川柳句会ビー面 2024年2月

匿名互評の川柳句会の選評と投句一覧。目次に無記名の句一覧があるため、無記名句一覧の仮想体験も可能。

  1. おじゃる丸。過払いだっピ。返すっピ。

  2. 少年の素振りに据えてゆく頭

  3. 双絲の先で狐に当たる

  4. 雪舟とイソジンが闘った橋

  5. ピースオブマイハートにも生きる罪

  6. 青色の魚の素を入れましょう

  7. 募集 河童は物だ質量だ

  8. 奈良の鹿は火を忘れない

  9. いつだってソーラン節でお湯わかす

  10. まともな日の自分km/h

  11. 木の卵あの滝壺に浸していたの

  12. きみもウォルト・ディズニーになれる

  13. どこまでも内股歩きのエッフェル塔

  14. 勝ち馬に乗って負け馬にも乗って

  15. 雄叫びと2階から降る赤い羽根

  16. 枯草を撒く日々インド味紀行

  17. 大吉が出るまで引いて紙はくず

  18. 夜盗に傘をかしてもらった

  19. 夏を解けばすべて線香

  20. ウーパールーパ~パーカ~スーパーカー

  21. きらめいて待っても三宮でした

  22. 線香に抱かれて夜は枯れてゆく

  23. ユートピア発熱ほう助までならね

  24. 着せるときは鳴り止まないタトゥーだね


おじゃる丸。過払いだっピ。返すっピ。

 懐かしすぎる。いやでもあるんですよね。こういう、あの頃みていたキャラクタたちがその世代が大人になった頃に、ガイドキャラクターとして官公庁に採用され、ぜったいに言わないだろう台詞を言わされてしまうコラボ……やだ……過払いとか言わないでほしい……シャク返せッピー!でいいんだよ。泣きそう。誰もが大人になってしまう世界の世知辛さを、キャラクタたちは知らないままでいてほしい……
────────城崎ララ
 毎日『おじゃる丸』を見ている者です。キスケ文法の引っかかりはないのですが(17音に収めんとするうえでの違和感はないでもない)、そもそもおじゃるが過払いをするか、という点が疑問でした。おじゃるは大方払いません。喫茶一服で飲むホットミルク代すら、払っている描写が見られません。あとでカズマが払っているのか、田村家あるいはトミーさんへツケているのか。であればなおのこと、キスケに何か支払う、という事態が起るとは思えず……。ウォッチャー故の視野狭窄かもしれませんが、返すっピの目的語はやはり「シャク」ではないか、との思いが拭えませんでした。それがかえって面白い、という説得力のある評が出ることを期待します。
────────西脇祥貴
 切磋琢磨する仲間として言うけど、こういう茶化しは良くないと思うよ
────────公共プール

少年の素振りに据えてゆく頭

 据えてゆくという時間が、素振りをする少年が複数いて、少年らはそれぞれ全く別で、奪われない人権をそれぞれが持っているはずなんだけど、何かそれが毀損されているんだろうな、と思う。素振りをノックにするためにボールとしての頭を放っているわけではない、というのが、微妙な仕方で表現されている。バットで頭を打つよりももっと残酷なものを言い残していて、大変興味深く感じた。
────────ササキリ ユウイチ
 なにの素振りかと、素振り動作のどこに据えるかしだいで色が変りそう。野球ならミートするところに、テニスならミート……ミートするところだ! なぜかそこ以外に据えようがない気になってしまう。狙ったのか? 狙ったならすごい。すごい発見です。「頭は、ミートしたくなる」。人間の本性を暴いた一句。ただどんな頭かがあまり想像できないな……。
────────西脇祥貴

双絲の先で狐に当たる

 すごいニッチな当たり屋! 当たったところで、という気持ちから考えるに、これはなにかの儀式なのでは、と思えてきました。当たることで、なにかが成就する。そういう想像を「狐」は掻き立ててくれます。
────────西脇祥貴

