『ベイビーわるきゅーれ』が良かった話
『ベイビーわるきゅーれ』とは
塚口サンサン劇場での上映を待ちわびていた本作品、どストライクだったのでちょっくら感想を記します。
まず、監督は『ある用務員』の阪元裕吾監督。日本バイオレンスアクション映画界新星の監督。だそうだ。浅学なので阪元監督作品を観るのは初の私…塚口サンサン劇場では『ある用務員』も来週から併映なので履修したい。
主演は髙石あかりと伊澤彩織。
髙石あかりはいちばん有名な肩書きは『舞台版 鬼滅の刃』の禰豆子役。
他にも様々な舞台作品で活躍しており、独特な雰囲気をまとった演技は確かに舞台での動きをイメージしてしまうものだった。
伊澤彩織は映画『キングダム』、『るろうに剣心 最終章 The Final / The Beginning』等でのスタントパフォーマーとして活躍している方。本作でもキレッキレのアクションを披露してくれている。
『ある用務員』で殺し屋コンビとして出演していたこの2人を、もう一度同じ役どころで主演に据えたのが本作となる。
ストーリー
女子高生殺し屋2人組のちさととまひろは、高校卒業を前に途方に暮れていた・・・。
明日から“オモテの顔”としての“社会人”をしなければならない。組織に委託された人殺し以外、何もしてこなかった彼女たち。
突然社会に適合しなければならなくなり、公共料金の支払い、年金、税金、バイトなど社会の公的業務や人間関係や理不尽に日々を揉まれていく。
さらに2人は組織からルームシェアを命じられ、コミュ障のまひろは、バイトもそつなくこなすちさとに嫉妬し、2人の仲も徐々に険悪に。
そんな中でも殺し屋の仕事は忙しく、さらにはヤクザから恨みを買って面倒なことに巻き込まれちゃってさあ大変。
そんな日々を送る2人が、「ああ大人になるって、こういうことなのかなあ」とか思ったり、思わなかったりする、成長したり、成長しなかったりする物語である。(映画公式サイトより引用)
雑感
日常描写と殺し屋稼業というまぁまず両立しない世界が、この映画では見事に同居していること。そう、主人公2人が一緒に暮らしているように「生活」と「殺し」も自然に存在している。
「住民税?確定申告?」とか、炊いたご飯冷凍しようとラップに包むまでしてそのまま忘れたとか、リアルな壁に彼女らもぶち当たる。マンゴーは目の前にないし、バイト先の店長はうざいし。「理不尽よねー世の中」って私たちも共感しながら観ていると、一瞬のうちに彼女たちが息の根を止めてくれる。殺ってることはアウトだけど不思議な爽快感がそこにはある。
アパートでのゆるふわな生活も良い。ゲームやスマホをごろごろしながら延々見てたり充電コードつながってるのに気づかずに何回も落としちゃったり。ほんとに2人で同棲生活してるのかな?って質感だった。
「コンビニのサンドイッチ買えるってお金持ちなの?!」って台詞も実感がこもっていて良い。貧乏だとコンビニで食べ物は買えないのである。監督も苦労して作品を作られてきたのだろうか…。
さて、本作ではヤクザも大活躍。本宮泰風さんは『相棒』でもヤクザ役をやってらっしゃる方だが、本作では関西風コミュニケーション(〜万円、って言ってお釣りを渡す等)が通じない、「オーシャンズ8観てないのか」と突然息子を困惑させるなど、渋くありながらどこかネジが一本抜けているヤクザの棟梁を好演している。
キャスト紹介でも述べたが、髙石あかりの演技がほんとうに光りまくっている。日常シーンではとにかくだらだらクネクネしている。一転アクションシーンでの表情の一瞬の変化のスピードにはさすがの一言。あとアパートでの眼鏡姿も良きでしたね。今後も出演作品が控えているとのことで楽しみで仕方がない。それから「ちくわ」をくわえているシーンはあれは禰豆子をやっていたことへのオマージュ的ななにかでしたかねぇ。
まとめ
本作はストーリーにもある通り成長したのかしてないのかわからない状態で終わる。私はこの終わり方が好きだった。社会生活不適合者だって、そのまま生きてたっていいじゃないか。現状維持でなにがわるい。彼女らは自分らしくあることが「殺し屋」だけどそこを取り替えれば私たちの生き方にも同じことが言えるだろう。
長久允監督の『そうして私たちはプールに金魚を、』『WE ARE LITTLE ZOMBIES』でも、現状維持を肯定してくれるような結論を出していると私は思っている。そういったテーマを伝えてくれる映画作品が出てきていることが、私は嬉しい。
また、パンフレットには特典CDがついている。ufotable制作のアニメーション映画などではよくあるが邦画のパンフレットにCDがついてくるのはなかなか珍しいだろう。髙石あかりと伊澤彩織が歌うこの映画の挿入歌「らぐなろっく ~ベイビーわるきゅーれ~ feat. Daichi」と、3本のオーディオドラマが収録されている。1000円でこれは破格すぎる。
2021年邦画界に現れた奇作、ぜひ映画館で味わってほしい。