川柳句会ビー面 2024年12月
匿名互評の川柳句会の選評と投句一覧。目次に無記名の句一覧があるため、無記名句一覧の仮想体験も可能。
巴投げしてね/モネ/密告してね
これは大きいお米だよ。国じゃない。
いっそカラーコーンでボイパしちゃって
空き腹の伊邪那美が描く黒い海苔
「いったん句の外に出る」らしい
メキシカンタコス味の平面
吹雪いてもどうせ夢しか見ないでしょ
流しても僕なのだろう文化館
大学だここは発狂レストラン
青ぞらのLEDはまだ味蕾
エピソード・トークでやってきたA定食
毀損する海から逃げた鮭だろう?
エクレアを墓に供えている天使
明日も晴れ かつて地球は青かった
切られ役の画角 盲腸も左
よろこびの燦々々々々無罪
点々と折り畳まれた縦社会
誇張してください(ラジオネーム 我, the)
餅を吸う掃除機のこと考えて
オムレツのyouに綴じられtake蝶
添える手へ体罰都市の彫られゆく
お父さんあばれちゃうぞ〜氷の上で
かんのんのある長谷なのだ。だまれよ。
波際がアポリアなんだと気づく蟹
月から、カラスアゲハの矯声が
煮くずれてゆく楽しさと無念さと
南家からもっとも古い音が鳴る
聖徳太子は酔うと石を食った
ドン底のンゾには向上心があるぞ
高い寿司食べてる時に君が代のサビ
健康なイオンモールも盾にする
五分の番組のピースなサイン
名乗るだけ名乗ってカカシのアデューかよ
ギガのこと朝もささやく三姉妹
くつ下をなくした子から箱にする
山月記(instrumental)
あやとりは留学ハイの生き残り
矢も盾も研ぎ澄まされて 好きなんだ
あげちくわららあげちくわるる
慣れてない手つきおはようまだ犯罪
カメラ越しに桜の園を捌くから
放浪者和えの博士を向かわせる
売春観世音五号劇まで来られたし
生き延びるために砂場の鯨幕
マザー あるいは臑毛抜き弾頭大会
帰宅即喪主挨拶の乾きもの
腎う炎のう貞淑の膿落ちて
ナンバリングされた預言者多すぎる
巴投げしてね/モネ/密告してね
こだましながら関係ない報告へと跳ねていくことばのテンポがよく楽しい。「ね」(ネ)の脚韻、「/」がうまく働いている。画家モネの画風が効いてくるかどうかといえば、それはどうでもよいところがよいかもね。
────────海馬
まず「ね」の脚韻(特に「モネ」が面白いです)が良いな、というところと、句跨り+「/」の区切りが新鮮でした。密告はともかく、巴投げっていうのが川柳の句材には案外されてなさそうなところが良かったです。それにしてもどこに呼び掛けてるのか謎なのが川柳っぽくて、こう並べられるとまさかモネに呼び掛けてる?と思わされてしまいます。
────────nes
気になる句。この句においての/の意味はなんだろうか?なければ「巴投げしてねモネ密告してね」であり、モネになんらかの圧がかかってきそうな内容になるけれど、/が入ることでそれぞれが独立している。「巴投げしてね/モネ/密告してね」のなかでモネは自由であり、無関係。句の中で巴投げを頼まれているのも、密告を望まれているのもモネではないと言い切ることができ、そこは/で囲まれた安全な世界。世界は並列である。両隣を見ながら縮こまるモネの姿さえ見ることができる。
────────城崎ララ
いい。ちょっとムカつくところもあるが、時がそれを解決しそう。
────────ササキリ ユウイチ
17音。かつておなじように/で分けた句をやった身としては(「あめあがる/マリヤ、/浜辺に砂を食み」、5/3/9で分けた)絶対支持ですが、巴投げしてねと密告してねが左右対称になることを思うと横書きの見た目がいい句かなあという気もしました。縦書きでも三行になるならいいかも? ただ巴投げと密告はちょっと近い気がした。接続詞にされたモネの戸惑いはギャグっぽく/キャラっぽく(増田こうすけ先生っぽく)魅力にはちがいないです。踏んでるのかわいいし。モネが「モネ」ってポケモンよろしく鳴いて合いの手を入れてるようにも見える。であればモネが全句どこかに合いの手を入れる連作「モネ」を希望します。そのパターンがいくつか見られたあかつきに並選を入れることになりそうな句。
────────西脇祥貴
ねの音の気持ち良さはある。でもそれがかえって言葉の距離の置き方みたいな手法を目立たせてる気もする。
────────スズキ皐月
「巴投げ」が降ってきて、そこから「モネ」、「密告」が引きずり出されてきたのがおもしろかったので、そのまま使って、ちょっと整えて句にしておきました。で、時間が経って見返すと、スピードだけじゃない、言語化できない奥行きを感じられたので、ビー面のみんなに巴投げしてみた、という句です。
────────雨月茄子春
これは大きいお米だよ。国じゃない。
めちゃくちゃな外国語の例文にありそう。米国。美国。BIGアメリカ。このめちゃくちゃ感は川柳のバイブスだと思う。
────────城崎ララ
理がわかる(米→アメリカ→国)けど、語り掛けの口調との相性がいいと思う。○
────────雨月茄子春
17音。米国を国でなくす試み、とも言える一方、米農家の孫としてはやや米サゲにも聞こえる言い方にもんやりとはします。でも国と見紛う大きいお米なんて見たことないし、それは仕方ないことなのかも。そもそも国を視覚的に(これは、って言ってるからおそらく国に見える米、という実体のあるブツを目の前にしてるんでしょう)認識する機会がこれまでなかった、その機会がここにある、の驚きの方が重大に思える。国って、視覚的大きさによって国と認識できるものなのか? 概念じゃなかったのか? 地図とか見てるならすっと意味は通りますが、それはちょっと読みが速いかなあと思う。順番に、これ、大きいお米、国じゃない、と辿って、国をサイズについて視認できる世界に立つという驚異への道程を味わいたいです。そして米と国って、似てるんだ。
────────西脇祥貴
そうだねえ。踏んだらいかんよ。
────────海馬
大きくても国と間違えることはない、というツッコミ待ちの一点突破感はありつつそれが十分面白い。
────────スズキ皐月
いっそカラーコーンでボイパしちゃって
「いっそ~しちゃって」の構文を見つけたことがなによりも良い。そしてカラーコーン・ボイスパーカッショニスタの出現を歓迎したいと思う。○
────────雨月茄子春
「いっそ」は恐らく検討の結果入れられたのだと思いますが、そこに引っかかってしまったので予選とさせていただきました。でも書きながら、確かに「カラーコーンでボイパ」は近いかも……とか色々考えてしまったので、この「いっそ」は必要な気もします。どうなんでしょうか、他の方の評が見たい句だなと思いました。
────────nes
17音。いっそ、の前段のわからなさがもう、いい意味で、いらっとさせる。カラーコーンが好きすぎるやつでもいたのかな。しかしそれ以降に中身がまったくない。カラーコーンを逆さ(▽の向き)に抱きかかえて、穴を使ってボイパ、ということなんでしょうか。だとしたら安易だけど(安易とは)ボイパ=喉と声でする演奏、とするなら、ひょっとして喉がない? カラーコーンを喉のあたりへ移植する……。というだいぶ無理な想像がそれでもはたらくのは、カラーコーンからボイパへの移行速度が速い+いっそ~しちゃって、の口調のなれなれしさの効果でしょう。でもこれはちょっとゆっくり読み過ぎな気もする。カラーコーンでボイパしたらそりゃ低音の充実した音になるんでしょうな~、くらいの読みがいい気がする。
────────西脇祥貴