雪舟とイソジンが闘った橋

 そりゃ行くよ。探していくよ。きっといいバウトだったんだろ? 牛若×武蔵坊並みに。こう書き出せる程度にはパンチのある、そしてサービス精神のある句だと思います。面白いですね。だいたいこう書き出す句は予選に入れといてしまいになるのだけど、これは並選です。17音決めてきてるのといい、雪舟とイソジンの取り合わせといい、耳で聞いても展開が楽しめるつくりといい(雪舟? いそじん?? 闘う??? 橋!!!!!)、入れないともったいない。良く思いつくなあ。だって既成事実の捏造、しかもおもしろ史のこんなに説得力ある捏造されちゃ、肩持たないわけにいきませんよ。で、どっちが勝ったの? おれイソジンに10ドル。
────────西脇祥貴
 雪舟をはじめあれくらいの時代の肖像画ってイソジンをぶっかけたような色合いをしているなと思いつつ、雪舟はたしかにイソジン苦手そうだなぁと面白く読めた。
────────スズキ皐月

ピースオブマイハートにも生きる罪

 あまりのダサさに感動した(感動していない)。人が絶対もっているものなんだけど、人が絶対喰らったりはしないこと。でも、川柳が真顔を積み上げてきたのなら、この真顔さが感動を誘う(誘わない)。
────────ササキリ ユウイチ
 生きるが甘いかなあ。
────────西脇祥貴

青色の魚の素を入れましょう

 鑑賞用のお魚ってモノみたいだなと思うことはよくあって、たしかに粉みたいなものから生まれていてもおかしくはない気持ちにもなる。そのあたりの魚の性質変化をうまいことやっていて気になる句。
────────スズキ皐月
 青魚を青くしたい気持ちはわかる
────────城崎ララ
 青色の素じゃなくて、青色の「魚の」素! これは大違い。入れるや魚の湧きそうな。具体的になんの魚か言ってないのがやっぱりいい。何が起ってそんな素を入れる羽目になってるのか、入れたところでどうなるのか、どうしたいのかもわからないけど、わるいことにはならなそうなのが不思議。あるいは前提の世界がもう既に荒廃しきってる感じもあるせいか。マイナスから始めるプラスティックな天地創造の一工程。でも天地創造って、たのしそう。
────────西脇祥貴

募集 河童は物だ質量だ

 河童の抽象化を繰り返してこの世界のグロテスクさも表していると思った。私は河童をにんげんになぞらえる作品群がわりと好きですぐに思い付くものだと芥川龍之介、中島敦、川端龍子のものがあって、この句はそれらと比べて河童の扱いの急展開さがえぐい。あえて河童を引き合いにだしてる作品は最低限河童であることを尊重しているのに、物どころか質量まで個性を剥奪していく。これは戦争の暴力性と残忍さと地続きの句だと思う。募集と河童だからまだ楽しめる余地があるのであって、もし「召集」「にんげん」にしてしまうと、あとはこの世の残酷さを煮詰めた結果にしかならない。いまだに特攻隊とかを美談として扱う戦争賛美の物語があるけど、わたしはそれらを目にしたときこの句を思いだすようになると思う。
────────公共プール
 河童句と言えば兵頭全郎さん「DVD 特典② 河童(もれなく)」。てかこれ連作の句で、しかも連作ネット上にあるの初めて知った。https://sctanshi.files.wordpress.com/2011/03/zenro.pdf

閑話休題。河童ははじけやすい語彙なのかしらん。比べてどう、というのもどうかと思いつつ、比べてもいい感じです。募集、って誘っといて言い切りぶつけてくるぶしつけさは魅力。あるいは募集、とそれ以降を完璧にべつものとして読む道もあるかも。
────────西脇祥貴

奈良の鹿は火を忘れない

 "南都焼討(なんとやきうち)は、治承4年12月28日(1181年1月15日)に平清盛の命を受けた平重衡ら平氏軍が、東大寺・興福寺など奈良(南都)の仏教寺院を焼討にした事件。" (wikiより) 奈良時代から鹿は奈良にいるとか。見ていたんですね。端正な文体と、含意のある言い差し、良いと思います。鹿は火の色をしていますし、鹿→秋→火と色でつなげて間を抜く、という道筋が見えるのもなんとなくプラスに働いていると思いました。鹿が可愛いからかな。
────────雨月茄子春
 若草山が山焼きするから? とすると、毎年焼くのでそら忘れようがないわな、と思う。けれどそこじゃなく、そうと分かったうえであえてこれを言っているのが大事な気がする。「鋏できつてしまつた/川上日車」みたいな。
────────西脇祥貴
 確かに忘れなそう。
────────公共プール

