川柳句会ビー面 2024年8月
匿名互評の川柳句会の選評と投句一覧。目次に無記名の句一覧があるため、無記名句一覧の仮想体験も可能。(2024年9月参加者*ササキリユウイチ・スズキ皐月・公共プール・南雲ゆゆ・城崎ララ・太代祐一・西脇祥貴・雨月茄子春、8人)
プラットホームにいたっていいか
紅葉と時代錯誤に言いたまえ
産声が待合室で身を晒す
落ちてるベロはしまっちゃおうね
蝋燭の炎に影のカワイサン
太陽も煮物も直視してはだめ
罪悪感でPUMAが煮える
最高のねぐせは麦の島である
待つ人が外す真顔とヘッドフォン
やむにやまれず夏を噛ませる
魔導図書館のベテランだけが寝る
ポルノグラフィティはポルノグラフィティ
粉の多いわたくし性のバニーちゃん
歯磨きは正しい座位の師であった
さいですか死海文書のアンチすか
あの双子が終末時計の裏にいる
てんとう虫を並べて終わる通り雨
虫ノ闇イチロウサンニ渡ス鍵
でも酸っぱいから壊してあげる
ニューロンが花盛りになる夏の人
みどりごの聖書詰め(くもはのずえに)
この世ジャンパーもうとほほもうとぶよ
わたし迷子の耳鳴りでした
オムレツを埋めて赤組いい匂い
プラットホームにいたっていいか
口調と「プラットホームという目的地にはなりえない場所にいることを認める」ことのおもしろさが指摘できると思う。しかし書かれていること以上のメッセージが感じられず、「プラットホーム」という限定がかえってこの句の広がりを阻害してると思った。
────────雨月茄子春
プラットホームにいる、と聞くだけで下方ベクトルのものすごい引きを感じるな、と改めて思った。いたっていいか、って言ってるだけなのに。いかにたくさん飛び降り自殺の話を聞いて大きくなってきたか。でもこの句は違う。落ちない。いたっていいか、だもん。よね? で、いたっていいと思う。これはいたっていいと思うか思わないかで見え方が変わりそうで他の人の評が気になります。あとこのホーム、電車来る? ほかに人いる? その辺もぜったいそれぞれ変わると思う。
────────西脇祥貴
いた(至)っていいか(?)
────────ササキリ ユウイチ
紅葉と時代錯誤に言いたまえ
くびき語法(「複数の異質な目的語を一つの動詞で支配する語法。」https://note.com/eidola/n/naf405520f621より、紅葉と時代錯誤を並列させたことと、古風な命令調のおもしろさが指摘できると思う。しかしながら、紅葉も時代錯誤も古風さに絡めとられてしまい、案外小さくまとまってしまっているのではないか。また、両者ともに苦情のようなものを言う対象ではないため、この句の像が結びづらいのはもったいないと感じる。こういう、日常風景を切り取って戯画化する川柳は、像が結ぶと気持ちよく感じられる気がします。”絶滅も指名手配も断った/平岡直子『Ladies and』”が良い句だと僕は感じる。絶滅も指名手配も断ることができる対象であるために得心がいくからだと思う。くびき語法は、この納得感が肝になると思う。
────────雨月茄子春
時代錯誤だったの? じゃあいまなんて言うのかな。という話と、紅葉♪ 紅葉狩り♪♪ なんてのんきさへ突き立てる切っ先という話と。だれが言ったか論を広げたくなってしまうけど……まあそれはいいでしょう。しかし言いたまえ、ってそれこそ時代錯誤な言い方なのは、セルフパロディなんでしょうか。だとしたらちょっとキメ顔見え見えか。
────────西脇祥貴
産声が待合室で身を晒す
産声によって存在が認知された、という句だろうか。待合室という匿名の空間で、異変が起こったことによりその匿名性が暴かれる瞬間を切り取ったとしたら上手いとは思う。しかし、これはやや高度な新聞柳壇の作品という印象を覚えてしまった。ひとつには、主語があり、場所の指定があり、動作があるというあまりにも説明過多なつくりがあると思う。比較的予定調和的に句が進んでしまったという感があった。
────────雨月茄子春
「産声」と「身を晒す」が一句の中で重なり合うことで生まれた、ぬるっとした語の手触りが興味深いです。
────────太代祐一
①「産声」の「身」、か……。それか②産声が、で切れるのかな。で、主体が身を晒す。それか③第二構文で産声=待合室、そんな状態を前に身を晒してるのか。こういう読み筋って3つ以上出るとやっかいだな、という気がしてます。やってる本人は一筋だと思ってやってる(あるいはより多数の筋で混乱させてやるつもりならそれは大歓迎)と思うんですけど、平岡さんがこの間そんなようなことをつぶやいてはったので余計この句にはそう思いました(https://x.com/tricot75/status/1829151428407112174)。混乱させる意図まではないと思うけど、助詞が多いからかな。でもやっぱり主語産声、動詞晒すなのかな。だとすると産声はすでにだいぶ晒してるよな、という気もしなくもなく。
────────西脇祥貴
落ちてるベロはしまっちゃおうね
