【エッセイ】自分で髪を切ることの効能
自分で髪を切ることがある。
前髪だけではなく、横や後ろも切ってしまう。
ごく普通の文房具であるハサミでばさっと切ったあと、すきバサミで大胆にじゃきじゃきとやる。
私は髪切りのスキルを一切持ち合わせていない。当然、おかしな髪型になる。この間切ったときは、後ろのほうのある部分だけ長いままぴょんと出ていた。
でも関係ない。縛ればほとんどわからないし、ヘアアイロンで巻けば誤魔化せる。
なぜ美容室に行かずにこういうことをするのかといえば、3年ほど前に、霜降り明星の粗品さんが自分で髪を切る動画を観たことがきっかけである。
別に自分で切ったっていいのだ。そう気づいてたまに切るようになった。
切るたびに思うのだが、私は随分と自分の身体を信頼しているようだ。髪がまた生えてくるなんて保証はどこにもないのに、とんでもない切り方をしてはへらへらしている。
じぐざぐにして、このままぴたりと髪の毛が止まってしまったらどうするつもりなのだ。
それでも私は適当に髪を切る。また生えてくると心の底から信じているからだ。
心臓が脈打ち眠れない夜が多々あるにもかかわらず、髪の毛は生えてくると思っているのだ。これからも私は生きていくと思っているのだ。
滑稽で笑える。消えてしまいたいと願いながら、自らの生を疑わないことが。
これが自分で髪を切ることの効能だ。自分を冷静に俯瞰する契機になるのである。
また近いうちに自分で髪を切ると思う。きっと元通りになるから。
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