いつだってソーラン節でお湯わかす

 いつだって、は初句として甘い気もするが、踊りで熱を与えることの良さはわかる。お湯もフロアも沸いているってことですね。お湯を沸かす、と助詞を入れると勢いが削がれるので、この助詞抜きの淡白さはGOODと思います。
────────雨月茄子春
 沸きそうなんだよな……。
────────西脇祥貴
能登半島地震関連でバズってた誤字ツイートに着想。
────────公共プール

まともな日の自分km/h

 観測している日の自分からまともな日の自分は離れている。km/hと書かれているから、先に家を出たひとを追いかける数学の問題を思い出した。まともな日の自分の速さは、まともじゃない日でもバイクや飛行機に乗ると案外さっくり抜けるので落ち込まないと良いなと思う。
────────城崎ララ
 そう意識せざるを得ない日があって。
────────西脇祥貴

木の卵あの滝壺に浸していたの

 木の卵と滝壺、ふたつの象徴。どっちをどう広げるかでいくらでも句が広がりますが、通常は共有できないから、という理由で川柳では避けられがちな「あの」が挟まることで、逆にある物語があるらしいことを決定づけてきます。連作の中の句かな。
────────西脇祥貴

きみもウォルト・ディズニーになれる

 この軽さだと夢を信じる力というよりは安いコスプレ衣装とかウォルトの銅像体験パッケージとかの煽り文句な感じがする。表象をなぞるタイプ。夢は遠い。
────────城崎ララ
 14音。だいぶ、だーいぶ甘いとは思うけど、川柳ではあるなあという気がする。いま言う「ウォルト・ディズニー」だから、首の皮一枚つながってる感じ。しかし首の皮もそう薄くはない……と書いてみて、じゃあウォルトにどういう厚みを読み取るか、というところから進めず。ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾス、ジョン・ロックフェラー、と変えてみて、ベタ塗りセル画の絵の具の厚み、ヴィヴィッドな色の圧力、とか考えてみたけど、ウォルトの名前だけからそこへ着くには道筋が足りないか、というのが限界でした。
────────西脇祥貴

どこまでも内股歩きのエッフェル塔

 塔が歩くところを見たことはないけどどうしてそれっぽいと思ってしまうんだろう。でもぽい。
────────城崎ララ
 たのしい旅の思い出句みたい。実際はエッフェル塔近辺って物騒だそうですけど。エッフェル塔が内股歩きしたんだとすると、スケールのでかさからバカ歩き省とか思い出しました。中八だけどうかな、内股歩くでいいんじゃないかな、と思ってから、「の」が付くことでいよいよ歩いているのはエッフェル塔だと言い切れるんじゃないか、とも思えてきました。それこそお洒落なストップモーションアニメみたい。でもエッフェル塔にも思うところはあるだろうな、きっと。だって内股歩きだもんな。
────────西脇祥貴

勝ち馬に乗って負け馬にも乗って

 17音。「勝ち馬」がだいぶ強い語彙だから、対極の「負け馬」を想像させることにさえ妨げが出ている気がする。負け馬の方が「にも」になってるあたりにも、「勝ち馬」観が出てしまっているというか。あと順番、負け馬が先だったらどうだったか、とか……。
────────西脇祥貴

雄叫びと2階から降る赤い羽根

 事件っぽさがあり不穏でもあるのだけど、ギリギリ現実でもありえそうなシチュエーション。この現実に少し足をかけておいて非日常を演出しているのは好みです。2階からという指定だけ少し気になるかも。
────────スズキ皐月
 いくつか読み方がある。①雄叫び&赤い羽根。②「雄叫び!」と言いつつ降る赤い羽根。③なんらかの儀式中の「雄叫び」なる式として降る赤い羽根。助詞「と」の役割によって幅が出るわけですけど、わずかにどれとも決めにくく。という中で行くなら①かなあ。景も想像できる範囲ですし。惨劇の真っ最中なのか、日常の一片なのか。日常、ととらえたいところですが他の方の意見も聞きたいのが、この雄叫びの長さ・ヴォリュームをどれくらいで想像したかと、赤い羽根の降る量。西脇は雄叫びは少し遠くで上がっていて、羽は通りを埋めるくらいどかっと、しかしゆっくり降るように想像しました。雄叫びと降る羽根、二種類のスピード感も対比になって、絵にしたい句です。
────────西脇祥貴

