7 新たな扉は開かない

トミタロウはメンテルームでミドリと向かい合っていた。
「ミドリさん。ちょっとお願いがあります。」
「何、改まって?」
トミタロウは一度深呼吸をした。
「ハルキさんについてなんですが、僕からは言いにくいのでミドリさんから伝えてもらいたい事があります。」
トミタロウの至極真面目な様子に気圧される。
「…まあ、とりあえず言ってみて」
「ハルキさんに、異性がいる前では節度を持った行動をするように言ってください」
「?ハルキ、そんな不味いことしてるの?」
ミドリは普段メンテルームにいるため、3人がどんな様子で過ごしているのかは知らない。
「…汗かいた後、Tシャツで汗拭いてお腹どころかサイバネ側とはいえ胸部が見えそうになったり、なんかやたら距離が近くて胸が当たりそうになったり…」
「え…あれってミュラーへとアピールだと思ってたけど、天然だったんだ…」
あまりの事にミドリは口元を覆った。
「今まで知ってて黙認してきたんですか?」
「あんまり効果なさそうだなーと思って眺めてた」
トミタロウは深いため息をついた。なんなんだ、この人達は。
「というかフォルトさんも何も言わないのなんなんですか?」
「慣れちゃって感覚麻痺してんじゃない?」
酷い話である。
「ともかく!そういうことはしないように伝えてください!」
「うん。わかった。けど、何で今のタイミング?」
問われて、トミタロウはやや言いにくそうに口籠る。
「…この前の将棋崩しの一件から、なんか変に意識してしまって…僕は同年代かちょっと年下の女の子っぽい女の子が好きなんです。新しい扉は開きたくありません!」
「…」
ミドリは「何言ってんだコイツ」と言いたげな顔をしていた。
「お願いします」
ミドリは真面目な顔で暫し考えたあと、まっすぐな曇りなき眼でトミタロウを見据えた。
「よし、トミー。ミュラーからハルキを奪い返そう」
「今の話聞いてました?」
「トミーなら人の心もあるし許す。ミュラーより全然いい」
「話聞いてくれます?」
そしてトミタロウの肩に手を置く。
「恋はするものじゃない。落ちるものなんだよ。トミー」
「なんかいい感じの事言ってる風ですけど、僕は別にハルキさんの事好きになったとかじゃないですからね」
呼吸を止めて、数秒二人は見つめあった。
「…ダメか…」
ミドリが諦めて肩を落とす。
何故、職場で地獄の三角関係を作ろうとするのか。今でも十分面倒だというのに。
「というかセクハラで人事に報告してもいいんですよ。」
「ぐっ…わかった。ハルキには止めるように言っときます」

ミドリはハルキをメンテルームに呼び出した。
「ハルキ。あんた、自分が女だって事をもう少し自覚した方がいいと思う」
「え?」
言われても何のことか分からないらしく、ハルキはキョトンとしていた。
「トミーも若干困ってるから」
ハルキは少し考えて、何か思い当たることがあったらしく、「ああ」と言った。
「トミーからしたら、私なんておばさんだし別に大丈夫だろ」
「なんで人の性欲を全部亡き者にしようとするの。ミュラーだって表に出さないだけで内心どう思ってるかわかんないでしょ?」
「ないない!あいつに限ってそんなもんないに決まってるだろ」
ハルキはケラケラと笑った。
「…ほんっと知らないからね…少なくともトミーは困ってるんだから気をつけるように!本当にセクハラで通報されるからね!」
「はい…」
ミドリにややキツく言われて、ハルキは少し反省した。

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