美しいものを貰う旅
何だか忙しくてイタリア旅行の記事が滞っておりました。創作大賞の作品も色々読みたいものが溜まっている…
二作目の改稿作業で忙しくなる前に…と、積ん読の本や新しく購入した本を読みまくり、noteの記事を追い、Xをチェックし、新しい作品のプロットをぱらぱら作ってみたり、寝かせてある小説に手を入れたりしているとあっという間に深夜になっている。時間が足りない…蒸発するように時間が飛んでいく〜!
イタリア旅行のあれこれも書きたくて仕方がないものの、なにしろ内容が膨大。ということで、まずは私が美しいと感じたものをシェアさせていただこうかと思い立ちました。
他にも好きな景色はたくさんあるのですが、まずは心の赴くままにピックアップ。
ヴェネチアにはじまりヴェネチアに終わる旅。少々長いのでのんびりお付き合いくださいませ。
ヴェネチアの中心を貫くカナル・グランデ(大運河)をリアルト橋より望む。
異様な密度の美に唖然としながら歩くのが楽しい。
ヴェネチアはぜんたい建物が密集していて開けた場所は少ないのだけれど、サンマルコ広場は別。壮麗にしてきらびやかな大建築が広場を取り囲んでいる。
その荘厳な広場の外には、カラフルで可愛らしい建物が所狭しと立ち並んでいます。
ヴェネチアに一旦別れを告げて、一路北のトリエステへ。
トリエステは紺碧のアドリア海が美しい、古い港町です。
空が広く、くるくるお天気が移り変わります。
夕暮れ時の海と空は、この世のものとは思えない幻想的な色合いでした。
トリエステは第一次大戦終結までオーストリア=ハンガリー帝国の一部で、海運の要衝として大いに栄えました。写真に写る宮殿のような華麗な建物の多くは、かつて海上保険会社の所有でした。港湾都市の当地では海上保険の需要が高く、ロイズをはじめとする海上保険会社がヨーロッパ各地から進出して支社を構えていました(おそらく16−7世紀頃)。
豪華な建物は、莫大な富を築いた彼らの隆盛ぶりを伝えます。
夫が若い頃にはこの場所のすぐ近くに大きな魚市場があり、このエリアの漁業の中心地としても栄えていました。…が、年々漁獲高は減少し、魚市場も建物のみを残して閉鎖され、今に至ります。
現在は欧州の大型旅客船が頻繁に港を訪れ、数千人の乗客がどっと市中に降りては去っていくばかりの、静かな古い都市となっています。
トリエステを離れ、次はヴェネト州ヴェローナへ向かいます。
途中のメストレで高速鉄道フレッチャロッサに乗り換え。
イタリアらしい真っ赤なフレッチャロッサ、素敵です。居住性も素晴らしい。記憶が曖昧ですが日立製となっていました。さすが…と感心。(しかしニュースでは2026年に日立製車両が納入予定なのだけど。別車両だっただろうか?)
