61 揉みたい大胸筋

一日社内研修で疲れ果てたハルキは、家に帰って社給ジャケットを脱ぎ捨てると、ソファに倒れ込んだ。
「疲れた。フォルクハルト、おっぱい揉ませて」
「おっぱい???」
夕食の準備をしていたフォルクハルトは怪訝な顔で彼女を見た。
「大胸筋」
短く言った彼女の答えに納得して、作業の手を止めソファに向かう。
「…………まあ…構わないが…」
言ったものの、彼女の意図は図りきれず、怪訝な顔のまま彼女の横に座る。
「何だその顔は。フォルクハルトだっておっぱい揉みたい時あるだろ?」
口を尖らせるハルキに、フォルクハルトは怪訝な顔のまま首を傾げた。ハルキは驚愕し言葉を失う。
「…………ない…のか?」
「男の大胸筋を揉みたいと思った事はないな」
なんとか絞り出した問いに、フォルクハルトはさらに眉根を寄せる。ハルキは、彼の顔を暫く眺めてから、それはそうだろうなと思った。
「…そこは女性の乳房でもいい」
フォルクハルトは怪訝な顔のまま反対側に首を傾げる。
「それも…ないのか?」
続いた衝撃に愕然とするハルキに、フォルクハルトは「うーん…」と唸っただけだった。
不意にハルキがハッとする。
「私の胸が小さ過ぎるからか」
「いや…別にそういうことではなく、人体にあまり興味がない」
それを聞いて、ハルキも怪訝な顔になる。
「待て、じゃあ私の胸を触ってる時はどんな気持ちで触ってるんだ」
フォルクハルトは少し考えてから、こう答えた。
「…ハルキが気持ちいいといいな…と」
「そんな純粋な気持ちでおっぱいを触る男などいるかッ!!」
理不尽に怒られ「そう言われてもな…」とぼやく。
「でも性欲はあると言っていたじゃないか」
「あるが、それは直接的に関係しないだろ。別に揉みたいとは思わん」
ハルキは「むぅ」とうめいて考え込む。
「サイバネ側を触った時のハルキの反応の方が興奮する」
続いたフォルクハルトの発言にハルキは理解できないといった顔を向けた。
「なんだそれ」
「触れたのはサイバネなのに中枢神経に伝達されてる感じが、こう…」
説明されても、まったくわからない。
「やっぱり発想が変態チックだな。」
「へん………あ、あと、サイバネ接合部の金属質な質感からシリコンになって生身に繋がってる辺りはすごく触りたい」
彼は挽回しようと懸命に話しているらしいが、ハルキには何も伝わらなかった。
「いや、それも変態ぽいぞ」
冷たく言われて項垂れる。
「何故だ…乳房とかただの脂肪の塊じゃないか」
「柔らかくて触り心地いいだろ」
ハルキに言われて、フォルクハルトはなんとなく彼女の胸を眺めた。
「わ…私のは確かに小さいから、そんな、アレかもしれないが…」
「ハルキ以外の人体なんて、なおさら興味がない。触り心地なら太腿の方が好きだ」
言われて思い出してみると、確かに彼は太腿をよく触ってきていた。
「じゃあ、太腿揉みたいだろ」
「揉みたくはない」
あくまでも否定する彼を、疑いの眼差しで暫く眺めていたが、どうも実際にそういう事らしかった。
「うーむ…まあ、いいや。フォルクハルトのおっぱい揉もう」
どうでもいい問答に時間を費やしてしまった。
「……力入れた方がいいか?」
フォルクハルトに聞かれて、ハルキは首を横に振った。
「ううん。柔らかいのがいい」
そして、にへらと笑う。
ハルキに大胸筋を揉まれながら、フォルクハルトは「なんだこれ?」と釈然としない気持ちで、幸せそうな彼女を眺めていた。

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