茶目っ気のある口調が句と合っていると思った。ベロが落ちてるっていうのは「ほっぺたが落ちる」という慣用句のおかげで、リアルベロがちぎれて落ちているというイメージを経由しつつ、ベロが落ちるほどの何かしらがあったのであろうという理解にたどり着ける。「ベロをしまう」も、口に戻すというところで理解ができる。口調によって、なんというか、保育士さんが子供を世話している感覚を得ることができ、おどろおどろしいというよりは平和な句に思える。まあ、実際にベロが落ちていて、それをしまってもおもしろいと思う。一度で二度おいしい。パクパク。
────────雨月茄子春
しまっちゃうおじさん(on『ぼのぼの』)、っていま打とうとしたら予測変換にしまっちゃうおじさん出て来て、そんなに浸透してるのかしまっちゃうおじさん、と思いました。しかししまっちゃうおじさんかどうかはこうしてしまっちゃうおじさん、と数度書いたらもう満足で、それよりも「落ちてるベロ」の面白さを掘りたい。なぜ落ちている。しかもこれ、点々と各地に落ちている雰囲気が感じられる。落ちてること=よくあること、みたいな。しまっちゃうおじさん口調があまりにスムースなのでそう思わせるか。実際、ベロは落ちてそうなものではある。嘘ついたら抜かれる、というあれがあるし(厳密に言うと生前は無いが)、牛タンのかたまりの画も浮かべられる。だから画も、その裏にあっただろう物語も、こう並べることでおのずとついてくる。これは強い。あとは設定された物語のコンセントに、読み手がどこから別の物語を挿し込むかしだいでいくらでも面白くできる。ただ、どこにしまっちゃうかだけが不明でそこが超絶ホラー。
────────西脇祥貴
しまった方がいい。しかし、そもそもベロが落ちているのは不気味に過ぎる。不気味すぎる状況で「しまっちゃおうね」と呼びかけてくる人物も不気味だ。しかも「しまおうね」ではなく「しまっちゃおうね」のあたり少しの後ろめたさや悲劇感もある。不気味なのになぜかユモーラスにも見えてくる不思議な句だった。
────────スズキ皐月
ベロが落ちているとかなり怖いので、イミテーションとしてのロリポップを相続して読んだ。
────────城崎ララ
蝋燭の炎に影のカワイサン
果たして"ササキサンを軽くあやしてから眠る/榊陽子"を経ているわたし(たち)はこの句をどう読むだろうか。また、川合大祐さんもちゃんと浮かんでいるわたし(たち)は。「影のカワイサン」という倒置には頑張り賞を与えたいところだけど、「蠟燭の炎に」は「影のカワイサン」の状態を、壁などに映った影というように見え方を限定しすぎていて、それは丁寧なんだけど丁寧すぎておもしろみを減じていると思った。先行句と川合さんを超える読みが出なかった点で、僕の中では力不足な句という判断となってしまった。良い読みが出ることを祈る。
────────雨月茄子春
師匠の「ササキサンを軽くあやしてから眠る/榊陽子」をどうしても思い出し、あの句の絶大な魅力であるカナ表記による異化/純化にどうあやかろうとしてるのかな、なんて四年目にもなるといぶかってしまう。やな読み方ですね。でも川柳に出す個人名(?)として、カワイサンはちょっと不用心すぎでは。何度か見てたら薬の名前にも見えて来て(グロンサンみたいな)ちょっとおもしろいけど。景は好きです。
────────西脇祥貴
太陽も煮物も直視してはだめ
見つめる鍋は煮えない。太陽と煮物はそこで共通項で見つかるのか……着眼点が良い。もっと興味深いのは「だめ」の内実が太陽と煮物とでは異なるところだ。太陽を直視する行為は、実際人体に危険だから禁止される一方で、煮物を直視しても何の悪影響も生じない。元のことわざでも、そもそも行為の禁止まではされていなくて、行為の無意義性について言及しているだけなのだ。「してはならないこと」と「してもつまらないこと」が「だめ」の一語にまとめられることで、同一のものだと誤認する。冒頭で共通項と言ったが、そう思わされただけで、よく考えたら共通項でも何でもないじゃないか……!剛腕で同一視させてしまう「だめ」がすごすぎる。「だめ」についてもっと考えたい。
────────南雲ゆゆ
直視してはいけないものとして当然の「太陽」をあらかじめ持ってきておいて、そのずらしに煮物を引いてきたのが良かったです。二つとも直視してはいけないものを提示するのはいけないし、二つとも訳わからないものでも駄目だし。何かしらの前提ありきのずらしの好例かと思います。
────────太代祐一
いいずらしじゃない? 煮物。個人的に川柳便利ワードではあるけど(千春さんが句集『こころ』にて「煮る」を多用するなど)(川合さんもよく煮ているなど)、直視してはだめ、まで言われるとあ、この道があったんだ、と思えました。煮物を空欄にして何が入るか問題とすれば、わりと手堅い回答ではある。でも実際のものを思い浮かべてそれを直視しちゃだめ! って言われると、ものすごい「なんで?????」が来る。していいじゃん! この落差のエネルギー+、真に太陽系最大のエネルギー体である太陽が出てくることで、だめ、の強度ががん上がりするのがおもしろい。そうか、煮物もちいさな、熱源だったんだね……。煮物を中心としたちいさなソーラーシステム、煮物の周りをまわるなにがしか。煮物コスモス。こいつぁおもしろくなってきやがったぜ。