旗振りバイトしたときに、「コーン」、「三角」、「パイロン」っていろいろ名前あるから憶えとき、って言われたなあ。この句は、コーンの中に顔突っこんでボイパしている感じなのかな。そういうえば、楽器屋に行ったときに、歌の練習用の消音機が打っていて、ちょっとコーン状だったような。
────────海馬
音、特にカラーコーンの音が長すぎるのか冷静に読めてしまう感じはあった。内容としては面白いけど、77音とかにした時の勢いのある面白さがすぐ想像できる分もったいなさを感じてしまう。
────────スズキ皐月
10・7のリズムの良さ。17音のなかのリズムが良い分け方の一つを見つけられているかんじ。
────────南雲ゆゆ
空き腹の伊邪那美が描く黒い海苔
川柳のお皿に乗せるには量が多いと思う。
────────雨月茄子春
575、なんですけど、ずーっと説明で下まで下りていくタイプ。しつこくならないようにするのがむずかしい……この句だと「黒い」でしつこくなりました。でも意味は読み甲斐がある。伊邪那美(いざなみ)は『古事記』の黄泉比良坂の話でおなじみクソ夫に桃をぶつけられちゃう神様ですが、その人が空き腹なときのことを切り出してきている。しかもその人、空き腹だと、黒い海苔を描くという。神代の人のすることだし、描いたものが顕現するくらいはありそうですけど、それが海苔。あんまり卑近なので外しが効いてきます。名詞終わりなので景が残るし。伊邪那美の寓意をさぐればもっと塗り込めそうですが、これだけの中身があるなら律も伴わせて欲しかったな、が最後まで拭えませんでした。
────────西脇祥貴
最近、古事記を読み直したのだけど、そこで読んだスカトロジックな内容が強力すぎて、残念ながら、この句ではとても太刀打ちできそうにない・・・。
────────海馬
自分もお腹空いた時海苔を食べたりするけど神もそうなのかという面白さはあった。
────────スズキ皐月
「いったん句の外に出る」らしい
好きすぎて「は?」って声が出た。地の文のような会話文のような謎の句。なにが句の外に出るんだ。らしいってどういうこと?直接聞いたの?それとも伝え聞いた?誰が、あるいは何が?謎すぎる。謎なのに、意味は通るけど状況はさっぱり理解できないのに、何が?!って詰め寄りたくなる吸引力は抜群。寄って行きたくなる句は良い句だ。作中主体に作中であるという意識があるこのメタ構造。最高だ。愛してる。
────────城崎ララ
メタ句として出来がいいと思う。No No GirlsでSKY-HIが「自分の輪郭を確かめるために外に出て塗りつぶす作業がどこかで必要になる」みたいなことを言っていた。いったん出る、そして戻ってきたとき、もっと大きな輪郭になっているといいね。「らしい」って言ってるから、言われたことにまだ納得できてないのかな。フィニッシュまで油断してなくていいと思います。○
────────雨月茄子春
教えてくれてありがとう。この句は句から外に出る場合を考える上でのサンプルになるんだと思う。
────────ササキリ ユウイチ
メタ句だ! よかったですね頭とか最後じゃなくて、ちゃんと句群の中にいて……。貼り紙か、解説書に書いてあったんでしょうね、こうやって。あれか、作句してると入り込んじゃうから、いったん外に出てかんがえてみる、ってことなのかな……という実践的想像が付いた時点で、句でそれ言うのどうなのかな、と思ってしまいました。そういう句が見たい。句の外に出た句。
────────西脇祥貴
難しい。こういうのは試されてる気がするが、自分の中にこの句に応える何かは無かった。
────────スズキ皐月
らしいですよ。
────────海馬
メキシカンタコス味の平面
平面なのに立体感ある。メキシカンタコス味の平面が立ち上がる。美味そう。
────────城崎ララ
「メキシカンタコス味の」まで来たら、言ってしまえば四文字の大喜利になると思うんですが、「平面」というのが好きでした。ヴァーチャルな三次元空間(3Dモデリングの画面)みたいなものを想起させられて、そこに「メキシカン」が加わるっていうのがちょうど意識の外にある感じで良かったです。逆にちょうど良すぎるという感覚もあるかもしれませんが。
────────nes
平面全体がすべてその味か知るためには、全体を、その無限の広がりを、くまなく舐めなくてはならない。その途方もなさ。
────────海馬
平面に味を考えることってないと初読で思って面白かった。でもタコスの生地のことを書いているのかもしれない。それでも面白いけど。
────────スズキ皐月
再読で評価が上がりました。平面に味を見出すって不思議。だけどポテトチップスってたしかに平面(曲面?)だ。そういう抽象化と、しかしお菓子という具象が妙に共存しているのって、視点として良いと思う。○
────────雨月茄子春
うまい棒じゃん。でも平面だからメキシカンタコス味の二次元。食えそうで食えないのがいいです。いや二次元だから食えるけど。いや平面、だけの指定だと、無限の可能性もあるから食えないかもだけど。微妙なところですが、どうにか14音に収まっているとよりよかったかも。ちょろっとはみ出た15音は、ふしぎなもので14音に比べ、なんだかすわりが悪いです。~の~、という単一修飾の体言止めなるシンプル勝負だからこそ、そのわずかの気遣いが物を言ってくるなあ、と頭の中で14音にするパターンをこねくり回しながら実感しました。
────────西脇祥貴
吹雪いてもどうせ夢しか見ないでしょ
私は吹雪のなかにいたことがない。親の死を経験してもいない。ましてや私は死んだことがない。これらのことを、あたかも体験したかのように語れる。これと、鉛のように身体が重たいと言ってみることには、似たところがある。現行の言語の体制がある。この国に、この母語で生まれ落ちる。多くの他人と共有するものがある。義務教育を受けており、高等教育も受けている。その総合の結果として、私はこの句からせつなさを得ている。どうせ〇〇でしょ、と言われた場面でのせつなさを反復して得ている。夢という語からせつなさを得ている。吹雪とつながらないまま、このせつなさが暮れ残る。
────────ササキリ ユウイチ
吹雪と夢は近いと思う。
────────雨月茄子春
超シンプル、とは思うものの、なにかひっかかります。「どうせ」かな。どうせ以後に言われていることがかなり辛辣です。そしてシンプルゆえ、「吹雪」の含むことの範囲も心配になってくる。なにのことまでを「吹雪」と呼んでいるのか? 警句みたい。「夢追いびとどもは/けっして学ばない」(©トム・ヨークさん)みたいな。口調の変わった警句。けれどそれは、やっぱり警句。
────────西脇祥貴
雪と睡眠のイメージはいろいろな表現物であるから想像しやすさはあった。「ても」とか「しか」がなんだか難しい気がする。それが一概に悪さとは思わないが。
────────スズキ皐月
え、夢も見ない?
────────海馬
流しても僕なのだろう文化館
文化館の前で切らず一気に読みました。そういう文化館があるんだ、と(文化館なんなん、という話もあるけど)。そこには過去の「流したけど僕だった事件」をまとめた事件帳が、一堂に会している。それは多分に網羅的なもの、ほとんどひとつの人生みたいなものに見えることだろう。なんだって僕なのだ。僕自身が選んだ遭遇であり、それは流す以前からじつは僕なのだ。つまり流しても僕なのだろう文化館は、僕なのだ。僕の変奏、僕の同語反復。でもこういう言い換え、じつは相当ねじれた穿ちなのでは。「なのだろう」って口調とか、多分にナルシスティックだし。で「文化」だし。この穿ちのレイヤーも含めてあるとみて、並選にします。あー、これぼく、って開いてたらまた印象ちがうな……おもしろ!
