R18-5 半分ひんやりしてる

56すれ違い注意
の後

すれ違いの生活が終わり、休日にようやく二人でゆっくりできた。
体を重ねると、半分だけひんやりする。ハルキのサイバネ部分の表面は室温と同じだ。金属質な美しい体。
それが、ゾクゾクするとともに、心地よい。
生体接続部は、生身の体を傷つけないようにシリコンが埋まっており、生身とはまた少し違う質感がある。血の通う肉体と技術の推を集めた機体。そのコントラストに、より生を感じる。
柔らかで華奢な体を指でなぞると、ハルキは「くすぐったい」と笑った。
引き締まった無駄のない筋肉は、多くの彫刻家が魅せられた自然が創り出す芸術だ。
この唯一無二の美しさを誇る身体を持つ彼女が、自分を求め受け入れてくれる。
自分だけがそれを許されている。
繋がりたい。ずっと奥深くまで。溶けるほど。コロコロと笑う顔も愛おしい。同時に、上気して喘ぐ姿も早く見たい。愛と欲が入り交じるこの気持ちを、彼女はどれほど理解しているだろうか。強欲に、そして貪欲に彼女を欲している事をどれほど知っているだろうか。
彼女は気楽に楽しそうに笑う。こっちはもう、彼女なしでは生きていけないほど依存しているというのに。

「俺は…重いのか?」
ハルキはキョトンとする。
「なんの話だ?体重の話なら聞くまでもないよな?」
唐突すぎたなと反省する。
「ハルキがいなくなったら、生きていける気がしない」
ハルキはまた笑う。
「依存し過ぎだ。私がいなくなってもちゃんと生きてくれ。別れなかったとしても、いずれはどちらかが先に死ぬんだぞ」
一瞬過った想像に、泣きそうになる。
「別れるなんて考えたくもない」
「前に自分から言い出したクセに」
ハルキは口を尖らせ、そう言った。一悶着あった時から、もうかなり経つというのに痛いところを突いてくる。
「あれは…その…すまなかった」
「いい。もう気にしてない」
また笑う。
「俺より先に死なないでくれ。」
頬を撫でると、ハルキは少し困った顔をした。
「確約はできんな。こんな体だ。電力が無くなっただけですぐに死活問題だ。」
胸が痛い。半分が生身とは違う彼女の美しい体は、生体が生成するエネルギーで動いてはいるが、定期的なメンテナンスが必要だ。どこか壊れたら修理もいる。適切な医療に繋がれなければ生体よりも脆いといえた。
「ハルキの事を考えたら、本当は生体に置き換えた方がいいんだな…」
「どうだろうな?サイバネだから助かる時もある」
頬を撫でた手で首筋をなぞり、金属質な胸をつかむと、彼女は「ん」と声を漏らして身震いした。サイバネから流れる電気信号が、生身と変わらぬ感覚を伝えている。
「だからまあ、その時の運次第だ」とコロコロと笑う。
金属質な肩と胸に軽くキスをして、強く抱きしめる。どんな形であれ、失いたくはない。
「フォルクハルトこそ、私を庇って死ぬような事だけはするなよ。とても耐えられない」
言われて、自分が先に死ぬ事はあまり想像していなかったなと思う。
「大往生なら、お前との思い出があれば、その先も私は生きていける」
「…うん」
ハルキは俺がいなくなっても生きていけるのか。少しホッとすると同時に、なんだか寂しくもあった。
「なんだか、しんみりしてしまったな」
ハルキは、また笑った。愛おしい。ずっとそばにいてほしい。
「愛してる」
何の捻りもなく、こんな言葉しか言えない。言葉にするとなんだか陳腐で、全然伝わっている気がしない。直接電極で繋いで、この気持ちを流し込めればいいのに。
「私も愛してる」
優しい微笑み。
溢れ出す肉欲まで流し込んでしまったら、流石に引かれるだろうか。それも全部受け入れて欲しい。
舌を絡ませあって、その熱に浮かされる。
体を重ねると、半分だけひんやりする。もう半分には温もりがあるが、それも自分の体温よりは低い。自分の熱がハルキに流れていく。いつのまにか、俺からの想いの方が重くなってしまった。
「挿れてもいいか?」
「うん」
温かい。
繋がって一つに溶けてしまえば、もう離れることもないのに。薄いゴム一枚で隔てられた二人の境界を確かめるように、ゆっくりと腰を振る。
呼吸を合わせると、ひとつになれた気がする。
外は雨が降り出したらしく、窓から雨音が聞こえ始めた。
じっとりと汗ばんだお互いの体が付いては離れを繰り返す。上気して喘ぐ姿も、やはり愛おしい。
別の個体だからこそ得られる快感なのはわかっている。それでも…
「ん…何か…別の事を考えているな?」
ハルキに言われてハッとする。少し物思いに耽り過ぎたか。
「もっと、私に集中しろ」
優しく怒られて、言われた通り全身で彼女を感じようとしたところで、膣で根元を締め付けられた。
「う…」と漏れた声を聞いて、彼女はクククと悪戯っぽく笑う。揶揄われた仕返しに、少し強めに突くと、彼女の艶やかな唇の隙間から艶かしい吐息が漏れる。嬉しくなって調子に乗って繰り返すと、腕を掴まれて少し睨まれた。尚更興奮して、さらに激しく動かす。彼女の手にぎゅっと掴まれて、昂りを抑えきれなくなる。
と、勢いでつるりと抜けてしまい、そこで情動も途切れてしまった。
なんだかおかしくなってへへへと笑うと、ハルキもクククと笑う。
「もう!」
直接電極で繋いだら、ハルキの気持ちも流れてくるだろうか。もし、呆れられていたらと思うと、それを知るのは少し怖い。
笑いながらハルキの隣に寝転んで、呼吸を整える。
「終わりか?」
同じく笑い終えて呼吸を整えた彼女に聞かれて、再び熱くなり始めるのを感じる。
「おかしくなりそうだ」
腕で顔を隠した俺の耳元にハルキが口を寄せて囁く。
「もうなってる」
ドキリとして彼女を見ると、誘うように微笑んでいた。
終われる訳がない。
彼女の額にキスをする。
「悪い子だ」
俺が言うと、ハルキはクスクスと笑う。
「どっちが?」
問われて少し考える。
「俺か?」
「good boy」
「犬扱いだ」
離れて頭を掻く。
クスクス笑っている彼女に覆い被さり「盛った犬がお望みか?」と聞くと、笑いながら「ステイステイ」と、また犬扱いされる。
「悪い子が言う事きくかよ」
硬くなった陰茎を彼女の腹に押し当てると、彼女は目を丸くしてこちらを見た。あらゆる光を吸収する黒く潤んだ瞳。隙だらけの少し開いた唇。
熱いとろけるようなくちづけ。
体を重ねると、半分だけひんやりする。
電極で繋ぐより、ひとつに溶けて混ざるより、こっちの方がいいかと思い直す。
今見えるモノを見て、そこにある全てを感じて、確証などなくても信じる方がいい。

その日は、彼女の体力が尽きるまで何度もお互いを求めあった。

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