────────西脇祥貴
「太陽を直視してはだめ」の大人から子供へ授けられる言葉だからかもしれないが、この句も教える者から教わる者への言葉のように感じていて、きっと煮物を作る過程での言葉なんだろうと思った。メイド喫茶のメイドがオムライスに呪文で魔法をかけるように、煮物も作る過程で直視しないことでかかる魔法もあるのかもしれない。味に直接関わるわけではないが、おまじない程度に煮物を美味しくするためのことなのかもと受け取った。
────────スズキ皐月
おっいいじゃんと思ったら僕の句でした。というのは冗談として、「太陽を直視してはだめ」という定型句に「煮物」を投げ込んだのはどうだろうという句です。くびき語法(2番目の句の評を参照)と逆・額縁法(暮田真名メソッド)のミックス。「煮物」が具象でありかつ動作であるところは頑張った点。具象オンリーはだめ(改作案に「子供」があって、こちらは音が良かったのだが没にした)。煮物で世界観を広げられたか否か。判定はいかに。
────────雨月茄子春
罪悪感でPUMAが煮える
学校のイメージが浮かんだ。罪悪感を葛藤と言い換えて、PUMAを運動靴と拡大解釈すると、葛藤×運動靴=道徳の授業→学校が算出されるためにこうなったと思う。靴が煮えるようほどの罪悪の気持ち、ということなのだろうか。「煮える」の選択は、PUMAのロゴの動物ピューマが煮える光景も幻視させられて気が利いている。うん、悪くないと思う。二重三重に練られている努力の句。
────────雨月茄子春
また煮えてる!! ビー面煮たがりの宝庫!!! 関係ないけど川柳芋煮会、やりたいですね。いや実現できるなら川柳は外してもいいけど。閑話休題。こうなってくると煮えるの汎用性がさまたげになってくる……罪悪感を抱いているであろうグローバル企業としてPUMAを措く必然性とか、よしそれがあったとしてどこで確定したのか、形状か、それならJAGUARでもいけるけどな、とかいろいろ勘ぐってしまう。PUMAとJAGUARのエンブレムが似すぎているのが気になるかな、似すぎなものがあるとぶれに思えちゃう。それは「グローバル企業」に回収されるPUMA、という意味でも。
────────西脇祥貴
罪悪感は便利ワードすぎると思うのだけど、固有名詞を入れるのは良い方向性な気がする。ただ、PUMAも固有名詞界の便利ワードではあるので、二つを繋ぐ動詞がこの句の肝だったと思うが、「煮える」が最適だったかどうか。「煮」の必然性という意味では「太陽も煮物も直視してはだめ」が今回あったので、どうしても弱く感じてしまった。
────────南雲ゆゆ
最高のねぐせは麦の島である
頭全体を島に見立て、島中に麦が生えているようなヘアースタイルを光景として誕生させ、そこに金色の麦が実っているというおめでたい雰囲気を持ってきています。断定口調も最高に気持ちがいい。大好きな句です。カンパイをしましょう。
────────雨月茄子春
最高のねぐせと言い切ったのが良い。夏の遠景のイメージ
────────城崎ララ
めっちゃ笑いました。元気でいい!麦畑を頭髪とは、新たな視点ですね。ねぐせなら垂穂でしょうか。口調がほんと良くて、「最高の」でちょっと身構えてたら、「~は~である」と言い切られて、それも「麦の島である」。脳裏に広がる麦畑。麦の島。生命力と人間賛歌を感じました。
────────南雲ゆゆ
これこそ575で問答体です
────────西脇祥貴
待つ人が外す真顔とヘッドフォン
嬉しいひとがきたのだといいな
────────城崎ララ
待ち合わせの光景を切り取った句と読みました。語順が気になったかな。真顔とヘッドフォンは音は悪くなっても逆のほうがマッチしてたと思う。これだと真顔が外れて、ヘッドフォンが外れるという順番がどうしてもできてしまう。……もしかしてその順番をねらってたのならゴメンナサイ。
────────雨月茄子春
え? って振り返ってぞっとするホラー川柳だ。夏ですね。でも真顔も川柳でよく見るような。ただこの句だと「待つ人が」という状況があるので、想像の余地が取ってくれてある。ホラーきらいなので並選にしませんが、というのは自分勝手すぎるのでちゃんと書くと、ホラーという構造のエンタメ上の超便利さに、いかにただ乗りしないでやれているか、って目が厳しくなっちゃいます。川柳でホラーって難しいですよね。だってホラーにしなくたって川柳は十分ありえない切り口が見せられるし。ホラーの構造だけだと物足りなく感じる。面接とかの待機→順番が来た瞬間、と取れば、うーん、リアル句会では抜けそうな気もするけど(題:面接、就活、らへん?)、今回の中だと予選かな。
────────西脇祥貴
やむにやまれず夏を噛ませる
季節は逃げだ、と思う。思いつつ、しかし「やむにやまれず」なら仕方ない。噛ませることができる夏のもの。僕は帽子のゴムなんかが浮かんだのだけど、そこから駄々をこねる子供に「ああもう帽子のゴムでも噛んでなさい」と言う親が見えた。それが良かった。