────────西脇祥貴
そういう文化館があるのだと思うと面白かった。「流しても僕なのだろう」が謎過ぎてその文化館は入りたくなる。
────────スズキ皐月
僕にとっては真、の範囲に留まるかな。
────────海馬
大学だここは発狂レストラン
シンプルかなとも思ったけど笑ったから取るしかない。大学は発狂のレパートリー多いだろうからたしかに発狂レストランかも。
────────スズキ皐月
おもしろいんだけど、「~だ」の断定からの「発狂」は近いと思う。
────────雨月茄子春
清水健太郎?(失恋レストラン) あるいはあのやたら怖い児童書の……(怪談レストラン)らへんの流れ(?)を汲んでいそうな句。発狂はだいぶきつい語だけど、レストランの軽さでほどよくころされています。あとここは、と言っているけれど、ここは本当に大学か? 主体の色眼鏡を通した大学なんじゃないのか? 大学以前に世の中全体が発狂レストランなんじゃないの、という突っ込みが来たとして、主体はどう返すつもりなんだろう。学生には受けそうな句。でも学生はどこかで卒業しないと。学生は大学にとらわれすぎるきらいがあるよ。
────────西脇祥貴
まあ、そうかな。
────────海馬
青ぞらのLEDはまだ味蕾
感触がわかるのがいい。LEDが集合している感じと味蕾の感じは共通したイメージを持てる。
────────スズキ皐月
青空をLEDの集合とみる感覚はおもしろいし、まだ味蕾、はとてもいい結び方だと思った。つぼみの画をちゃんと浮かべたうえでズームアウトして、味蕾を思えた。味蕾をつぼみ、と認識し直す感覚もおもしろい。だけど表記、ここのそら、をひらがなに開くのは、余計な引っかかりを生むような……。
────────西脇祥貴
未来の味蕾はどうなるの、と言わせたいのかな。
────────海馬
エピソード・トークでやってきたA定食
やってきた、を「やり過ごしてきた」とか「それ一本で戦ってきた」みたいな意味に取った。「A定食」が内包する長い年数の感覚がそういう意味に着地させてる。「伝統」とかの類語として「A定食」がある。もはや、「やらざるをえなかった」という哀愁すら感じる。「・」でかっこつけているところも哀しい。哀しいね。特選候補。○
────────雨月茄子春
時々任意のAやBについて考えることがある。エピソード・トークという危うげなもの(しかも思わせぶりな中黒!)に対して、さらに任意のA定食を重なるあたりが巧妙な手つきで、うまく曖昧さを保ったままフィニッシュしていると思う。
────────小野寺里穂
定食のキャラクター性をイメージできる一方で定食のメニューにまで想像が及ばない感じがすごく良かった。楽しい定食っぽい。
────────スズキ皐月
わくわくする。A定食なので、具体的なおかずに置き換えられることなくて、想像力が狭まらない。
────────南雲ゆゆ
内容にあまり不満はないんですけど(バラエティのひとコマ、主体がA定食なのがおもしろい、にしてもA定の内容は気になる)、語呂があかんすぎるのだけひっかかりました。やってきた、がだいぶ説明してる……情報量的にはこれくらいだと思うけど、ならいっそもっと飛ばして語呂大事にしてほしい、読み手のこともっとしんじてよ……。
────────西脇祥貴
Bでもいいです。
────────海馬
毀損する海から逃げた鮭だろう?
鮭は海でも川でも生息できるらしいし、どちらかに逃げることもできるのだろう。壊れていく海と安全な川という対比もよかった。
────────スズキ皐月
過渡期のササキリズム、という感じ。なのは、鮭の遡上を踏まえ、それをうまいことレトリックに落とし込んだつくりだなあ、という風に言えて、その説明がおそらく、ある程度の納得を他の読み手に与えるだろうから。それがいい、となるか、やってんな……となるか。ことにわざわざ「毀損」という語を使っていることや、「だろう?」終わりなどがだいぶササキリシグネチャー。あるいはササキリスティックにあたりまえ体操をやってる句、とも言える。鮭は海に出~て~大きくなったら~、川行く♪ みたいな。みたいではべつにないか。ではないとして、毀損する海=ネットの海、とか読み解くこともできるしだとするとだいぶ読みの通りやすい句ではあるけど、それだと通りやすすぎて西脇はいただけませんでした。でもなー、ほんとは一句においては、これくらいの情報量なのかもしれないなー……。
────────西脇祥貴
誰に聞いとんねん、という気がしますね。鮭にかな?
────────海馬
エクレアを墓に供えている天使
絶妙に古風な言葉遣いとレトロな野暮ったさが良いと思った。地方紙の新聞柳壇にあってもおかしくない感じ。川柳の擬古文?を狙っているなら勉強家だし、天然?ならこころにおばあちゃんやおじいちゃんいそう。この絶妙なダサさ(褒めてる)は、笑っちゃいけない生真面目さ。
────────公共プール
この墓は人間の墓ではないと思う。人間の墓にエクレアは手向けない。もっと針とか、鋏とか、そういう物の墓へのお供え。天使が人間の魂だけを弔うわけもない。
────────城崎ララ
生成AI作成ふうの画像が頭に浮かぶ。「エクレア」の意味が「雷」というのも効いているか。くりかえし読んでいると、「供えている」のこころをズラしたい気もしてくるけど(「墓に咥えている」とか?)、ここは文脈やシンタクスがはっきりしているほうがよいのだろうな。
────────海馬
絵面がいい。「エクレアを墓に」だけでも面白い。それでも別に「天使」が邪魔しているわけではない。
────────スズキ皐月
エクレアも墓も天使も同義語だと思う。
────────雨月茄子春
いいと思う。でも4.の句もそうだけど、2~3音の名詞終わりの句って、どうして説明部分が長く見えるんでしょう。景はいい、おもしろいからこそそこが気になる。4.よりはややましかもだけど、「いる」でだれる……。数音、説明過多なんだと思う。きびしいですが。でも景いいな、エクレアだもんな。墓に供えているとの対比はほんといいんだよな、天使だし。ビー面じゃなきゃもっと褒めてるな、いい意味でシンプルだしな。
────────西脇祥貴
明日も晴れ かつて地球は青かった
575にするなら「あすもはれ」、だけど、「あしたもはれ」にした方が一字空けの意味は出てくる気がする。じゃなきゃ一字空けなくてもちゃんと意味は切れてくから575しんじて!! ってなる。あとは明日も晴れ、よりもかつて地球は~の方にさぶいぼが立った。北斗の拳のオープニングを教訓的に言った感じがしてしまって。終わらすなや地球! とバッテリィズのエースさん風に思ってしまいました。
────────西脇祥貴
「明日」「晴」「青」の文字遊びをもっと徹底できそう。となると、地球は不要か。
────────海馬
切られ役の画角 盲腸も左
目が良い句だと思う。切られ役の画角は確かに存在する。盲腸っていう不可視の腸が右にあるように(あれ?この句では左にある?どうして?)。アナロジー、あるいは高次のトポロジーなんですかね、これは。なんとなく惹かれる。特選候補。○
────────雨月茄子春
切られ役の画角はだいたい決まっている。切られる側の恐怖の表情の後に、切る側の顔、剣の動き、血しぶきがうまく入る画角に効果音。お決まりの流れ。お決まりの流れで人が死んだことにされる。剣は決まって左側におさまる。盲腸は右側のことが多いらしいけど、ここでは剣と盲腸が重ねられているので問題ないことになっている。
────────小野寺里穂
17音。この通り読むと盲腸にズームインするけど本来ズーム先はそこじゃない、し、「も」、ってさも当然のように言うけどちっとも当然じゃないし。切られ役、って仮構の存在から盲腸、ってじぶんにもあるものにまで急角度で帰ってくる速度、胸ぐら捕まれて引き寄せられるかんじに、おうおうこれこれ、ってなりました。盲腸にひびいた。←って書いて、うわあこれ川柳っぽい感想だな……と思いました。
────────西脇祥貴
侍に扮する役者の顔が見えてくるのと、その人の中の盲腸も透けて見えてくるようでよかった。「盲腸も左」の何のついでなのかわからない感じも面白い。
────────スズキ皐月
画角は「映す範囲を角度で示したもの」だそうだが、この句の用法はその意味で合っているのか確信がもてず。
────────海馬
「切られ役」という言葉から時代劇を想像したあとに、「盲腸」が出てきて、医療ドラマに画面が移り変わった。切られ役ってそっち(患者)か!
