った時の「ドヤ顔」が目に浮かびます。


ただ、、、、、

人生は、ある特別な一点だけみて、全て良しということもありません。その後のエリザベスとは中々色々あったようですから。


僕の場合、お金がなかった時、プレゼントをハーゲンダッツで、誤魔化した事が何回もあります。多分ハッと驚くようなカッコ良い振る舞いをしたことも無かったかも知れません。でも継続は力なり、バレンタインデーは、かれこれ44回続いています。

「ビリー、素敵な曲とライナーノーツに水を差してすみません」🙇


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