────────雨月茄子春
箪笥の下とか、がたがたいう椅子の足とかにかな。よっぽどなにもなかったんだろうな。その周囲によっぽどなにもなさが、七七のおかげでむちゃくちゃ拡張されていて面白い。上七がたんなる導入の言い回しで使い切られてるのも、なんにもなさを描きだす足しにしれっとなっている。いい七七。状況の生活感みちみちぶりもよければ、ひねりポイントが一つ、しかもそこに賭けた夏が、夏なのに、いい感じだぞ? となっているのが繰り返し読んでも味わい深い。寿命長そうです。令和武玉川やりたくなりました。
────────西脇祥貴
なんか口で噛むんじゃなくて、テーブルや机のがたつきを直すために畳んだ紙を脚と床の間に挟む意味での噛ませるのほうの意味に思えた。たぶん、暑苦しい豪雨のがある夏なんて本当はいらないのに、春と秋ががたついてるから?夏を挟んでるんだと思う
────────公共プール
魔導図書館のベテランだけが寝る
「だけ」の限定の仕方が、ベテラン以外の想像を強いているようで今回はそこへの反発心が勝った。魔導図書館というファンタジーワードを使用するのはとてもいいことだと思います。
────────雨月茄子春
うー、魔導図書館、しんどい……。前提共有への圧がつよすぎる……。まあそれは個人の受け付ける/受け付けない問題だからいいとしても、そのあとが魔導図書館に比してかなり普通でびっくりしました。ねこだまし食らった気分。バランスで言えばもちろん抑えるところだけど、これは抑えすぎか。でも雨月さんでした、とか言われると評価しそうな自分がいてそれもなんかいやだ。それでよく見えるっていうなら、いいところはこの句の中にちゃんとあるはずだ……。いや、そうなのかな、句会の選句期間中でない限りは、作者のキャラクターが句を底上げすることもあっていいんじゃないかな……。もうわかんなくなってきました。一周回って雨月さんだったとして、じゃあこの句は雨月さんの佳句か? って考えたらちがうな、と思ったので予選にしておきます。
────────西脇祥貴
ポルノグラフィティはポルノグラフィティ
意味不明どころか意味があるのかも不明だけど、なんか一言いいたくなる。面白いと思ったら負けになるタイプの句なので、選んでおきました。意味は本当にないのに……。
────────南雲ゆゆ
17音。案外やられてないのでは、もろA=Bというこのかたち。もはや問答体へのアンチどころか冷やかし。ただなんだってできるだろそれは、にどうやって反論する気があるのかないのか、ここから見えないのはつらいか。でも見た目はいいねなんか。オフィシャルグッズにすればいいと思う。あっ、ていうかこれ「かもめはかもめ」っつってみゆきさんが46年前にやってるやつじゃん、あっぶねえ指摘しそびれるところだった。だとしたらこの句の価値は17音に合わせたところと、もうビッグになっちゃったから誰も言えない「ポルノグラフィティ」ってことばの不道徳さと字面の滑稽さへの、裸の王様に対するこどもの目を通したうがち、あたりになるのかな。にしてはポルノグラフィティ自身の積み上げが弱いな。ポルノグラフィティはいつこの句を名句にできるくらいの存在になれるのでしょう(THUMPxまでは買ってました)。
────────西脇祥貴
ちょっとおもしろい
────────公共プール
意外と川柳ではまだ触れられてないところではないでしょうか。ポルノグラフィティ。小学生のときに「ポルノポルノ」言ってたけど、これ仕掛けた大人は嬉しかっただろうな。
────────雨月茄子春
粉の多いわたくし性のバニーちゃん
ふたつの読み方があると思う。「粉の多いわたくし/性のバニーちゃん」と「粉の多いわたくし性のバニーちゃん」。性のバニーちゃんは、どうしてもバニーちゃんが性的だからこの読みが成立する気がしており、後者(わたくし性)は私性という言葉によって読まれると思う。僕は前者で読むのがおもしろいと直感している。粉が多い人は性のバニーちゃんという前提があり、わたくしは粉が多いので、性のバニーちゃんなのである。「粉の多いわたくし」もなんだか意味深で、ここもまたウェットな夜の雰囲気を感じる。一句をまとめ上げる力量を認めつつ、予選ーーーと思いましたが、上手いと思うので並選に上げました。
────────雨月茄子春
いろいろ言ったけど、12.の句の後に来てよかったな、と思っています
────────西脇祥貴
歯磨きは正しい座位の師であった
歯磨きが座位に通じるのはなんかわかる。姿勢って歯が作るものだから。この句は昔の漫画みたいな口調で、それが箴言・金言っぽく響いてるのがズルい。おもしろいもん。
────────雨月茄子春
こんな感じの口調で師を回想してる人物が「歯磨き」って言葉使うの面白い。「この人も歯磨きとか言うんだ……」みたいな。座ってする歯磨き、幼少期に歯磨きを習った時のことだと想定したのだが、「この人にも幼少期があったんだなあ」と思ってる感情に近い。/ところで正座ではなく正しい座位があるのだとすれば、この主体は所作を厳しく躾けられた人なのかもしれない。身体的に獲得した正しい座位を、親に躾けられたものではなく、自分で手を動かした歯磨きに教えてもらったとずらすのは、抑圧から抜け出すことなのだろう。
