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コスメに恋して

化粧品売り場にて。
「カワイイ〜!」を連発する。
キラキラ輝く上質そうな手触りのパッケージ、眩しいほどのパールにラメラメ、丁寧にメイクを施した美容部員さん、シャンデリアのような装飾が施された華やかなドレッサー。
なんもかんもかわいい。
そしてパートナーによく言われる。
「その『カワイイ〜!』は犬とか猫とか赤ちゃんとか見たときの言い方だよ」と。

確かにそれに近しいものがあるかもしれない。
ふわふわきゅるきゅるのワンちゃんを見たときの今すぐに!抱きしめたい!と、
ツヤツヤピカピカのコスメを見たときの今すぐに!!タッチアップしたい!!
どちらも、愛しいものと触れ合いたいという本能から湧き上がる感情だ。

ところでこのカワイイ〜!から来る一連の行動として、化粧品好きの人々はコスメのことを「この子」と呼んだりする。
…わかる。
知らず知らずのうちに、命を吹き込んでしまうのだ。
私を毎日可愛くしてくれる。そこにあるだけで癒される。
そんな存在に「コレ」とはとても言えない。
いつもそばにいてくれてありがとう。
あなたはもう、恋人。

そしてもうひとつの行動。
ウキウキで購入した新しいコスメを、開封したてのキレイな状態でとにかく写真に収める。
家の中で、あるいは外で。
いい感じに光が入る場所をあちこち探して彷徨い歩き、ときにお尻とか突き出しながら、首とか攣りそうになりながら、何枚も撮る。
SNSに投稿してお披露目する場合もあるし、ただただ自分のコレクションとして楽しむこともある。
可愛いこの子の美しい姿を残しておかないなんて、罪なのだ。

使い切ったら使い切ったでまた写真に収める。
#使い切りコスメ のハッシュタグとともに投稿するなどの行動が見られる。
コスメオタクというものはコスメを最後まで使い切らずとも新しいものを次々と仕入れては「今月はもう買わない!」(大嘘)と叫ぶのが常だが、#使い切りコスメ はそんな新しいもの好きのコスメオタクが使い切ってしまうほどに素晴らしかったということなのだ。
ぺったんこになった洗顔のチューブや底の銀色が見えているアイシャドウを嬉しそうに眺める。
(#底見えコスメ とも言う。)

化粧品を日常生活で使うだけの消耗品と捉えている人からすると、異常ともとれるこれらの行動。
でも、化粧品ではなくても多くの人がきっと、思い当たることがあるはず。

あれよあれ、そう、恋。

恋をすると人は、おかしくなってしまうもの。
消しゴムに好きな人の名前を書くと両思いになれるというおまじないを信じてみたり、メールアドレスに恋人の名前を入れてみたり、2人で撮ったプリクラを携帯電話の裏に貼ってみたり。
(ちょっぴり世代がわかりますね。今の時代のこういう黒歴史行動ってどんなかんじなのでしょう。Z世代のみなさん教えてください。)
どこへ向ければ良いのかわからぬこの謎のパワーをどうにか発散すべく、衝動的な行動を起こしポエムをしたためる。
こんなの私じゃない!と戸惑う。
が、時すでに遅し。
自分を突き動かすこの力に抗うことはならず、冷静な判断力を奪われたまま怒涛の流れに身を委ねるしかない。

そうして赤面しながらも全速力で駆け抜けている人は皆、美しい。
対象が勉強でもスポーツでも趣味でも、何かに夢中になっている姿は心を動かす。
周りには目もくれず没頭している横顔は、外資系ブランドのラメたっぷりコスメをもってしても生み出せない輝きを放つ。

そう考えると、このバカみたいにコスメに夢中な自分も、もしかして誇ってよいのかも、と思えてくる。
胸を張って言おう。
いつも全力で、コスメに恋している。
これからもきっとずっと「カワイイ〜!」を連発しながら百貨店を徘徊し、いい感じの光が入る撮影場所を探し、コスメへの愛をポエミーに綴るだろう。
やめられるはずがない。
だって恋しているんだから。

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