氷になったゾウのはなし

草原に大きな雨粒がひとつポツリと落ちました。
するとあっという間に大雨が降って来て周りは水浸しになりました。

シマウマやアナグマがいそいそと森や巣穴に帰っていくなか、一匹だけ雨に濡れたまま動かない動物がいます。
茶色い毛の生えた小さなゾウのようなその動物はひとりぼっち雨に濡れて悲しんでいるように見えました。

雨があがり動物達が草原に戻ってきました、サイの子供がその茶色の動物に訪ねました。
「雨が降ったのに森に帰らず何をしていたの?」
その茶色の動物は答えました
「みんな居なくなってしまって、僕には雨をしのぐ理由がわからないんだ」

変な事を言うやつだな..サイの子供はそう思って去っていきました。

茶色の動物は一日一日、少しずつですが弱っていっているように見えました、食べる草の量も減っています。
一ヶ月が過ぎた頃、その動物は草原から居なくなりました。噂ではどこかに旅に出たようです。
旅に出る前に、その動物はこんな事を言ってたみたいです、
「お父さんとお母さん、弟達の夢を見たんだ」

その茶色の動物は一匹ひたらすら南に向かっていました
食べる事も寝る事もやめてひたすら歩き続けました

彼は朦朧とする意識の中で、みんなと一緒に過ごした時の夢を見てました
そして、その幸せな時間が存在した証拠を残す為に、彼は自分はずっとずっと存在しなければいけないと考えたのです。

足が凍り付き心臓の鼓動が弱っていく中、彼は地球の最も南の場所にたどり着きました。
彼はしずかに立ち止まりみんなと過ごした幸せな夢の中、やがて深い眠りに落ちました。

そしてその後、静かに降りはじめた雪が彼を氷の中に包んでいったのです。

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