────────南雲ゆゆ
歯磨きに座位があるのかという発見。じんわりそこここからにじむ師への敬意が、はちゃめちゃを貫いてまとめています。過去形だからおそらく物故者。主体にとってはかけがえのない師だったことでしょう……にしても思い出すのが歯磨きって。よほど他のときの姿勢がだらしないやつだった可能性もあるなこれだと。
────────西脇祥貴
さいですか死海文書のアンチすか
怒りは貧弱の娯楽って、インターネットでどこかの誰かが言ってたけど、こういうちょっと怒ってる人を見るのって余力があるときはおもしろい
────────公共プール
死海文書からどこまで引き出すかが読み手の頑張りだと思うけど、まずは死海文書についての知識を共有して、そのうえで読むという手順が必要で、そうさせる強度があるか、という点で、この口調はその足を引っ張っていると思いました。真面目さを袖にしてしまう口調な気がします。しかし、なんにでもアンチは沸くんだな、みたいな楽しさはありますよね。
────────雨月茄子春
たくさんいるだろう死海文書のアンチに対しての反応としては予想の範囲内。さいですか、とアンチすか、で踏んでいるのもだいぶ狙いが透けてる。~すか、に限らず口語語尾って、実際日常で使ってる度合いが試される気がする。西脇は口が悪いのでしょっちゅう使いますが、句にしてはまってるかどうかは……どうなんでしょう。この句については、たぶん5・7まではそんなに悪くなかったと思う。あるいは7・5はそんなに悪くなかったとも言える。
────────西脇祥貴
あの双子が終末時計の裏にいる
あの双子、の指し示すものがありそうでヒントがないところが難しいかなと思いました。終末時計の裏への着目はオリジナリティがあって素敵。しかしあの双子……
────────雨月茄子春
この「あの」は……あんまり効いてないのでは? 中八下五がそんなに悪くないだけに気になってしまいました。ブラックラグーンとかいろいろ想像はできるけど、ちょっと読み手任せすぎるかも。双子の像を結ぶのがさほど難しくないからなおさら。これは書き込んでほしい。
────────西脇祥貴
この双子はザ・たっちです。誰にも見られることのない幽体離脱のギャグをやっててほしい
────────公共プール
てんとう虫を並べて終わる通り雨
通り雨の、まだ誰も触れていないであろう効力に言及している点が白眉と思いました。「終わる」が甘く入ってる気がするのと、並べる、終わる、通ると動詞が渋滞しているところが損かもしれない。
────────雨月茄子春
なんかいいな。終わる、がちょっと引っかかるけど(ほかにいい言い方はありそう……いやあるかな?)、現実にできる行為×現実にやって来る状況、かつ現実にこの二つが重なる/重ねることはまあないであろう二つを重ねているのに無理が無くていいと思った。残りそう。実際ビー面ベストセレクションがいつか出るならこれは入ると思う。それくらいまとまりがいい。これ以上なにをコメントできよう。ふつうそういう句を特選に取るべきだと思うのだけど、そしてきっとこの句にはたくさん特選が集まると思うのだけど、瑕が無すぎること、それが西脇の、そう、川柳観に照らして疑問になってしまったので、並選にしておきます。いや、読み込めばこの行為の時点で主体になんらかの傷は見つけられると思うんですけど、そしてそれを表現した形としてこれほどいい句も無いと思うん、ですけど、なんというか……うつくしいものを前にしてたじろぐ感じ? 素直に手を伸ばせない感じ、ほんとそういうとても私的な事情なんだと思う。ごめんなさい。ほかの人からの特選にまみれてくれ。
────────西脇祥貴
仕草がかわいいです。てんとう虫くらいのサイズ感のものをせっせと並べている姿に愛らしさがある。並べているうちに飛んでいったりしちゃったり。通り雨が終わるのにてんとう虫をもってくるのは理屈に適いすぎと思う人もいるかもしれませんが、僕は良い具合だとウンウン肯きました。
────────太代祐一
一点投じる。景が面白くて、いい句です。通り雨が何かをしでかす。通り雨には達成目標なんかないです。まず、あってもかまわない。これがてんとう虫が並ぶような確率の話をしているんだとしたら嫌だなあと思うんだけど、通り雨が為しているんだから、全然確率の問題ではなく本当に(!)作為しているんだと言うことになる。そこがいいと思う。
────────ササキリ ユウイチ
虫ノ闇イチロウサンニ渡ス鍵
表記で緊張感をプラスしたのかな。「虫ノ闇」も「鍵」も利いていて、川柳が立っていると感じた。
────────雨月茄子春