枯草を撒く日々インド味紀行

 気になるフレーズでした。大分麦焼酎、二階堂みたいな。枯草を撒く日々、には不思議な魅力があります。絵の力が強い。
────────雨月茄子春
 紀行も、日々も同じというか、紀行を書いている時間は、ある特別な日々を書いている時間であって、その書いている時間(紀行が終わった時間)が枯草を撒く日々ってことなんだと思うんだけど、いずれにしてもまじでなにやってんの?と、いや、まあ、やっていても変じゃないけど……の、あ、うん、そうなんだ……なんかごめんって言わせる微妙さのこと、私はやっぱり嫌いじゃない。
────────ササキリ ユウイチ
 味がいちばん大事だと思った。日々の前後どっちで切って鑑賞したら良いかは迷うけれど、味わう旅ってことらしい。枯れ草を食べる牛を想像したし、インドの町中に痩せた牛がいそうだし。妙な納得感がある。
────────公共プール
 どの地方から始まるかな。
────────西脇祥貴

大吉が出るまで引いて紙はくず

 御神籤はその一回性に意味があるのであって、大吉が出るまで何度も引いたのではなんの有難味もない。そんな身も蓋もない事実を「紙はくず」という身も蓋もない下五で着地させる身も蓋もなさ。この力の抜き方はなかなかできないのではないだろうか。
────────太代祐一
 おれのおみくじスタイルもそうなんだけど、いい大吉でるまで引くこともある
────────公共プール

夜盗に傘をかしてもらった

 予選と悩みながらも並選にして、そのあとに特選にしました。記憶に残る川柳だ……かして「もらう」の部分に、夜盗を悪者にしない磁場があり、そこに物語としての広がりがある。夜盗が傘を手元に押し付けて走り去る姿が見えます。この夜盗って走ってるよね?
────────雨月茄子春
 シンプルだけど少し寂し気なドラマ性があって良い。
────────スズキ皐月
 14音。ピカレスクロマンじゃない! 運命的なふれあいの瞬間の句。ここから主人公は一気に悪の道へと転げ落ちるのよきっと……。井伏鱒二先生に『夜ふけと梅の花』って有名な短編があって、ほんと短いのにぽっ、とした光ののこるお話なんですけど、その感じに近いです。闇と人情の交差点+もらった、という過去制によるあわいノスタルジア(まだ引き摺ってます)。川柳で言うなら「鋏できつてしまつた/川上日車」の流れですね。必要部分だけ書き残しておいた日記みたいでもある。けれどだいたいにおいてそこから万象はほどかれうる。
────────西脇祥貴

夏を解けばすべて線香

 14音。すべて、に期待させられるところが大きかった分、線香が夏と近かったかな……。
────────西脇祥貴

ウーパールーパ~パーカ~スーパーカー

 東京ホテイソン?滝音?マユリカ?ありますよね、こういうネタ。うーん、好きだけど勝ててないかなー。
────────雨月茄子春
 スーパーカーは最後~(くにゃんぼう)にならないんだ。ということからこの句は、ウーパールーパーがパーカーを経てスーパーカーになる変身過程の図示だと言えそうです。エッシャーのばかでかい壁画『メタモルフォーゼ』みたいな。どうやって音読するんだろう。溶けかけの17音みたいなとこには収まってる。そうやって見ていくと、過程でしかないはずのパーカーが一瞬だけどしっかり意識をもってパーカーたろうとしているあたり、パーカーの自我を感じてせつなくなったりもした。パーカーのレゾンデートルとは……。
────────西脇祥貴
 句集では全部ーにすると思う。
────────公共プール

きらめいて待っても三宮でした

 三宮に対して良くも悪くもなんの思い入れもないのだが、このように言われてしまうと、この主体もかわいそうなのだけれど、三宮も不憫という気がする。誰一人救われない不条理劇の雰囲気を持ちつつ、でもそこにたしかにあった期待のきらめき。かなしい。
────────太代祐一
 いいじゃん三宮なら! と地名と取って思った後、折しも『光る君へ』ブーム、女三の宮か……? とか思ったりもしました(の、が入らない表記もあると確認済)。初めて女三の宮のあたりを読んだ時、紫式部大先生の厳しい書きぶりにつらささえ覚えたものでした。女三の宮はれっきとした格式高い女性、なのに(ゆえに?)幼さの拭われ切らないまま政治暴力に翻弄される。年のいった源氏はいよいよクソ親爺なので「困ったひとだ……」みたいな感じ(死ね)(じき死ぬけど)。そんな人の名前を現代に召喚、しかも女三の宮が必要としなかった「きらめ」くことをわざわざして、また三の宮の位置に立ってしまっている。立たされてしまっている。そういう絶望の句、と読んでみました。そしてだとするなら、なんだこの軽さは……。三宮、のあたりになにか、底なしの穴みたいのが口をあいてるように思えてきます。ここまで読めたから並選にはするんですけど、三宮即源氏になるかな? という疑問が残ったので並選までです。
────────西脇祥貴

