17 アルゴスについて
フォルクハルト・ミュラーの個人的な研究メモより抜粋
◯月△日
Kアミドの持ち帰りに成功。今の管理体制であれば、持ち帰りは容易。
成分分析の結果、基本的にはタンパク質の分解酵素だが、液体内にナノマシンが含まれている事がわかった。ナノマシンの解析までは不可能なため、この件は一旦保留。
◻︎月◯日
アルゴスの断片採取に成功。Kアミド投与前に本体から切り離すのは難しかったが、できない事はない。いくつか容器を用意したが、ガラス瓶で問題なかった。近くで観察したが、ただの肉片にしか見えない。1cm四方では動く気配もない。増殖する要因はわかっていないため、時間経過で育つ可能性もある。長期間の保管は危険だろう。
成分分析の結果、主にタンパク質が主成分である事はわかった。哺乳類の肉が一番近いだろう。DNA解析をすれば、どの生物に近いかはわかるかもしれない。Kアミドを投与すると分解され、跡形もなく消えた。
△月◯日
再びアルゴスの採取に成功。今回はDNAを解析した。
驚いたこのに完全に人間のDNAだった。人間の肉片が、何故このように勝手に動き回るのか、どういう理屈で増殖するのかは謎だ。
前回より長時間ビンの中で放置してみたが、増殖する気配はなかった。Kアミドを投与して分解処分した。
△月△日
雨の日は、アルゴスの発生頻度が高い。ここ半年の記録から、かなり確度の高い事実と言えるだろう。次にアルゴスを採取した時は水で増殖するか試してみよう。
⭐︎月◯日
アルゴス採取に成功。いくつかパターンを試してみた。
1.純水→変化なし
2.水道水→変化なし
3.雨水→若干の増殖が見られた
4.3%の食塩水→雨水より増殖の程度が大きい
水に電解質が混ざっている方が増殖が激しいようだ。次はスポーツドリンクでも試してみよう。
⭐︎月◻︎日
スポーツドリンクでの増殖は予想以上だった。すぐにKアミドを投与したので事なきを得たが、今後は細心の注意を払わなければ。
とはいえ、現場で見るようなサイズにはならなかった。まだ他に何か要因があるのだろう。
◎月△日
人を襲うという事は、タンパク質が必要なのでは?と思いプロテインを与えたところ増殖の勢いが増した。これはかなり危険だ。現場周辺にプロテインとスポーツドリンクがあった場合、遠ざける必要がある。
これ以上は危険なため、増殖についての研究はここまでにする。
⚫︎月⚫︎日
ハルキとの同居が始まった。部屋には入らないよう言って常に鍵はかけているが、危険を伴う研究は控えた方がいいだろう。
⚫︎月△日
アルゴスが初めて観測された日前後で気になる記事があった。
当時生体補完の最先端だったX医療の倒産と、Yメディカルによる関連事業の買収だ。
X医療はこの頃生体補完での医療事故をいくつか起こしており、その原因はいずれも不明なままである。Yメディカルはその後Kアミドを開発している。Kアミドの成分、精製方法は現在も秘匿されたままである。
X医療の生体補完技術に不備があり、それがアルゴス化しているのではないだろうか。そうであれば、アルゴスの成分が人体である事にも納得がいく。
Yメディカルで研究が続けられているはずなのに、ろくな結果が出ないのも、これを隠蔽するためかもしれない。
⚫︎月⚪︎日
ハルキのせいで研究が進まない。いい加減にして欲しい。
ここで手記は途切れている。