やっぱり季語だった「虫の闇」。季語があるといやがおうにもじゃあこれをどこで川柳としよう、って考えてしまう。けど、正直そんなのどっちでもいいとも思っている。俳句じゃん、と誰かが言ったとしたら、え、やったら何スか、って本気で聞いちゃう。え、ほんとうに、だったら何? 俳句じゃん。そうかもね。でも川柳ってことでここに出て来てるから川柳なんじゃないスか。そして別に俳句がビー面の場に出て来ちゃいけないという決まりもない。季語がアーカイヴとして機能してるかどうか、という話はあるけど、いや、短い詩形なんだし、使った語はみんなアーカイヴとして使いたいでしょそれは。あらゆる広がりを使いたい、ことない? 俳句界独自のアーカイヴ領域みたいなのが決まってるのかもしれないけど、それはごめんなさい不勉強なので知りません。そう読みたければどうぞ。わたしは川柳をやっているので、それ"も"使って読み倒します。おかまいなく。……観点はそこじゃないと言いながらこんなに書いちゃった。ごめんなさい。句に戻ると、これもホラーっぽい。「虫の闇」がより暗い闇のことだそうなので、それ+カタカナ、さらに「イチロウサン」というよくあるがゆえに怪奇にしやすい人名、さらには「鍵」という道具立て。いかにもすぎない? もうサウンドノベルでありそう、とか別ジャンルと比較したくなるからには句としてはよくできてるんだと思う。でもだからこそ、それならもっと怖くしてほしかった。ホラーに引き寄せすぎたかもしれないので、最後にネットで拾った虫の闇の俳句をいくつか引いておきます。「虫の闇力士の尻の動きをり/吉野裕之」「城山といふ大いなる虫の闇/上崎暮潮」「虫の闇錨下ろさば眠り来む/千代田葛彦」「虫の闇百葉箱のある港/深澤鱶」「まなうらに文字のひしめく虫の闇/谷口みちる」「蟲の闇ミャンマー料理はこばるる/佐藤喜孝」「波の音畳めば虫の闇となり/河内桜人」「豪邸の解体されて虫の闇/泉田秋硯」(以上www.haisi.com/saijiki/musinoyami.htmより)名句多っ! でも引いてみて、これらと並べてもそう悪い勝負ではないと思いました。もしホラー句の意図があったなら、そんなことしなくても十分いい句だったのに、というかんじ。
────────西脇祥貴
でも酸っぱいから壊してあげる
壊すが悪いことという認識はあるんですよね。それでも善意で誰かのために壊すという判断をしている。酸っぱいから壊されるというのはおそらくそこまで重要ではないものなんだけど、壊してもらえる存在にとっては大きな事柄でもある。こういった誰かのために行う悪というのは誰の人生の中でも起こることではあって、それをこれだけ小さなスケール感で再現するというのはなかなかできることではないと思う。特選です。
────────スズキ皐月
なんか自分の句だと思った。似たバイブス。ただ、おれなら赦してあげるにしただろうから180度逆だった
────────公共プール
良さそうだけど、どうしてか推し切れなかった。「でも」スタートでその前の段階を想起させて、きっとそれを裏切る形で「AだからBする」という言いさしをしている句で、この構文は、「ただし漬け物、てめーはダメだ」(ボボボーボ・ボーボボ)みたいな漫画のコマ割りな感じを受ける。となると重要なのは「AだからB」の落とし方なのだけど、「酸っぱい」と「壊す」は納得感が強すぎると思う。近くないですか。
────────雨月茄子春
でも○○から××あげる、でも抜きのかたちだとよくあるような、なんか自分でもやったような。であれば○○と××をどうするか、にかかってくるわけだけど、これは……一句で立つにはやや弱いかも。壊して、は使いたいですよね、これ好きなのはわかる。おれも使うと思う。ならなおのこと○○が大事なんですが、うーん。連作の中ならいいかも。でも、を生かして場所を見つけそう。ただしこれ、先月雨月さんが言ってたいたずらっ子の口調じゃないですか。
────────西脇祥貴
ニューロンが花盛りになる夏の人
脳がパチパチしてきますな。スパークしてて良し!
────────雨月茄子春
中八の語呂がやや悪いかな、と思いつつニューロンが花盛りは充分イメージできていい。形状が花っぽいですもんね。それと夏は近いかな、と思いつつ、人、で結んで異物感を保ってるのはいい感じと思いました。ただ、「ニューロンの花盛りなる夏の人」だと、ちょっと意味は変わるけど575に収まるな、と気づいてしまったので予選。575にしたほうとくらべると、やっぱり説明がもたっとしてる気がする。
────────西脇祥貴
「ニューロンが花盛りになる」までは面白かったけど、「夏の人」が読みきれなかった。夏というからには夏の花なのかなあ、などと想像してみたけど、季節感が句を考える上でノイズになってしまった。
────────南雲ゆゆ
みどりごの聖書詰め(くもはのずえに)
くもはのずえって何?よくわかんないけど赤ちゃんに聖書つめてるのが、ピーマンの肉詰めみたいでおもしろい。
────────公共プール
一点投じる。いけいけ、壊せ!訳せ!撹乱してしまえ!もうじゅうぶんぐちゃぐちゃにされていると思うけど、まだいいんじゃないか?袋に詰めろ!"……みどりご訳の聖書は〈幾つか〉必要なものなのだ……、もはや必要な数もまた撹乱してしまえ!
────────ササキリ ユウイチ
くもはのずえに……?ひとしこのみ?
