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5 ハッピー・ハッピー・ウェディング?

「この扶養制度改正が施行されたら補助を合わせると、かなりお得なんだが、どう思う?」
またハルキがなにやらフォルクハルトに話しかけているな、とトミタロウはなんとなく二人の会話を聞いていた。
「ん?ああ、なるほど確かに。検討しておこう」
扶養制度?検討?仕事の話というわけでは無さそうな気がしたが、念のため質問する。
「なんの話ですか?」
「婚姻制度の話だ」
フォルクハルトがしれっと答えた。
婚姻制度。婚姻制度というと結婚の話という事だろう。つまり、結婚して扶養に入る事で扶養控除が受けられて税の支払いが減るとかそういう話だろう。そういえば配偶者控除の制度改正の話がニュースになっていたような気もする。しかし検討するとはどういう事なのか。トミーは恐る恐る質問した。
「…………え?お二人はそう言う関係だったんですか?」
「そういうってのはどういう意味だ?」
「ええと…恋人としてお付き合いされている?」
てっきりハルキの片想いだと思い込んでいたが、違ったのだろうか。
「いいや?」
ハルキが否定する。
「それはないな」
フォルクハルトも否定した。ハルキが一瞬不満そうな顔をしたように見えた。
「ええと…では、誰と誰が結婚する話なんですか?」
「私とフォルクハルトだ」
ハルキの発言にフォルクハルトも頷く。
何を言っているのかわからない。
「もう一度聞きますけど、お二人は恋人関係では…」
「ない」
今度は二人同時に否定する。トミタロウの頭の上には大量の疑問符が浮かんでいた。恋人同士ではないが結婚する、と、この二人は言っているのだろうか。
「婚姻とは国が保障する契約だ。そこに愛だの恋だのは必要ない。利益があると思えば利用すればいい。そういうもんだ。」
フォルクハルトの説明にハルキは「うんうん」と頷く。言われてみれば、まあ、そうかもしれない。
「いや…それはそうですけど…」
だからといって、本当にそれでいいのだろうか。到底一般的な考え方とは思えない。
「お見合いや政略結婚だってあるんだから、合理的効率的結婚があってもなんら問題ないだろ」
「そうだそうだ!」
フォルクハルトの話に必死に同調しているハルキを見て、トミタロウは(この人また適当なこと言って丸め込もうとしてる…怖)と思った。とはいえ、そんな論理展開をするフォルクハルトについても変だと思ったし、ミドリが反対していた理由もようやく察した。

しばらくあと、ハルキとミドリはメンテルームで世間話をしていた。今日はサイバネのメンテナンス日だ。
「え、マジで結婚する気なの?まあ、本気だと言うならもう何も言わないけど…」
ミドリは内心「絶対やめた方がいい」と強く思っていたが、こういう時にハルキが絶対に自分の意見を曲げない事はよく知っていた。学生の頃からの付き合いだ。彼女がやると言ったらやるのだ。
「結婚式とかするの?」
「しないことにした。フォルクハルトは家族と絶縁してるし、呼ぶ相手もいないらしい。私も別にそこまでしたいと思わないしな。」
「えーハルキのウェディングドレス見たかったー写真だけでも撮ったら?」
あの男と結婚はして欲しくないが、ウェディングドレスを見たかったのは本当だ。
「うーん」
ハルキは「でもなあ…」と言いながら少し考える。少し押したらいけるかもしれない。
「ハルキはミュラーのタキシード姿見みたいとかないの?」
ハルキは難しい顔で思案する。
「筋肉は見たいけど、それは別に」
「どんだけ筋肉好きなんだよ。じゃあ、ハルキ的には全裸最高ってこと?」
想定外の返答にミドリは思わず突っ込んでいた。
「全裸はちょっと…パンツは履いて欲しい」
「パンイチ最高ってこと?」
「………なんか…うん…言い方…」
ミドリは腕を組んで暫し思案し、全てを解決する名案を思いついた。
「わかった。ハルキはウェディングドレス着て、ミュラーはパンイチで写真撮ったらいいと思う」
ハルキは一瞬想像して「それはないだろ」と思った。
「ミドリはたまに、だいぶおかしな事言うよな…」
口に出たのはそんな言葉だったが、フォルクハルトのパンツ一丁の写真はちょっと欲しいな、と思った。

設定資料

フォルクハルト・ミュラー
30代前半
男性
身長185cm
体重90kgくらい
6月9日生まれ
右額から眉山にかけて傷跡がある。仕事中にハルキを庇った時についた傷。


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