引っ越し。蘇る恐怖。⑤

幸せな日々が1ヶ月程経ったある日、家に祖父母がやって来た。
そしてそのまま不動産屋に連れて行かれ、新しい家の話がトントン拍子に決まっていった。
引っ越し日は半月後。
契約など諸々が終わり、家に帰宅した。
母は笑顔で僕に、「引っ越しの準備しなくちゃね」と言った。
僕は笑顔で頷き、母に抱き付いた。
このまま時が止まればいいのにとさえも思えた。

引っ越し準備が終わり、引っ越し当日になった。
今までの住み慣れた家ともお別れだ。
この家には悪い思い出しかない。
新しい家では楽しい日々が待っている。そう思えた。

引っ越しが落ち着き新居に住んで3ヶ月が過ぎたある日、学校から帰って来ると家の前に見慣れない車がいっぱい停まっていた。
僕は恐る恐る家に帰った。
玄関に入ると室内が煙で白くなっていた。
そのまま2階にある自室に行く途中、1階のリビングの扉から母の姿が見えた。
嗅ぎ慣れたタバコの匂い。そしてお酒の匂い。
その中に包まれた母と知らない男の人が4人居た。
僕は訳が分からず2階に駆け上がった。
男の人が怖かった。
何より怖かったのは、僕を殴っていた時と同じ笑顔をした母がそこに居たからだ。
母が階段の下から叫んでいる。
「降りてこい」
僕は怖かった。布団にくるまって震えていた。
母は2階にあがって来るなり布団越しに僕を蹴った。
僕はただただ泣いていただけだった。
そんな僕に母は「男の癖に気持ち悪い。殺すぞ」
と言い放ち1階に降りていった。

僕はこの時に思った。
「あぁ、又地獄が始まる」と。。

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