────────雨月茄子春
お料理みたいに。いや、実際もうこの世にありそうで嫌だよ。
────────西脇祥貴
この世ジャンパーもうとほほもうとぶよ
なんかリズムが変〜!楽しい!になった川柳。もうとほほ、で一旦落ち着いたように見せかけてもうとぶよ、の2段ジャンプ。「この世ジャンパー」という大きな風呂敷を広げておいて「もうとほほ」、泣きを見ている。もう少しなにか景色名前そうな続きがあるのかと思ったら「もうとぶよ」でいなくなってしまう。この句の舞台に残された方はこの世やジャンパーといった世界の断片をかき集めて想像を巡らすしかない。なんたってこの句のほうでは「とぶよ」で去ってしまっているので……そのくせ妙に味わい深い。放り出され感&残った味わいが絶妙。おそらく、「もうとほほ」が効いている。
────────城崎ララ
"そんなにヒーローに就きてんなら効率良い方法あるぜ 来世は”個性”が宿ると信じて……屋上からのワンチャンダイブ‼"(爆豪勝己)を経由させてもさせなくても、これは飛び降りの句だと思う。この句がまだ救いの賽の目を持っているとすれば、「もう○○するよ」という意志を形を変えつつ二回繰り返しているところで、「大丈夫」って何度も言うと大丈夫じゃなくなる、みたいな、逆説的に「飛ばない」という意志が照射される、そういうところにある。まだ「とほほ」なんて言う余裕があると取るか、もう「とほほ」くらいしか言えないくらい諦め切ったのか、僕はこの句からは前者を取りたいし、取れると思う。この世ジャンパー、すばらしいリズム。キラーワード。ーーー(数時間後)ーーー改めて考えていたら、これは僕の祈りみたいなものに乗っかって読みすぎているなと感じた。もっと言えば、そういう物語に引き付けて読もうとする磁力のようなものに。ではなくて、たとえばたんぽぽの綿毛のようなものが風を受けてふわっと飛ぶときの、「とほほ」感。それを掬い取った句なのかなという捉え方もできて、そうなるとこの句はもう少し森羅万象に触れようとしているのかもしれないね。"海からの風に吹かれて夏草が初めて「ああつ」と言つたのでした/柳宜宏"
────────雨月茄子春
17音。とほほ。しかも二度の「もう」。これジャンパーを飛ぶ人、って読むのと(それでも面白いけどちょっと投身自殺が近寄って来て、2024年9月1日現在それはわりとつらいことに思える)、着る方のジャンパーにして、それをマントみたいにして飛ぼうとしてる人って取る道ないですか? バードマンとかマリオみたいに。そうすると飛んでも落ちて死なないで、無限の彼方へ行く可能性が出てくる。死なすのはほんとかんたんなので、こっちで取りたい。だって死んだらとほほもないじゃんね? ……とここまで打って、ひとことも死なそうという導きのことばなんかこの句にないこと、そして別にマントが無くたって川柳ではとんだっていいことに気が付きました。とぶ、はこのジャンパーにとってどういう意味合いの行為なんだろう。物理的な移動とか、自己顕示とは違うように思える。とほほだし。なんかもっとこう、トリップというか、アセンションというか、賢者モードというか、そういう状態に入る、そう、「状態に入る」こと、のように見えてくる。フェイズとかパラダイムを変えて、ちがう背景の世界に入って、そしてまた戻ってくるような。マリオ3の裏面みたいな。でも目に見える動作としてはまちがいなく飛んでそう、かつとんだところで何も変わらずに帰って来そうなのがいい。とほほだし。哀感に引かれ過ぎると属性川柳沼にはまりそうだけど、「この世ジャンパー」という自己定義のキマっただささは、属性川柳人にはきっと出せない。そしてとぶ、を、カタルシスでもない、日常の中のただのある移動に引きずり下ろしたのもいい温度。ジャンパー、っていうほどとんでもなくなさそうですし。へたしたら、もう、だから、この後もとばないかもしれない。ゆるさとかいろいろ気になるところはある。けど、つけ込む隙、というのを、ひょっとしたら西脇は川柳に求めているのかもしれない。。。
────────西脇祥貴
わたし迷子の耳鳴りでした
今回七七多いですね! たのしい。この句、耳鳴りが人間になったとするなら壮大な物語が裏に詰まっているわけでジュルリ。しかも迷子限定。この限定は効いてる気がするし、目の前にいる「わたし」もただの人間一個体とは思えなくなってくる。にしては意味を背負い過ぎた存在に見えてくる。一個人間の背後に広がる、パンギャラクティックアーカイヴのひろがり。そう、人間だってアーカイヴだ。あなたもわたしも。そのアーカイブは膨大すぎて人間には汲み取ることすらできないけれど、なんと川柳ならこうして一行分だけ汲み取ることができる。十分だ、一行も汲めたら。それだけで、自分がひとりじゃないってわかるもの。ちょっとうさんくさいかもしれないけれど、そういう広がりを意識させてくれるという意味で、七七の大きく広げる効果が過去最大級に活用されてると思いました。「腹の立つとき見るための海」だって、海の広さまでだもんね。こちらは世をまたいでるわけですから。告白調なのもよければ、「迷子の耳鳴り」の組み合わせがどこまでもしがめるのもよい。耳鳴りも迷子になるんですね。それはいったいいつの、だれの耳に聞こえた耳鳴りだったんだろう。前世記憶だからさだかじゃないだろうけど、じっくり時間をかけて話を聞きたくなる。そういう時間につながる句なんて個人的にはとても理想です。特選です。