────────南雲ゆゆ
よろこびの燦々々々々無罪
無罪のふつふつと発火するようなよろこびが伝わってくるようです。○
────────雨月茄子春
光ってる感じがこども向けのおもちゃみたいでワクワクする良さがある。これだけ光らされたら点を入れたくなります。
────────スズキ皐月
さんさんさん☆ たのしい、し字面としてもわりと「無罪」を燃やすような燦の字のはたらきは機能している。けど、使っていることばのせいで、全体にぼんやりして見えるのは気になりました。よろこび→概念、燦々(→オノマトペ)→概念、無罪→概念、のトリプル概念だからだとは思う。が、なにかの芯はあるような感じがする。ただそのうえでも、無罪確定の瞬間(しかもどこか、審理が長期に渡ったのちの無罪に見える)がこれほどよろこび、燦々、だけで書き出されていいのか、という問いはもたげてきました。かえって無罪までの時間の残酷さを描き出す、と言えなくもないですが、この句だけでそこまで読むのは力業になるかな……と思いました。連作ならまた話は変わるかもです。あと燦燦燦、と々にせずぜんぶ燦だったらどうか、とか。
────────西脇祥貴
無罪でうれしいのはふつうだと思うが、「燦々」が「散々」や「惨」に裏返るのを狙っているのか。
────────海馬
点々と折り畳まれた縦社会
最初、ひとつの「縦社会」が「点々と」「折り畳まれる」と読もうとして引っかかったが、すぐに、無数の「折り畳まれた縦社会」が虚空に「点々と」浮かんでいる、抽象的だがある種リアルな光景が浮かんできた。「縦社会」とはいうけど、「横社会」とは言わないのは何故かなあ。あわあわと盛り上げられた横社会。
────────海馬
風刺っぽさとか「点々と」から街っぽさがあるけど少し理で把握できすぎてしまう感。
────────スズキ皐月
はじめ「点々と折り畳」む、と読んでいたのでわかりにくかったのですが、点々と、で切って「折り畳まれた縦社会」が「点々と」落ちている、くらいに読めばああー、となりました。ただそう気づくのにちょっと時間がかかってしまった。
────────西脇祥貴
誇張してください(ラジオネーム 我, the)
読み手に対して暴力的に、加害的に虚構を立ち上げさせようとするしぐさが良いと思いました。誇張することは、柵を、規範を破ること。しかし、破っていい規範とそうでないより広い規範(最低限の倫理。矜持ともいう)があって、広いほうの柵を「ラジオネーム」という枠組みであらかじめ囲ってあげている。やさしいね。俺も超えていきたい。○
────────雨月茄子春
◯◯してください、というときに「誇張」を選ぶセンス、ラジオネームの癖の強さ。一貫している。
────────小野寺里穂
ラジオネームの読み方はわからないけど、この字面の人から「誇張してください」とだけ送られてきたらおもしろい。
────────スズキ皐月
自意識について? 切実さを感じるのは読み過ぎかな。
────────海馬
こちょうしてくださいらじおねーむがざ=17音。
────────西脇祥貴
餅を吸う掃除機のこと考えて
三つの読み方がある。すなわち、餅を吸う掃除機のことを(私が)考えている/餅を吸う掃除機のことを(みんなに)考えてほしい/掃除機のことを考えて餅を吸う(私(掃除機の気分になっている))、という読み。僕は三つ目で行きたい。なぜかというと、「掃除機人間」を誕生させることができるのが川柳だと思うから。【以下余談】俺が作るなら「俺は掃除機! 餅を吸う! 吸う!」になる。俺の読みに寄せるならこっちのほうがいい。(改作出すのはご法度だと思うんだけど止められなかった。)ううむ、句集『おともだちパンチ』(来春刊行予定)にもこの句を載せたいな。
────────雨月茄子春
「餅を吸う掃除機のことも考えてあげて!」と読めそうだけど、あえて餅を吸うように食べながら掃除機を思い出してるように読む。あの吸引力にたどり着くにはどういう訓練がベストなのか。
────────黒澤多生
むしろ食べものを合法的に吸い込むチャンスでは
────────城崎ララ
くだらないことをどうでもよいことを考えながらやるところがよいですね。ただ実際の餅吸いの景を説明しているだけな気もする。「考えず」でどうだろう。
────────海馬
お正月にふさわしい句ですね。ほんと季節感大切にしたい、と思いながらできてなくて反省ばかり。二通り読めて、①「て」をあとへ続く助詞と取ってこの後に含みを持たせる読みと、②「考えてよ!」の方の「て」として、にしても静かに(やや怒りながら?)想像を促しているであろう読み、とがあると思った。いずれにしても「餅を吸う掃除機のこと」なのがいいです。これはまちがいなく川柳がやる部分だなーと思いました。そこ止まりだったので予選ですが、悪くはないです。
────────西脇祥貴
考えて欲しさと現実の痛々しさが呼び起こされるがちょっとつらい。
────────スズキ皐月
オムレツのyouに綴じられtake蝶
おかしなルー大柴みたいで笑ってしまいました。「きみ」とかでいいじゃん!って思うところをわざわざ「you」にしてるのが面白いです。内容自体は(「take蝶」がなんか変なところを除けば)「オムレツのきみに綴じられ」っていうのは川柳的にはある飛躍だと思うんですが、表記が英語になるだけでこんな謎のポエジーが生まれるんだ、という発見があり、特選で取らせていただきました。
────────nes
575、なんだよね? 英語部分が英語としての意味だけでなく、音を共有する日本語とも対応して、それも自然に読めていったのがふしぎでした(take→ていく、で綴じられ「ていく」)。だとしたらyouにはなにが当てられるのか? 雄? 友? 憂? 夕? ここがぼけているのは、この句においてはいいと思いました。ただ一読そういうことに気づかず流されるかも、表記のおもしろい句、止まりになりそうかも、というかんじはしました。なにか信念はありそうなんですけど……you takeの目的語がないところあたりとかに。
────────西脇祥貴
ラップのリリックにありそう。
────────海馬
簡単に理解させなさがあるが、オムレツと蝶の合わせは良いような気がしてくる。となると難しいのは綴じられかもしれない。
────────スズキ皐月
今回のどうでしょう枠
────────城崎ララ
添える手へ体罰都市の彫られゆく
「体罰」と「都市」を切って読むか、造語として続けて読むかだけど、つづけて読んで取ることにした。体罰とは反対の印象の「添える手」に、全体としての「体罰都市」が彫られるという循環的な情景が面白い。
