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自己物語探究の旅(12)  

 残り一か月で2018年が暮れていきます。札幌は例年になく遅い初雪でしたが、まだ根雪になる気配はありません。それでも降りしきる雪に、オフコースの「もうすぐ外は白い冬」との歌詞が想起されます。

 来年には元号も変わり、新しい年代への移行が本格的になります。新年を前に、当方が最初に担当した卒業生(1998年度)から、同窓会の案内が届きました。彼らが卒業してちょうど20年目であることに重ねての企画です。数年前にも声をかけて頂きましたが、その時は家庭の都合で参加が叶わず、悔しい思いをしたのでした。

 以前の連載(音楽・平和・学び合い)では、セルフ・ライフ・ヒストリー・アプローチと名付けて、音楽と出会った小学校時代から中・高・大・院を経て、教員になってからのエピソードなどを紹介させて頂きました。初任校での実践についても、(9)で以下のように書いていました。一部再掲します。http://archive.mag2.com/0000027395/20111103232840000.html

(前略)
 初めて卒業生を出した初任校での3年目、全く歌わない先輩を見ながら育った子どもたちのために『旅立ちの日に』を混声4部に編曲し、「世界に一つしかない、おまえ達のためだけの歌だ」と声をかけ、1年かけて本気で合唱にとりくんだ。新卒1年目で子どもにあばら骨を折られた時、「こんな仕事やっていけない、やめよう」と思っていた私に先輩がかけてくれた言葉。「3年辛抱してご覧なさい。子どもたちと音楽を奏でられて良かったと思うときが必ず来ますよ」。本当にその通りだった。涙を流しながら歌う彼らの姿に接し、音楽の力を実感した。やめずに続けて良かったと強く思った。学校で感動をプロデュースできる音楽科の強みを知った。
(後略)
「Always Good Music Together 
          いつでも一緒に良き音楽を」北海道生活指導研究大会 
                   中学校部会提出レポート(2010)

 「あばら骨を折られた」とは只事ではない書きぶりですが、詳細を紹介するのが憚られるような強烈な荒れが、確かにそこにはありました。「若かったあの頃、大学院を修了して25歳で中学校教員となった私は、子ども達と出会った初日から、自らの非力を痛感させられる出来事を体験します。着任式の壇上から見た子ども達の雑然とした姿。乱れた制服、止まない私語、校歌斉唱もほとんど聞こえない。」旧連載(14)をここまで書き、そこで筆が止まった私は、結局2012年の連載を1年間休ませて頂きました。

 書けなくなった春、北海道教育科学研究会の学習会に招かれて「中学校教師の困難と希望」というタイトルで発表する機会を頂いたのですが、やはり当時のことが上手く表現できず、配布資料には次の様に書いたのでした。

(以下引用:前略)
 本来であれば、初任校の8年で経験した様々なエピソードについて語ることが本稿の目的であるのでしょうが、残念ながら思い出すだけで身体が固まり、どうも上手く書けないのです。田中孝彦先生がJ.ハーマンを引きつつ仰る「傷つけられた自己(damaged self)を修復し、関係的な自己(relational self)を構築し、回復・成長する事が可能」(田中孝彦『子ども理解と自己理解』p.54 かもがわ出版 2012)というのは、頭では分かるのですが、まだこの事を物語り「再ストーリー化」(クランディニン)するには、もう少し時間が必要そうです。
(引用以上)
 