────────西脇祥貴
ある日の耳鳴りがすごくて、迷子の耳鳴りが来たなと思いました。
────────雨月茄子春
オムレツを埋めて赤組いい匂い
良いです。キュートで不穏な感じ。オムレツのケチャップの赤と赤組の鉢巻きの赤とのイメージの響き合いがあります。行為として頓珍漢ですし。なんで埋めるのオムレツを。オムレツが埋められて匂いがするのも謎。訳わからないです。そして訳わからない事態を目の前にすると人は妄想を働かすと思うんですよね。赤組の子が生前、オムレツが好きだったのかなぁとか。妄想が進みます。そうゆう思考の動きって愉しいですし、この句はなんといっても、読者に一方的に投げかけるような無理がなかった。17.の句と同様に、僕はかわいらしいアイテムとか仕草に滅法弱いですね。あと複数の感覚に訴えかけてくるのも愉しい(この場合は視覚と嗅覚)。とにかく良かったです。好きです。
────────太代祐一
特選。ゲームって何かなんでもありな気がして、世の中をあるゲームとして見るった強力な図式だと思うんだけど、赤組(に対する白組)くらいのちょうどよいゲーム化、そのテキトーさが心地よい。しかも訳わからないことやっていて、目の前にいたら涙出そう。ルールがわからん。面白い。
────────ササキリ ユウイチ
埋めたオムレツから黄色ではなく赤を持ってきて、香りを最後に残して去る、その振る舞いがよかった。
────────雨月茄子春
この軽さいいな! おいしそうなオムレツなのに埋めちゃう奇行もよければ、赤組が来て脳内で勝手にケチャップかけちゃう羽目になるのもおもしろい。いい匂いが一種類の匂いと思えないのもある、二つ以上の複合したおいしそうな匂いなのでは、という嗅覚の察しがぎゅんぎゅんする。しかもハッピー一方で終わらないであろう「埋めて」の存在感が、つよい。オムレツ、とは勝手に卵のオムレツだと思っているが(そして原義から言ってもそのはずだが)、ここへ投げ出された「オムレツ」が、オムレツ状のなにかであるという気も何回か読むとしてきた。ぐちゃぐちゃにして固められたなにか。隠匿されるべき何か。赤はもちろんケチャップを呼べば血を呼びもする。いい匂いのいいはもちろんGood Smellを呼びもすればUgly Smellを呼びもする……しかし赤組というくくりがどうしても子どもを連想させるがために、東野圭吾『レイクサイド』みたいな絶望的なサスペンスを思わせる。ネタバレしますね。子どもが協力して人ころす話です。こういう露骨でないホラーは好き。ほんとうにどこかおかしいって思わせてくれるくらいの方が、まだ安心する。なんだろうこの安心。
────────西脇祥貴
赤組は運動会の赤組白組のそれかなと思ったが、埋めるというのは運動会にしては不可解である。埋めるというのは運動会の競技にしては成果がわかりづらい。しかも残るのはいい匂いだけ。なんとも地味で盛り上がらない運動会だろう。それでもそのシュールさやひねくれ感が川柳としては面白い。オムレツを選んだのもかわいげがあって良い。
────────スズキ皐月
プラットホームにいたっていいか (公共プール)0点
紅葉と時代錯誤に言いたまえ (ササキリ ユウイチ)0点
産声が待合室で身を晒す (南雲ゆゆ)0点
落ちてるベロはしまっちゃおうね (公共プール)4点
蝋燭の炎に影のカワイサン (太代祐一)0点
太陽も煮物も直視してはだめ (雨月茄子春)5点
罪悪感でPUMAが煮える (城崎ララ)1点
最高のねぐせは麦の島である (西脇祥貴)4点
待つ人が外す真顔とヘッドフォン (太代祐一)1点
やむにやまれず夏を噛ませる (城崎ララ)3点
魔導図書館のベテランだけが寝る (ササキリ ユウイチ)0点
ポルノグラフィティはポルノグラフィティ (雨月茄子春)1点
粉の多いわたくし性のバニーちゃん (西脇祥貴)1点
歯磨きは正しい座位の師であった (ササキリ ユウイチ)2点
さいですか死海文書のアンチすか (スズキ皐月)1点
あの双子が終末時計の裏にいる (スズキ皐月)0点
てんとう虫を並べて終わる通り雨 (南雲ゆゆ)4点
虫ノ闇イチロウサンニ渡ス鍵 (太代祐一)0点
でも酸っぱいから壊してあげる (南雲ゆゆ)2点
ニューロンが花盛りになる夏の人 (スズキ皐月)1点
みどりごの聖書詰め(くもはのずえに) (西脇祥貴)3点
この世ジャンパーもうとほほもうとぶよ (公共プール)4点
わたし迷子の耳鳴りでした (雨月茄子春)2点
オムレツを埋めて赤組いい匂い (城崎ララ)7点