────────海馬
体罰都市というワードが目を惹く。嫌な都市だ……。
────────南雲ゆゆ
まず、「添える手へ体罰/都市の彫られゆく」なのか、「体罰都市」という造語なのかが分からず、そこが魅力の句なのだとは思いつつも予選にさせていただきました。でも「体罰都市」という字面を生みだしたのは間違いなくこの句の手柄だと思います。
────────nes
気になる。句の流し方と造語が良い。
────────雨月茄子春
「体罰都市」面白いかもしれないと思ったが「体罰」と「都市」で切って読むのが意図かもと少し迷う。どちらにしても大きく景が変わることはないか。
────────スズキ皐月
なんかすっと出たけど、どうなのかな。
────────西脇祥貴
お父さんあばれちゃうぞ〜氷の上で
氷の上でがフリオチ過ぎる割には落ちてないので評価が伸びなかったけど、お父さんにはあばれちゃってほしい。
────────雨月茄子春
誰も見ていない、とか書くと、サラ川っぽくなるね。
────────海馬
なんで最後7音にした? よくあるおかしみと、その説明でしかない気がするんですけど、どこか読み損ねてるのかな。あとあまりに個人に引きつけすぎな読みなのでよくないんですけど、これ海馬さん作だったとしたら無邪気すぎですよ!! ってすぐ突っ込めるな、という良さ(良さ?)はありました。
────────西脇祥貴
あばれないで!でも「氷の上」以外のどこかの方が楽しそうと思ってしまった。
────────スズキ皐月
かんのんのある長谷なのだ。だまれよ。
語り方、というか声はいい感じなんですけど、長谷(ながたに? はせ? ちょうこく?)が特定できなさすぎて迷いました。想像させる範囲は広く確保できるものの、すぎ、はあまりよくないと思う。字だけから車谷長吉さんとかも浮かんだりして、効果としてはおもしろいんですけど。「かんのんのある」もおもしろい、もんもんなのか聖痕みたいなものなのか分からないけど、それが生じて聖化したものだから「だまれよ。」って言える、という理屈も通る。聖化を「かんのんのある」って言い方してるのもいいです。あ、そうなってくると長谷、べつになんでもよくなってきたな。並選入れます。
────────西脇祥貴
ひとつ目の句点に理性を感じる。理性で「だまれよ」と言ってそうで、ものすごく相手のことを嫌ってるんだろうなという面白さがある。
────────スズキ皐月
質の悪い自動文字起こし、自動翻訳字幕が、角度をもって書き起こせる文字が「だまれよ」だと思った。漢字が開いているか否かに関する句の面白さは、紙に印刷されたときの濃淡なんかよりもずっと、キテレツな字幕との勝負で考えたほうがいいのかもしれないと思った。さて、そんな字幕に比べて、川柳だから実現できる良さというのは、日本語文法としてはしっかり出来上がっている、という点だろうな。それは、字幕が、発話された文章をそのまま文字にするものであるために、そもそも徹底的に口語であることを考慮すれば当たり前のことなのだが、この差がデカすぎる。この川柳は日本語文法としては出来上がっている。面白い。文章の意味はそれほど曲がっていないが、面白い。だまれよ、と〈発話〉されているのも面白い。
────────ササキリ ユウイチ
長谷寺かな。だまらないよ、がんまだれだよ。
────────海馬
波際がアポリアなんだと気づく蟹
境界が必ず難題を内包しているように、波際がアポリアなのであるというところまでは、すんなり受け止められた。この句における「蟹」の立ち位置について色々考える。蟹は海水にも淡水にも棲息しているから、余計に「波際」の処理が難解だった。海水・淡水両面から見た波際が、同時に存在しているという矛盾した光景が、他の生物ではなく「蟹」の視界を通過するからこそ立ち現れてくる。その景によって、読み手はアポリアに陥り、テクスト→想像した光景→テクストと巡る構造になっている。
────────南雲ゆゆ
波際とアポリアまでは、積まれてきた詩の蓄積とかを感じなくはないんだけど、やっぱ蟹だからな。
────────ササキリ ユウイチ
蟹が好き。
────────公共プール
マ、哲学する蟹、という概念ですわな。良い句だと思う。だからこそもうちょっとほしい。何がかはわからない(この行き詰まり感がアポリアなのかもしれない)。
────────雨月茄子春
アポリア、なんやっけ……で調べたらすっごい得した気分になれた句。川柳アニマル=蟹なムードが満ちてた最近だったので、また蟹……? と警戒してましたが、これは景としても悪くないと思った。かわいい! でも中八→説明っぽい「気づく」のつなぎがちょっとだらっとして見えたので予選です。
────────西脇祥貴
蟹の動作が欲しい。
────────海馬
月から、カラスアゲハの矯声が
雰囲気たっぷり。字面上475、でも読点で間の一拍が入るので聴覚では575。定型! だからこそなのか、その頭の4といい「が」で切れている終わり方といい不安定に見えるのに、密度は高く感じました。月→カラスアゲハ、という高低の視点移動のダイナミックさに加えて、終わりでまさかの聴覚に訴えたのが効いてます。声出さない生き物の嬌声だし……って打って気がついた、嬌声じゃない、「矯」声だ。矯の字だけで調べると、「ただしくする、曲げる」など、矯正、に見えるような暴力じみた力感を持った字だと分かります。そんな「声」。圧を受けた「声」。それが月から、高いところから……カラスアゲハって赤と黒ですよね。そこまで揃っていると、あと緑がいま夜空の黒、カラスアゲハの黒の中から月光を受けてにじみ出てきて、パレスチナのことを思ってしまった。これはさすがに歪曲かも知れませんね。でもだとしても、これは川柳だからおれに見せられた色だと思った。今回はこのにじみに賭けて、特選にします。
────────西脇祥貴
読点の使い方が上手!それゆえに「嬌声」はEASYに使われ過ぎていてBAD!
────────雨月茄子春
詩の一行という感じ。
────────海馬
初句がやはり気になる。月と蝶の取り合わせもありそうだなと思ってしまった。
────────スズキ皐月
煮くずれてゆく楽しさと無念さと
「煮くずれてゆく」の主語を、後ろにつづく「楽しさと無念さと」とするか、別の何かが省略されているととるか。この場合は両方可として、その二つの読みが混じっていくと読みたい。つまりはすべてが「煮くずれてゆく」のである。二句ずれてゆく?
