冬の朝
12月も佳境。窓の外は一面銀世界だ。
世間はクリスマスだの忘年会だの、何かと集まる理由を作っては身の丈に合わない食事を囲む。私はいつもそのような場に居たいとは思わない。食事をするのに周りに気を遣うなど、専ら御免だ。
この時期の朝は、当たり前だが寒い。少し苦手なコーヒーを飲みながら一人で過ごすこの時間は、少しだけ大人になれた気がする。寒さに張り詰めた空気が、私の心に勘違いを誘う。
『一人でも別に寂しくなんかない。』
負けず嫌いな私は、意地を張って周りの人々にそう言い放つ。本当はそんなことないのに、小さな嘘をついては自尊心に邪魔されて取り消すことが出来ない。
一人でも大丈夫だと平気なフリがしてみたいものだ━━━━━。
〜数ヶ月前〜
『…別れよう。』
数年前に出会い、同棲し、将来のことまで考え寄り添ってきた彼に、この出会いの季節に別れを告げられた。彼が借りていた家だったから、この家から去るのはもちろん私。
名残惜しさなど感じる間もなく、すぐに荷物を纏めて出ていった。
新しく住み始めた小さくて綺麗なアパートは、1人で暮らすには十分すぎる広さだった。ここに来てから数ヶ月経ったが、未だに自分のものでは無いかのような居心地の悪さがある。この寒さで家に籠っていると、時々彼の居た温もりのある部屋が恋しくなる。
みんなきっと、形を変えて生きていくんだろう。酸っぱいような時間も、甘いような時間も、きっと沢山の道を経験して、強くて美しい大人になっていく。
今まで憧れていた「強くて美しい大人」と言われる人々は、きっと見えないところではもがき苦しんでいる。
誰も彼もが同じように、弱虫な私も、きっと強くなれる。
静かに日が差した重たいカーテンを開けると、外の寒さが窓越しに指先を襲い、余った袖にそれを忍ばせる。何でもない、冬の朝の光景だ。
1人になって、感じなくてもいい痛みを感じるようになった。
悴んだ指の痛みだけでは無い。
浮かべた顔、景色。比べる度に心が痛くなり、溜息をつく。
それでも大丈夫だと、強がって譲らない私。
そんな私へ物言いたげに、白んだ空が温もりを奪い去っていく。
「…そろそろ、いいかな。」
浮かんでいた名前に、とうとう愚痴を零した。
あいつへの愚痴を吐けば吐くほど、涙が止まらない。
これまでの強がりが嘘であるかのように、零れ落ちた涙と共に、不安がほぐれて流れていく。
「寂しいよ。」
言葉にした素直な気持ちが、私をさらに強くした気がする。
冬の朝は少し、大人になれた気がしていた。
今日もコーヒー。いや、たまには素直に。
甘めのココアでも飲もうかな。
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