 資料ではこれに続けて、最初に紹介した「北海道生活指導研究大会中学校部会提出レポート」(2010)の冒頭部分を引用しています。改めて引用し紹介します。

(以下引用)        
1.初任校にて
 教師になって14年。現任校は2校目で、赴任して今年で6年目になる。初任以来ずっと担任を務めてきたが、昨年度は初めて担任を離れ、生徒会部の代表を任されて2年目となった。初任校は北区の荒れた学校で、1年目には2学期始業式にガラスが80枚以上割られ、学校祭直前には暴れる生徒にあばら骨を折られ…。散々な思いをしながら、子どもたちとの戦いの日々を送っていた。音楽科の教員として、子どもたちと心を通わせ、豊かな歌声の響き合う学校をめざしたものの、最初の2年間は全く思うように進まなかった。
 吹奏楽部の指導でも子どもたちとの折り合いが悪く、最初の年は平気な顔をして部室でおやつを食べる子どもたちに翻弄されるだけ。2年目に開校50周年記念のファンファーレを自作し、一緒に演奏したくらいからようやく「先生」と認めてもらったような感じだった。4年目くらいから吹奏楽部の活動も軌道に乗り、それなりに上達してきてコンクールにも真面目に取り組む雰囲気ができてきた。そのきっかけとなったのが、合奏指導に来て下さった相場皓一先生(フルート奏者)の言葉「Always Good Music(いつでも良き音楽を)」だった。コンクール前で緊張感が高く、行き詰まりを感じていた私たちを前にして、先生はこんな話をしてくれたのだった。

「君たちは何のために音楽をやっているの? 音楽というのは、その人の生き様そのものです。舞台に立ってその生き様を聴衆に示すのが演奏するということです。半端な姿を聴いている人に示すのは、自分自身に対しても、聴衆に対しても失礼です。舞台の上で精一杯生きているその姿に触れて、人は感動するのです。中学生である自分を越えて、舞台に上ったその瞬間から、君たちはアーティストなのです。アーティストとは、自分の生き様を全身全霊を込めて表現する人のことをいうのです。」

 どんなときも子どもの可能性を信じて、音楽を奏でるように彼らと響き合うこと。新たな目標が生まれた。3年生が二人しかおらず、なかなか本気になれずに、何となく音楽に向き合っていた子どもたち。相場氏の言葉は彼らの心に火をつけ、「全身全霊を込めて表現する」アーティストたらんと、熱の入った仕上げに取り組んだ。結果は初の金賞受賞。その後も「いつでも良き音楽を」をスローガンに掲げ、部活動の時だけでなく、授業でも行事でも、委員会でも、どんなときも精一杯手を抜かずに取り組むことをお互いに要求しあい、高め合おうとする子どもたちの姿があった。その取り組みの継続から、3年連続で地区大会金賞受賞という成果を挙げ、校内でも高く評価される集団へと成長していった。たくさんの子どもたちや同僚と出会い、育てていただいた8年間。転勤の時、初任から6年間、同じ学年で一から教えて下さった先輩は「2校目で教師としての真価が問われる」と送り出してくれた。今思えば私はまだ若く、情熱さえあれば教育は成立する、と少し思い上がっていたようにも感じる。
(引用以上)

 残念ながら健康面の不安など様々な要因が重なり、前回紹介した「詩のようなもの 21」で綴ったように、2014年に吹奏楽指導を降りることとなりました。初任の頃、共に熱く音楽を奏でた生徒たちとも、今月末20年ぶりの再会を果たすことになります。

 上記引用で相場皓一先生が訴えた「アーティストであれ」との言葉は、当時吹奏楽部員ではなかったものの、三年間私の担任した学級で過ごした生徒が実現してくれました。先月Zeppなんば大阪にてワンマンライブを成功させた、「ナイトdeライト」http://night-de-light.com/(2006年結成の4人組バンド)でドラムを担当している田中満矢さん(札幌新生キリスト教会ユースパスター)は、初めての卒業担任クラスで学級代表を務めてくれた生徒です。中学卒業後も縁あって、彼の教会で行われるファミリーバンド・ライブに招かれ、トランペットやサックスで共演したことがあります。

 彼とは互いの子どもが通う幼稚園が同じであることもあり、今も家族ぐるみで交流させてもらっています。今週末(8日)には彼の実家で行われるライブでも顔を合わせることとなります。ちょうど3年前のこの時期、当方のフェイスブックで、彼らのことを次のように紹介したことがありました。
 