────────海馬
川柳だいすきワード、煮る。今回は煮くずれ。はじめはうーんシンプルすぎるか……と思ったものの、何度か読むとあ、主体が煮くずれてるのか、とわかって、煮くずれる者の気持ちを書いた句、とすればおもしろく見えてきました。そりゃ変身の楽しさと、不可逆の無念さでしょうよ。簡にして要を得ているうえにおいしそうなので、並選入れます。
────────西脇祥貴
〇〇さと、、、というのが煮崩れてほろほろになる感覚とまっちしていてプラスになってます。
────────黒澤多生
楽しさは良かったけど、無念さに意外性が少なくてそこが好みと違った。煮崩れモチーフも面白い。
────────スズキ皐月
南家からもっとも古い音が鳴る
麻雀ですかね(「南家(ナンチャ)」と読みそう)?勝手に「大きな古時計」を思いだしましたが、「もっとも古い音」っていうのもそもそも何?っていうところがあります。でも何故か「東家」とかより「南家」の方がしっくりくる、というのは分かる気がする。
────────nes
麻雀かな。良いですね、大きな「予感」のある句です。○
────────雨月茄子春
みなみけ、と読んだあなた。同世代ですね。なんちゃですね。麻雀川柳ってもっとやられるべきじゃない? といきなり思いました。「もう一度点棒計算したかった/雨月茄子春」だけじゃもったいない、麻雀には川柳の金脈がある予感がする。閑話休題。もっとも、がしんでないのがすごく気になる。なんでそうできるんでしょう。音はたぶん洗牌かな、と思うもののなかでも南家のそれが古い、しかも「もっとも」、というのはたしかに気になる。雀卓を通してつながる多元時空、もしくは歴史・時間の流れの、途方もないつながりを思いました。なんだっけ、時空の裂け目、みたいな。雀卓が時空の裂け目になってる、という。あもうやめときます。
────────西脇祥貴
川柳的には「なんちゃ」? 「もっとも古い音」が思わせぶりだなあ。麻雀しばらくやってないから、ピンと来ず。
────────海馬
家と音の組み合わせは良いと思う。やはり何の音か特定して欲しさはぬぐえない。
────────スズキ皐月
聖徳太子は酔うと石を食った
それにしてもリズムが良すぎる。改めて並選を見返して、一番脳裏に焼き付いていたので特選。◎
────────雨月茄子春
17音。雨月さんと杉田土佐一賞の話をするたび引き合いに出される句があって、「もう無性にキリン産みたくてたまらん/雨森茂喜」っていうんですけど、それを思い出しました。ということはいい句なんだと思う。どう見ても散文のつくりなのに、そんなことをどうでも良く思わせる秘密には、内容はもちろんリズムがあると思う。「聖徳太子は」までは8音でもたっとして見える。固有名詞かつ漢字四字、かつ偉人としての知名度による速さでどうにか読み抜けられる、というかんじ。このあと。「酔うと」で3音。このブリッジのビートが効いて、リズムが読み手をぱっとキャッチする。しかも酔うと……? の引きもあるので効果は倍増。で「石を食った」。3・3+あとの3に促音。すぱーん、と結論を叩き込まれます。この、意味の絶妙な抑え方……説話のくだりとしてはこれ、ある範囲だと思うんですよ。『今昔物語集』やってたから言うわけじゃないんですけど。この絶妙な飛び具合/飛ばさな具合はどストライク。こんなはまることある? というくらいびっくりしています。まさに「大嘘」ってやつですね。
────────西脇祥貴
歴史もののフレーズを使うのは、小池正博さんや井上一筒さんが十八番にしていますね。現在からの距離を上手く使うと面白いのだが、この句の「酔うと石を食った」は飛んでいるようで意外と正直な気がしました。
────────海馬
もう少し情報というか読みに広がりがでるなにかが欲しいと思った。聖徳太子が奇行をするだけではもったいない。
────────スズキ皐月
部分の波動
────────公共プール
ドン底のンゾには向上心があるぞ
ドン底は底だけど、どこか底抜けの明るさがあるよな、と気付かされた。ただ、最後の「ぞ」は無いほうが、ぴったり十七音でリズムが良いし、そのリズムが、ドン底から這い上がっていきそうな明るい調子を生み出している。「ぞ」の音の面白さや生命力は、前半で十分伝わってるので、リズムを崩してまでダメ押ししなくても良かったと思います。あと、切り取りの面白さはちゃんと指摘しとかなあかんですね、部分ツイートで見慣れてるからスルーしそうになったけど。ドン底にンゾあるんや?っていう笑い。部分の良い昇華の仕方でした。
────────南雲ゆゆ
ちょっとおもしろい。「あるんぞ」とも迷ったと思う。もっとンゾの響きを信じて身を任せたら良かった
────────公共プール
たしかにンゾで上がる感じはある。それを向上心と言うところの面白さや「ぞ」の音で整えてるのも好印象だった。
────────スズキ皐月
確かに向上心があるような音。逆にゾンビのゾンには向上心ないと思う。
────────黒澤多生
どん底のどんは身体が落ちた音 予感をかさねれば日々になる/安田茜『結晶質』、の短歌を思いだしました。そこが一番気になったところで、内容は面白いですし、真逆のことを言っている感じなんですが、他ジャンルとはいえ類歌が浮かんでしまったというところで予選にさせていただきました。
────────nes
部分川柳はもっとつくられるべき! 絶対支持! しかもこの句の部分はまじでどこまでも意味が無い。そのうえ句末となんか踏んでる。よろこばしい意味で、はらだたしい……。表記だけは気になりますが。
────────西脇祥貴
残った「ド」と「コ」はどこに行くのでしょうね。
────────海馬
あるンゾ
────────雨月茄子春
高い寿司食べてる時に君が代のサビ
わるくはないんですけど音がもったりしすぎか……。~時に/君が代の~、と二つに分けて読んでみたものの、リズムはなんだか気になります。でも内容がおもろすぎです。君が代にサビもなにもって話だし、その認識が主体の性格をだだ漏れにさせちゃってますし。アホなのかスノッブなのか……ってどっちもアホか。サビが音楽のサビとも、寿司のサビとも読めるのもオツ。君が代、って言わなきゃいけないので音楽のサビになってしまいがちですが、寿司に君が代のサビなる妙な(妙なる?)わさびが入っていると取れば、皇室批判句にも見えてきます。批判……批判かな。例によって、「天皇家に差し出す良質の生殖器/渡辺隆夫」と並べてみると……口調はどこか似ている気がする。なんか、言いたげだ。その言いたげななにかがなんなのかはわからないけれど、なにかを刺すであろう予兆がある。予兆は評価すべき。並選入れます。
────────西脇祥貴
苔が和サビってこと?
────────公共プール
超高級な料理を食べる時は、五感全てが研ぎ澄まされて、進化する(トリコ参照)そんな瞬間に、どこがサビかもわからない君が代のサビをみつけることなど容易いのかもしれない。サビとワサビをかけてるのがオシャレかつしゃらくさくていい。
────────黒澤多生
うーん、ふつうにダジャレかなあ。
────────海馬
いや、でも高い寿司と君が代(のサビ?どこ?)の取り合わせはまぁあるよな……と思います。
────────雨月茄子春
健康なイオンモールも盾にする
まずは不健康なイオンモールから盾にする。健康なイオンモールのほうが大事だから。健康なイオンモールって何だろう?健康→元気。動ける。若い。病院に縁がない。元気で動けるイオンモールは活気があって規模も大きい。若いイオンモールは最近出来たもの、もしくは若者向けのお店が中心。巨大化すればするほど、イオンモールは大病院に似てくる。でも巨大なイオンモールって経済的に「健康」じゃないか?すると、健康なイオンモールこそ病院に縁がある気がする。
────────南雲ゆゆ
イオンモールの枕詞に「健康な」は意外と無い、いや全然無さそうだな、というところで取らせていただきました。ドラッグストアならわかりますけど、イオンモールはもう少しガチャガチャしてるというか、「健康」のイメージとは微妙に離れてると思います。しかもそれを「盾に」していて、「も」なので何か他のものも盾にしている、どんどんずらされていく感じが心地よかったです。
────────nes
地方にあるイオンモールの正義を主張するいやな感じ。どんなに腐っていても健康な顔してる感じ。どでかいあのイオンモールは、物理的に盾になることが本来の役割なのかもしれない。
────────小野寺里穂
イオンモールに健康/不健康あるという発想が面白い(とはいえ、「不健康なイオンモール」だと面白くない。「盾にする」は効いているのか、「も」でよいのかは不明。「する」が緩いのかな。
────────海馬
この句から立ち上がる不健康なイオンモールの存在も面白い。結局どちらも盾にされるあたりは戦いの無情さまで考えてしまい、なかなか広がりのある句だと思った。
────────スズキ皐月
も、はむずかしいですね……句以前を思わせるのに一音でその効果が出せるから便利だし、だからこそ濫用がこわい。この句だと「健康な」と「イオンモール」が同語反復してておもしろいのに、そのおもしろさを「も」が散らしてしまってるような気がしました。言い切ってだいじょうぶです。自信持って勝負してください。
────────西脇祥貴
なんというか、三分割スロットゲームという印象がぬぐえない。「健康なイオンモール」も「イオンモールの(も)盾(にする)」も、ちゃんと電気が通っていないというか、連結できていないんじゃないかって思うんです。
────────雨月茄子春
五分の番組のピースなサイン
4543……へんな拍! ずるずるしちゃうのでいいリズムないかなあと考えていたら、番組の番を一音の拍に押し込んで早く読むとちょっとラップっぽいいい刻み方ができるな、とは思いました。てかこれラップからの抜き出しにかぎりなく近くないですか。ここ抜き出す? という部分を切ってきてそうな点で、川柳。
────────西脇祥貴
安っぽい特定企業メインの番組を想起しました。「ピースな」というのはあいまいか。「ピースサイン」じゃダメ?