イタリアでは高速鉄道は二社が運行しており、それぞれフレッチャロッサとイタロという名前が付けられています。どちらも真っ赤で可愛い♪
ヴェローナの街はたいへん美しいのですが、以前少しご紹介したので、今回はこちら。ヴェローナからアルプスに向かって北上したところにある、イタリア最大の湖、ガルダ湖。
南北に52Km、東西の一番広いところは18Kmで、面積は約370平方km。琵琶湖の半分ほどの大きさです(琵琶湖って大きいんだなと実感)。
ここはアルプスの麓にもかかわらず、北風が山に遮られて温暖だそうで、レモンやオリーブの栽培が盛んでした。湖のほとりには古城が点在し、有名な古城シルミオーネなどがあります。そちらを訪ねる時間はありませんでしたが、もう一つの古城へ。塔から湖水を望むことができます。
この山は「眠っているナポレオン」とか「ナポレオンの鼻」などと呼ばれて親しまれています。仰臥している横顔に…言われてみれば見えるような。
日が落ちる寸前の「ナポレオンの鼻」。これは夜の10時頃。ゆっくりと日が落ちるので、空が長いこと夢のような藍色に染まり美しかった。
さて、ヴェローナ市内に戻りまして…
旧市街のアレーナ(ローマ時代の円形闘技場)にてオペラを観ました。
演目は「アイーダ」。毎年夏になると、このアレーナではオペラやバレエ、オーケストラなどが連夜上演されます。
客席は超満員。現代的なセンスを取り入れた「アイーダ」で、もうとてつもなく素晴らしかった。
アイーダ役の方の歌声の、透明で苦悩に満ちた響きが鳥肌ものでした。
合唱の鬼気迫る迫力と荘厳さ、前衛的な表現(前衛芸術はよくわからない人間ですが)、度肝を抜かれる演出(舞台上のあの巨大な手…動くんですよ…)、オーケストラ。イタリアの本気を見た!と感動するひとときでした。
足を伸ばしてフィレンツェへ。
見どころだらけのフィレンツェですが、絶対に外せないものといったら…
アカデミア美術館に収蔵されている、ミケランジェロ作、ダビデ像。
引力のある、凄みを感じる美しさでした。像の周りは黒山の人だかりでしたが、皆沈黙してじっと眺めていたのが印象的です。
何を見詰めているのだろうか、と想像を巡らせずにはいられないような強い瞳の表情と、不思議なポーズです(実際にはこのダビデは旧約聖書に登場する少年で、巨人ゴリアテに戦いを挑んでいます。つまりこの像はゴリアテを凝視していて、今にも戦いをはじめようとしているわけなんですが)。
ところでこのダビデ像、頭部や手がとても目立ちます。不自然なくらいの手の大きさです。ミケランジェロは下から見上げることを計算に入れてこのバランスを採用したと言われていますね。もしこの像の体のバランスが普通の比率だったとしたら…あまり印象には残らないものであったかもしれない。綺麗だけど、強烈な印象は残さなかったかも。手というものは、それほど存在感があるものだと実感します。
リアルだけれど、実はリアルではない。激しい闘争心を隠しているのに神々しい。人間なのに人間を超越している。不思議な魅力のある像です。
ダビデ像の奥には石膏室という部屋があり、1800年代の高名な彫刻家たちのコレクションを見ることができます。ここも素晴らしかった。
これらの石膏像は、大理石で像を制作する前段階のもので、ここから縮尺を大きくして本番の代理石像を制作します。ずらりと並んだ石膏像は圧巻。
これらは皆人が手で作ったものなのだと思うと、人間の創造性に震えます。美への憧憬と執着とはすごいものだなと。
それでは、もうひとつ別の都市、ヴィチェンツァへ。
ここも中世そのままの美しい小さな都市ですが、この街を有名たらしめているもののひとつがこの屋内劇場です。
オリンピコ劇場。
16世紀に建造されたこの劇場は、欧州最古の屋内劇場です。
素晴らしい装飾と創意工夫には感嘆するしかない。
舞台奥に向かって道が伸びています。極端な遠近法と傾斜が奥行きを感じさせる(奥行き18mくらいあるそうです)。なんとワクワクする仕掛け!
この舞台はあまりにも古いため、舞台奥のストリート部分は現在立入禁止となっています。研究者も入れません。というのも、大理石に見える部分も実は木造で劣化が激しく、少しの衝撃でも崩れかねないのだそうです。キュレーターの方曰く、いつまで現状維持できるかわからないとのこと。
人の手が作り出したものは、永遠ではない。来世紀には存在しているか定かではない…。
こういうものがあったのだと、記憶だけは残って欲しいと思いました。日本にも、そういうものがたくさんありますね。
そろそろ旅もお終いです。ヴェネチア最後の日。
ヴェネチアは夕暮れ時が一番美しい。
どこか見知らぬ場所へ迷い込んでしまいそうな雰囲気があります。
舞台のセットのような、非現実的な美しさがあります。
1000年以上昔のヴェネチアの人々も、同じ黄昏時を過ごしただろうか、と水上バスで考える。
駅に着きました。旅も終わりです。
おやすみイタリア。
イタリアの美しいものをいっぱい貰った旅でした。
皆様にもおすそ分けできていたら幸いです。