雪はまぼろし
2023年度の豆の木賞をいただいた20句連作「雪はまぼろし」を期間限定で公開します(いつまで公開するか分かりませんが好きな時にやめます)。
引用などは、自由にお使いください(引用される場合は作者名を添えてください)。
小箱の作品「Haiku souvenir」の元の連作でもあります。読んでいただけたら嬉しいです。
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雪はまぼろし
佐々木紺
真円の中心に雪消えにけり
窓の雪われら誰かを置き去りに
雪吊に語はつぎの語をひらめかせ
寒卵転げ金の国銀の国
毬に鳥乗りてゆらりと四月来る
ねぢあやめ眼はうつし世を幾重にも
七月の降りながら沸くにはたづみ
河童忌の闇に鈴ころがしてゐる
黒鷺の発つとき影と身に岐れ
魚の尾に風の立ちたる花藻かな
砥石ぬらして紋のうかびぬ夏の夕
かるかやのやさしく云はれさやうなら
ひとばしら淡雪羹のひらかれて
雁来紅ひそかに煮ゆる旧家の内
花野ずつと出られぬひとをふりかへる
十三夜マグの輪郭すいと立ち
絹にしらぎく縫はれて夜の長さかな
露となりめぐれば苔の花は森
釉薬やまだ目に流星の軌道
雪はまぼろし姉妹のまびく貝割菜