────────海馬
「五分の番組」はあんまりそういう言い方をしないな、というのがあってすっと楽しめなかった。「五分番組」ならもっとすんなり入ってきたかもしれない。
────────スズキ皐月
名乗るだけ名乗ってカカシのアデューかよ
「かよ」で締めるのは語尾で遊ぶ中では穏当な方だなと思いつつも全体のリズムや音の良さはあってそこで楽しめた。
────────スズキ皐月
表記から、はたけカカシにそんな優雅な口癖あったかな、と思って調べましたがありませんでした。これビー面だからはたけカカシを疑うけど、そこまで気をつけなくてもいいのかな。でも気になるな、カナ表記。案山子じゃだめだったのかな。内容は無理筋のごり押しで好みです。なににも突っ込んでいない。虚のツッコミ。
────────西脇祥貴
NARUTOのかかし先生でしょうか。NARUTO、ちゃんと読んだことないけど。
────────海馬
カカシのアデュー、グッバイ!
────────雨月茄子春
ギガのこと朝もささやく三姉妹
『マクベス』の魔女の現代版。「ギガ」はデータ容量ではなく、濁音でよく分からないちょっと不快なものを示唆しているのか。
────────海馬
スマホのCMでありそう。でも朝も夜も三姉妹からささやかれてたらつらいだろうな、という面白さがある。
────────スズキ皐月
最近スマホ持ったんですよ。でなにがいやかって、充電とギガの心配しなきゃいけないこと。もううんざりしてきてます。なんで便利のために心配事を増やさねばならん……? だからいやな姉妹だなあと思って。この「も」はいいと思うんですけど、なんというか、内容のよいいやさに比して、全体が575に収まりすぎてさっぱりしすぎかな、とは思いました。
────────西脇祥貴
くつ下をなくした子から箱にする
クリスマス以前で読むか以後で読むかで印象が変わりそうな句。「箱にする」は魔神探偵脳噛ネウロに出てくる怪盗Xの赤い箱を想起する。またはしまっちゃうおじさんか。こどもになんらかの注意をする時は、怪物や悪魔の存在を仄めかして恐怖によってルールを教え込んでいく。淡々としてるのに結果の怖さが合わさっていいホラー句になってます。
────────黒澤多生
グレート。子が読んだら喜ぶ気がする。機会があれば子に読ませて、子がどんな反応をするかを見てまわりたい。
────────ササキリ ユウイチ
「箱にする」に微妙な既視感というか、置きに行った感がぬぐえないが、「箱」があなたにとってキーになる単語ならいいねって思う。○
────────雨月茄子春
怖い!スマホを落としただけなのに、みたいなおかしさが川柳らしくて好きな句でした。好きだったんですが、相対的に飛躍の感覚がやや弱いかもしれない(ビー面という場だからかも)と感じてしまったので予選とさせていただきました。
────────nes
かわいそうじゃないか。
────────海馬
山月記(instrumental)
この感性、自分より若い世代の川柳だと思った。Z世代だ!と思ったけど、暮田さんはすでにZ世代を名乗っていましたね。詩人が詩を奪われ、人の姿を奪われ、最後には咆哮して姿を消す。(instrumental)洒落てる。
────────小野寺里穂
山月記の力をうまく使っていると思った。元々山月記自体音楽っぽさはあるものの(だからこそ?)少々句の形として綺麗すぎる気もする。面白い。
────────スズキ皐月
「短歌(off vocal)/暮田真名」『ぺら』より。知ってるとどうしても対に見えてしまう……よくないバイアスだとは分かりつつ、意識してしまいます。ただこの句でしかできてないことはあって、それは「短歌」に対して文量の多い「山月記」を置いていること。instrumentalである妥当性が強い。し、「短歌」に対して知名度の高い「山月記」であることも大切だと思います。知られに知られた山月記の、そういう新たな語り方がある、と示す句。
────────西脇祥貴
実際、インストの曲名でありそうかな。
────────海馬
あやとりは留学ハイの生き残り
留学での高揚感が少し収まったところであやとりをしてるのかな。「留学ハイ」って言葉も面白いし、それで残ったのがあやとりというのも良い。あやとりはふたりでもできるので誰かの存在を感じることもできる。
────────スズキ皐月
「留学」をしてハイになっている状態が「留学ハイ」かな。「生き残り」が分かりにくい気がしました。
────────海馬
明るいのにしっとりしてる。ハイと生き残りの組み合わせかな。留学ハイボールって概念はちょっとおもしろいです。
────────雨月茄子春
矢も盾も研ぎ澄まされて 好きなんだ
真ん中の「研ぎ澄まされて」のところが捩じれているのだな。「矢」と「盾」が武器で「研ぎ澄ます」に近いのが読みを不自由にしているような。
────────海馬
矢はともかく盾も研ぎ澄まされることがあるのだろうか、という疑問はありつつ、それを「好きなんだ」で締めるのは面白い。
────────スズキ皐月
あげちくわららあげちくわるる
ちょっとおもしろい
────────公共プール
おや、ごきげんな空洞だね。○
────────雨月茄子春
難しい〜!!でも口ずさみたくなるこの軽快さは、川柳。「わるる」の悪さしそうな感じも良い。
────────城崎ララ
かわいい。仲良さそう。けどあげちくわは2本もいらないと思う。闘わせたい。
────────黒澤多生
あげちくわすきすぎ! おいしいよね!
────────西脇祥貴
ちょっと玄人好みすぎる句かもしれない。
────────スズキ皐月
あげちくわられ?
────────海馬
慣れてない手つきおはようまだ犯罪
感嘆詞の投げ込み方が鮮やか。いいリズム。落とし方も気持ちがいいです。○
────────雨月茄子春
関係ない「おはよう」が入っているのが工夫か。他のあいさつじゃなく「おはよう」なのはなんでかな。
────────海馬
矢継ぎ早にに後半来るのだけど意味を取るのはすこし難しいかも。テンポ感はいい。
────────スズキ皐月
カメラ越しに桜の園を捌くから
「捌く」で「桜の園」が肉々しく見えてくる。でも「カメラ越し」。距離感がうまいような、味わいを薄くしてもったいないような。「から」がベストな選択かどうか。
────────海馬
カメラで撮る対象を捌くというのは面白い。しかもその対象が桜の園という結構大きそうなものであるのも気持ちがいい。
────────スズキ皐月
桜の園を捌く、の意気やよし!
