55 酒とベッドと男と女

ミドリが旅行のお土産として買ってきてくれた日本酒は、とてもおいしかった。甘みがあり飲みやすく、アルコールに弱いハルキも喜んで飲んでいた。
「おいしい!もうちょっと飲みたい」
「ダメだ。これ以上飲んだら寝るだろ」
フォルトハルトはハルキから酒瓶を取り上げた。美味しくて飲みやすいがアルコール度数は12%だ。アルコールに弱い人間が調子に乗って飲むのは危険だった。
「ええー?いいだろ。別に」
小さなコップに一杯、氷を入れて飲んだだけだが、ハルキは既に酔いが回り始めている。
「寝たら…セックスできないだろ。途中で寝られたら、ショックだぞ」
フォクハルトに言われて、ハルキはキョトンとしたあと、「うーん」と少し考え込んだ。そして、一人で頷く。
「もう寝ててもやっていいから」
「そんな犯罪行為みたいなことができるか!!俺が嫌だ!」
「じゃあ、我慢すればいいだろ。私はお酒が飲みたい」
ハルキは不機嫌に頬を膨らます。フォルクハルトの気持ちとは裏腹に、彼女の方はそんな事より、この酒が飲みたいという事らしい。
「う…うう…」
フォルクハルトは呻いて、渋々酒瓶をハルキに返した。
「あんまり、飲み過ぎるなよ…」
ハルキはニコッと笑って頷いた。

30分後、ハルキは案の定ソファで寝てしまった。
「ソファで寝ないで、ベッドに行け」
フォルクハルトが揺り起こすと、ハルキはむにゃむにゃと目を擦りながら自分のベッドで腕を外して、フォルクハルトのベッドへ向かった。
「こっちで寝るのかよ」
「うん」
ハルキは頷くと、ベッドに倒れ込み、そのまま寝てしまった。
隣に寝転んでキスをしてみたが、起きる気配はない。何が目的で、こちらのベットに来たのか。普通に自分のベッドで寝ればいいのに。
フォルクハルトは先程の会話を思い出して、少し考える。
こちらとしてはやりたい気持ちはある。いいとは言われた。ある意味、信用してくれているという事なのだろうが。
(…これを、ここから服を脱がせて挿入するのか?)
どう考えても準強制性交だ。犯罪臭が強すぎる。
「…やっぱり無理だ」
だいたい、寝てる相手として何が楽しいのか。虚しいだけじゃないか。自分の欲のためだけにハルキを利用するような事もしたくない。月の上限回数の事を考えると、そんな事に一回を使ってしまうのも嫌だった。
フォルクハルトは、我慢して大人しく寝る事にした。

深夜、フォルクハルトは腹の重みに目を覚ました。見ると、腹にハルキの脚が乗っている。
今日はいつになく寝相が悪い。酒を飲んだせいだろうか。
起き上がり、脚はどけたものの、ハルキは斜めに大の字になっているため寝る場所がない。端に運ぶ事はできるが、すぐに同じ事になるだろうし、ここで寝る事は諦めるしかなさそうだ。
選択肢はそう多くはない。ソファか、ハルキのベッドだ。フォルクハルトは暫し思案してから、ハルキのベッドへ向かった。多少狭くともベッドの方がマシだ。
横になってみると、やはりシングルは狭いなと思う。とはいえ、仕方がない。
改めて眠りにつこうと深く息を吸うと枕からいい匂いがした。甘い香り。ハルキのシャンプーの匂いだ。目を閉じていると、ハルキが近くにいるような感覚にもなり、不思議と心が落ち着いた。
少しの高揚感と共に、フォルクハルトはそのまま眠りに堕ちていった。

朝。ハルキが目を覚ますと、一緒に寝たはずのフォルクハルトがベッドにいなかった。
先に起きて朝食の準備をしている気配もない。不思議に思いながら昨日の事を思い出す。
あんな事を言ったが、結局どうしたんだろうか。脱がされた形跡も下腹部に違和感もない。ハルキは「まあ、彼のことだから何もしなかっただろう」と結論付けた。
彼のベッドから降りて立ち上がると、自分のベッドに誰かが寝ている事に気づいた。フォルクハルトだ。
シングルベッドで体を丸めて寝ている。彼が寝ていると、シングルベッドは随分と小さく見えた。同時に、小さくなって寝ている彼がかわいいなと思う。
(写真撮っとこう)
ハルキは端末を取り出して、寝ている彼にカメラを向けると、ニヤニヤしながら何枚か撮影し、増えたコレクションを満足げに眺めた。


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