線香に抱かれて夜は枯れてゆく

 この詩情の醸し出し方は既視感あるぞ、となりつつも並選に取ってしまう(好きだから)。線香の揺らめく煙が夜の空気に消えていくさまを見つめていると、心はどこか遠くを夢想し始めるし、夜はそうだな、枯れてゆくだろうな。具体的には寝ずの番とかを想像しました。
────────太代祐一
 なぜこの時期に線香二句目。同じ人なんだかどうなんだか……。線香(のけむり)とか(の薫り)とか補うよりも、あの細い線香が主体を抱いていると読みたいです。だとすれば夜は枯れそう。あとは(のけむり)みたいな補う欲求の力が、この句に対してどれだけ強いかの問題。補うと、とたんに画がぼやけて来てしまうので……。
────────西脇祥貴

ユートピア発熱ほう助までならね

 「ユートピア」を出すときどうやってそこのディストピア感を出すか作者としては考えるだろうし、読み手としてもそこを期待してしまうのだけど、ここでは「発熱ほう助」。ほう助ということは発熱自体も罪なんだろう。するとこのユートピアは健康な人だけの社会なのかもしれないと想像が膨らむ。わりとしっかりディストピアな句。
────────スズキ皐月
 ユートピアはちゃんと知っていくとあんまりいい意味のことばじゃない。という頭が先に働いてしまうのですが、ここはあくまで字面通り理想郷、としておいたほうが良さそう。で、「発熱ほう助」。いちおう調べたけどなかった。ほう助しようがないもんな……故意にマスクを外させて人混みへ叩き込むとか? あるいは恋愛関連のことば?? そっちで読むとちょっとユートピアと噛みあい過ぎるか。あ、でも発熱/ほう助で句全体が切れるとも読めるのか。ユートピア発熱。池袋崩壊みたいな。となるとほう助が目的語を失うけど、なんらかのことを手助けする、というニュアンスは残って意味は通りそう。ほう助までなら発熱ですむ。ではもう一歩背中を押したら……? 崩壊かな、やっぱり。その予測に至るまでこれだけかかった、というその点で並選にしておきます。
────────西脇祥貴
 熱がある時の夢ってへんな感じで、それってユートピアが夢を見せてくれてたのかもしれない。「ならね」って、言い聞かせるようなやさしさが伺える。そこまでならできるから、あとは自分でやりなさいねって。夢を見るのは簡単だけど見続けるのって大変だから……
────────城崎ララ

着せるときは鳴り止まないタトゥーだね

 着衣フェチの句かな、と安直ながら思いました。安直だけど、そうだとしてもいいもの。上り詰める前のふもとにいて、どんな怪しいものを着せているのか。そしてその時着せられている相手のことを喩えて言うに、「鳴りやまないタトゥー」……/////。なんでこっちが照れてんだ。柄とか色とかを飛び越えて、からだひとつ、そのすべてが「タトゥー」であるという。世界に彫られたタトゥーなのかな。やや変身の傾向も感じられる、性愛は変身の一環でもあるものね。そして「鳴り止まない」。しずかにしているときでもからだが発している、あらゆるかすかな音――鼓動、蠕動、代謝、消化などの作用による――が、重なってひびいてくる。そう、音、というよりは鼓膜の揺れでしかないひびき。感覚は研ぎ澄まされる、これからのぞむことに及んで、からだはどこまでも鋭くなっていく。すべては理に適っていく。理に従って、わたしたちはひとつになる。つい書いちゃった。でもこれだけ素敵な句にされたら仕方ないですよね。特選です。性愛句、目下林やはさんの独壇場ですけど、きっとまだまだフロンティア。ビー面ではそういえばあんまり見ないかも。肉体感覚への訴え方に工夫がある句はいっぱいあるけど(ことに二三川さん)、性愛まで踏み込むのはまたハードルがあるのかな。ありますね(やる側に立って)。でもぼくもやろう。だってこんなにいい句につながるんだもの。
────────西脇祥貴

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