────────西脇祥貴
桜の園から捌くというように、音から語が引き出されてそのまま配置されていると、短詩の良さが出てるな~と思います。
────────雨月茄子春
放浪者和えの博士を向かわせる
「放浪者和え」という語に乗れるか乗れないか、という句だと思うんですが、好きだったので取らせていただきました。人を人で和えるって発想が怖い!「向かわせる」という着地は川柳らしいというか、ちょうどいい感じが良くも悪くもありますが、この「博士」の状況を考えるとどうなっちゃうの?という怖さと興味深さがありました。
────────nes
和えもなんかよく見るような……
────────西脇祥貴
「向かわせる」のがどこへかが省略されているのが鍵だと思うんですよね。「放浪者」だからどこへでもないのかも知れんが。
────────海馬
悪いとは思わなかったけど、放浪者の想像が少し難しい。なんとなく「放浪者和えの博士」を想像してみてもこれが正しいのか自信を持てなかった。
────────スズキ皐月
売春観世音五号劇まで来られたし
雰囲気の作り方みたいなところは良いなと思った。知らないものをここまで想像させられるのはすごい。
────────スズキ皐月
聖と俗が出会う場所としての演劇、とすると当たり前になってしまうか。
────────海馬
この「売春」はただのインプレッション稼ぎなのではないか??それ以降がかなり完璧に決まっていて最高って感じだったせいで、逆に悪目立ちしてる気がした。
────────雨月茄子春
これはふざけました。売春観世音からやった。だから五号のあとで切れます。
────────西脇祥貴
生き延びるために砂場の鯨幕
砂場と鯨幕による取り合わせの不気味さがすばらしい。
────────スズキ皐月
鯨幕、調べてみるとその名の通りの見た目をしている鯨幕。人が亡くなった際によく見るものだが、ここでは「砂場の鯨幕」なのだ。「砂場に」でも、「砂場にある」でもない。「砂場の鯨幕」という音の気持ちよさ。生と死を反転する役割なのだろうか。本来場の仕切りや、目隠しとして使われるものだが、砂場では自分が主役だという顔をして横たわっている画が浮かぶ。
────────小野寺里穂
景好き。ただ、砂場ではもったいなく感じた。砂丘や砂漠でも良かったのに。
────────公共プール
575。38.みたいな率直さに近いような気もしつつちょっと違う。砂場の鯨幕、がうますぎる。
────────西脇祥貴
砂場遊びをしているとき、そこで流れている時間は早いと思う。山ができ、更地になり、城が建ち、一瞬で崩れ、海ができるとすぐに干上がる。そうした仮想の営みの中で子どもたちは生きる術を学んでいくんだと思う。死を受け入れる練習も砂場で学ぶべき。
────────黒澤多生
「鯨幕」の選択がうまい。うますぎて、落ちついちゃっているなー。
────────海馬
「に」、ですかねここ。
────────雨月茄子春
マザー あるいは臑毛抜き弾頭大会
小説か何かのタイトルのスタイルかな。「弾頭大会」の造語が上手く行ってないような。
────────海馬
キレキレの小学生向けギャグマンガ(なぜか大人に人気がありまくる)、ボーボボ、みたいな。予選だけど変すぎて好きだった。この方向性(造語ギャグ新概念創造)でいろんな作品を見てみたい。
────────雨月茄子春
面白い気も一瞬あったけど、わからなさが徐々に強くなって、特に「弾頭」がわからなくて取れなかった。
────────スズキ皐月
それはそれは高いハードル、マザー……
────────西脇祥貴
帰宅即喪主挨拶の乾きもの
虚子の句の転じだけど、虚子の図々しさには勝てんのじゃないか。
────────海馬
乾きもので落とすところ、俳句みたいな後味がある。サッカーのめっちゃうまいトラップってこんな感じ。スピードある球体が足元にスッと吸い付く感じ。
────────雨月茄子春
「帰宅即」のスピード感が今の自分と合わなかったかもしれない。もっとゆっくりでも面白い気がする。
────────スズキ皐月
腎う炎のう貞淑の膿落ちて
腎盂腎炎? あんまり貞淑と関係ない気がするし、関係ないことの面白さもないような。
────────海馬
ナンバリングされた預言者多すぎる
キリスト教の聖書はナンバリングが徹底している。ただ、ナンバリングされていない預言者も多い気もする。いや、ただ預言者が多すぎるだけで、ナンバリングが間に合っていないだけなのかもしれない。そもそもあなたが預言者なのかもしれない。でもすでに多すぎるから、名乗りをあげなくてもけっこうです。たとえ神のことばがどんなに重くとも。
────────海馬
内容はすこぶる好きでした。唯一、「預言者多すぎる」の助詞抜きが気になり、予選とさせていただきました。私が割と短歌寄りの人間だからかもしれませんが、「預言者が多すぎ」の方が個人的にはしっくりきます。
────────nes
「すぎる」ってどうしてこんなにおもしろいんだろう。過剰さでドライブかかるからなんだろうけど、感情の振れ幅を無理矢理広げる力がある気がする。
────────雨月茄子春
たしかに、という納得はあったけどそこから先がなかった。
────────スズキ皐月
総評
印象として、句がかなり平準化されているのではないか。名前がついて、作品として束ねれば見方が変わる可能性はありますが、一句単位だと、どれがだれの、というのは当てられる気がしません。これは「ビー面調」ということなのか、社会との距離のとりかたが大胆に見えて以外に繊細だと感じました。
────────海馬
全句 作者名付
![](https://assets.st-note.com/img/1736654116-xyYiEV2oNfImM5hwUe6CRQu8.jpg?width=1200)
巴投げしてね/モネ/密告してね (雨月茄子春)5点
これは大きいお米だよ。国じゃない。 (公共プール)6点
いっそカラーコーンでボイパしちゃって (小野寺里穂)1点
空き腹の伊邪那美が描く黒い海苔 (ササキリ ユウイチ)0点
「いったん句の外に出る」らしい (海馬)4点
メキシカンタコス味の平面 (小野寺里穂)5点
吹雪いてもどうせ夢しか見ないでしょ (海馬)3点
流しても僕なのだろう文化館 (太代祐一)2点
大学だここは発狂レストラン (黒澤多生)1点
青ぞらのLEDはまだ味蕾 (太代祐一)1点
エピソード・トークでやってきたA定食 (海馬)4点
毀損する海から逃げた鮭だろう? (南雲ゆゆ)1点
エクレアを墓に供えている天使 (nes)6点
明日も晴れ かつて地球は青かった (スズキ皐月)0点
切られ役の画角 盲腸も左 (城崎ララ)4点
よろこびの燦々々々々無罪 (nes)2点
点々と折り畳まれた縦社会 (黒澤多生)1点
誇張してください(ラジオネーム 我, the) (西脇祥貴)3点
餅を吸う掃除機のこと考えて (公共プール)2点
オムレツのyouに綴じられtake蝶 (城崎ララ)2点
添える手へ体罰都市の彫られゆく (西脇祥貴)1点
お父さんあばれちゃうぞ〜氷の上で (黒澤多生)0点
かんのんのある長谷なのだ。だまれよ。 (太代祐一)3点
波際がアポリアなんだと気づく蟹 (スズキ皐月)4点
月から、カラスアゲハの矯声が (nes)2点
煮くずれてゆく楽しさと無念さと (城崎ララ)3点
南家からもっとも古い音が鳴る (ササキリ ユウイチ)3点
聖徳太子は酔うと石を食った (公共プール)4点
ドン底のンゾには向上心があるぞ (雨月茄子春)4点
高い寿司食べてる時に君が代のサビ (スズキ皐月)3点
健康なイオンモールも盾にする (公共プール)5点
五分の番組のピースなサイン (城崎ララ)0点
名乗るだけ名乗ってカカシのアデューかよ (雨月茄子春)1点
ギガのこと朝もささやく三姉妹 (太代祐一)2点
くつ下をなくした子から箱にする (スズキ皐月)6点
山月記(instrumental) (nes)3点
あやとりは留学ハイの生き残り (南雲ゆゆ)1点
矢も盾も研ぎ澄まされて 好きなんだ (雨月茄子春)0点
あげちくわららあげちくわるる (海馬)4点
慣れてない手つきおはようまだ犯罪 (黒澤多生)1点
カメラ越しに桜の園を捌くから (小野寺里穂)2点
放浪者和えの博士を向かわせる (ササキリ ユウイチ)1点
売春観世音五号劇まで来られたし (西脇祥貴)1点
生き延びるために砂場の鯨幕 (南雲ゆゆ)6点
マザー あるいは臑毛抜き弾頭大会 (西脇祥貴)0点
帰宅即喪主挨拶の乾きもの (ササキリ ユウイチ)1点
腎う炎のう貞淑の膿落ちて (南雲ゆゆ)0点
ナンバリングされた預言者多すぎる (小野寺里穂)1点