(以下引用)
2015.12.8(火)
 20年前、初めての担任学級で出会い、3年間を共に過ごし、初の卒業生の一人であった田中満矢くんが所属するバンドです。恥ずかしながら若き日の私は、夢を語る彼に「プロのミュージシャンって、厳しい道だよ」としか言えませんでした。私自身も高校時代の音楽教師から「お前が教育大音楽科なんて無理」と言われ、傷つくと共に奮起した経験を持っていたにもかかわらずです。
 30代前半の立派な青年に成長し、凛として夢を叶え、家族を支える逞しい存在となった彼と彼らの音楽から、たくさんの勇気と希望、感動をもらっています。HPからyoutubeへのリンクでPVが視聴できます。どの作品もおすすめですが、特に彼が作詞・作曲した『夜明け前』は、深いメッセージを伝える名曲です。
 バンド名である「光の夜」のごとく、大田尭先生の「かすかな光へ」の思想とも通ずる彼らの音楽の世界を、多くの「生きづらさを抱える当事者」の皆さんに知ってもらいたいと感じ、ささやかながらここでシェアしたいと思います。どうぞ、お時間のある時に、彼らの世界に触れてみてください。(引用以上)

 またも引用に終始しましたが、彼らの作品の中で私が最も感銘を受けた曲の歌詞を紹介して、今回の記事を終えます。彼らの2ndシングルである『家』(2011)という曲です。同窓会でかつての生徒たちと再会することは、私にとって「家=ホーム/原点」への帰還という意味をもつように感じます。では皆様(少し早いですが)新しい年が希望に満ちたものになることを祈りつつお別れします。良い年をお迎えください。

(以下引用)
♪家 
https://night-de-light.com/kashi/002-01.pdf

夜も明けてきたよ 家に帰ろう 君が戻るのを ずっと待ってるから
誰に傷ついて どこで見失い 何でつらいかを 全部わかってるから
確かなのは 君のことを 何があっても あきらめないこと
君のしたこと 間違えたこと その背中に 背負ったこと
何より 君はかけがえのない人だよ いつでも
新たな 道は踏み出せる 待ってる 帰ろう

後ろを向きながら 前へは行けない 
それに気づいたら 未来は変えていける
立ち上がるのは それを選ぶのは 他でもなく 君なんだよ
足に力を 手にはチャンスを その心に 踏み出す勇気を
明るい光浴びるのが 怖くて 逃げてたなら
心の中に灯ってる 光を感じよう

グルグル渦にのみ込まれそうになって
自分が何かもよくわからなくなって
傷ついたんだなぁ 折れていたんだなぁ
こんな僕でも 待っていてくれるだろうか

明るい光浴びるのが 怖くて 逃げてたなら
心の中に灯ってる 光を感じよう
何より 君はかけがえのない人だよ いつでも
新たな 道は踏み出せる 待ってる 帰ろう


参考資料:笹木陽一「音楽・平和・学び合い(9)」(2011)  
      http://archive.mag2.com/0000027395/20111103232840000.html     
    〃    「中学校教師の困難と希望
          ~セルフ・ライフ・ヒストリー・アプローチの試み」
            教育科学研究会全国大会プレ学習会資料(2012)     
   〃   「Always Good Music Together いつでも一緒に良き音楽を」
        北海道生活指導研究大会・中学校分科会レポート(2010)
北海道教育科学研究会ブログhttps://blogs.yahoo.co.jp/doukyoukaken

田中孝彦『子ども理解と自己理解』かもがわ出版(2012)
J.ハーマン『心的外傷と回復〔増補版〕』みすず書房(1999/2011)
D.ジーン・クランディニン他(田中昌弥訳)
『子どもと教師が紡ぐ多様なアイデンティティ
   -カナダの小学生が語るナラティブの世界』明石書店(2006/2011)相場皓一氏HP http://www.watarase.ne.jp/aiba/

ナイトdeライトHP http://night-de-light.com/

『家』YouTube  https://www.youtube.com/watch?v=KrO2fqSzSzA

大田尭『かすかな光へと歩む 生きることと学ぶこと』一ツ橋書房(2011)



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