最近の記事

ずっと繰り返し書いていること

どの記憶を忘れてもいいから、胸がきりきりと痛んだ瞬間、(とても好きだけど自分のものにはならない/それはもう絶対に)、強いときめきと希求と絶望のまざりあうような気持ちをくまなく覚えておきたくて、その記憶だけは生きている限り保っておきたくて、その延長線上に句がある、なと。

    • 雪はまぼろし

      2023年度の豆の木賞をいただいた20句連作「雪はまぼろし」を期間限定で公開します(いつまで公開するか分かりませんが好きな時にやめます)。 引用などは、自由にお使いください(引用される場合は作者名を添えてください)。 小箱の作品「Haiku souvenir」の元の連作でもあります。読んでいただけたら嬉しいです。 ** 雪はまぼろし                             佐々木紺 真円の中心に雪消えにけり 窓の雪われら誰かを置き去りに 雪吊に語はつ

      • 句集を置いていただいている本屋さん

        2024年5月6日時点で、句集「平面と立体」を置いていただいている本屋さんを公開します。 ・曲線/宮城  @kyokusen_8 ・古書ソオダ水/早稲田 @kosho_soda_sui ・マルジナリア書店/分倍河原 @marginaliaBS ・Lighthouse/幕張 @book_lighthouse ・loneliness books/新宿 @BooksLoneliness ・books 電線の鳥/長野 @books90351383 ・葉ね文庫/大阪 @tobiyam

        • 「夜の速度」についてのメモ書き

          2023年10月―2024年2月まで大阪・葉ね文庫で、山口斯×佐々木紺「夜の速度」(コーディネーター:牛隆佑)が終了しました。 (注意書き:これは展示についての企画段階のメモであり、 山口斯さんが作られた実際の展示とは異なるものです。 また、展示に使用いただいた句は下記が全てではないです。) ***** 「夜の速度」   佐々木紺 【メイン部分】 A 青葉濃く硝子戸に浮く雪の紋 B 対角線上に君ゐる冷奴 C 秘密告ぐるほかなき蚊帳の狭さかな D なめらかに月を象る手

          ニュース(10句)

          2023年の豆の木誌に提出した作品10句です。 ** 「ニュース」   佐々木紺 ゆふぐれの藤棚に鬼殖えてゆく 籐椅子を垂れて手足へ血のおもさ 夢に記憶組み替へられて夏柳 窓は目を隔てあやめの枯れつくす 風死して鋭きものを選りぬく手 ぽつかりと夏の底ひや貨物駅 蘭鋳のひらひら靡く星の面 宙をしばらく水からくりのみづの玉 たましひもニュースも引つ掛かる網戸 袖に来てきつと昨日の蛍かな

          ニュース(10句)

          アメリカ

          アメリカの句をふと残しておきたくなったので。適宜追加します。 ** 桜餅働かぬ世のやはらかく 陽の白さ囀りばかり残る部屋 花束に隠すグミベア四月来る やはらかき棒にて殴りあふプール 鴨凉し雨後のみづうみの水位 鴨凉しプールは池に隣り合ひ 魚をらぬプールや鴨は来てゐたり 鴨が子に何か教えて迅くなる 追へばプールの真中に逃げて鴨の五羽 ロンドン橋いくつか落ちて夏の夕 どこかには鰐をる池や夕立来る 釣り糸に風の余れるなつやなぎ 枕に眼載せて星飛ぶ記憶術

          アメリカ

          Day3 ユプシロンNo.6(途中まで)

          「ユプシロン」を送っていただいた。いつも表紙がうつくしい色を選んであり、今回は濃いすみれ色。 はい。ということで今日の大好きな一句はこれです。 一夜なら泊めていい月きれいだし 小林かんな これ!!大好き!!! もう少し書きましょう。 もちろんこれは恋愛の始まりの句としても読める。でもこの良さはそれとも違う気がする。 ここから恋愛は始まらないほうがこの句はなんだか良い。 流れる水のような、さらりとした一時的な好奇心と、ごくうっすらとした好感。他人に対する距離感の遠近を

          Day3 ユプシロンNo.6(途中まで)

          Day2 百合俳句アンソロジー「ひめごと」

          まず表紙が可愛いのが良い。このアンソロジーにこの表紙はキャッチーで、大正解だと思う。本は薄いけれど中身は見た目よりもかなりぎゅっと詰まっている(俳句の量も)。 好きな句がたくさんあったのでひとまず引いておく。そのうち追加で何か書けるかも。 蛍ほど尊く生きていられない 音無早矢 人間の曲線撫でてラベンダー 音無早矢 詰められて林檎しづかにふたつかな 森舞華 愛憎のうまれはおなじ秋日傘 森舞華 手を引けば息が白くて嫉妬する 雨霧あめ アイスクリーム次は双子で産まれたい 雨霧あ

          Day2 百合俳句アンソロジー「ひめごと」

          Day1 「虹と指サック」石原ユキオ

          今日からアドベントカレンダー代わりに俳句の感想を書きます。 詩誌アンエディティッド 2023.8.31発行 ゲスト作品 「虹と指サック」 石原ユキオ より。 この連作を読むと、非正規労働者(おそらく女性) / 正社員(性別は明示されない)の対比、そしてジェンダーギャップのことをうっすら考える。連作中一番ひやりとしたのは「天井はあなたには床アイスティー」だった。 「昼寝しているのは正社員のひと」 正社員は昼寝をしていてもやめさせられない。そしてわざわざ正社員と言っている

          Day1 「虹と指サック」石原ユキオ

          「鳥と刺繍」/箱森裕美 感想

          「鳥と刺繍」は俳句を読むことも書くことも、こんなにもわくわくして楽しい、と思わせてくれる句集だった。夢中で読んだ。でも楽しいだけではなく、ヒュッと背筋に風が走るような怖さや、無常感を感じる句もあってまったく油断できない。 「鳥と刺繍」の句には何気ない軽さと、言語化しにくい繊細で心地よいバランスがあり、時折息をのんでしまう。 句を読むとき、心地いいと感じる理由はどこにあるのだろう。 たとえばこの句集の中の、 紅梅白梅遠くで橋の崩れるよ を読むときの、なんとも言えないうっと

          「鳥と刺繍」/箱森裕美 感想

          雛の客とはたましひを身のそとに 岡田一実(鏡47号)

          雛の客とはたましひを身のそとに 岡田一実 (鏡47号) たましいは普通は身のうちに秘められている(と人間は無意識に思っている)もので、身の外側に出ているたましいってだいぶ無防備で危うい気がする。誰かに傷つけられてしまいそうな、なんなら他のものに持っていかれてしまいそうな。 雛の客になるとき、または雛に限らず美術品などを見るとき、たましいがちょっと身の外に出ているような感じがある。たましいに外の空気吸わせてあげる感じというか。うつくしいものを見るとき、世界に対する心の垣根を

          雛の客とはたましひを身のそとに 岡田一実(鏡47号)

          フロリダ、生活はたのしいけど、知事がやばい。反ワクチン、人工中絶の禁止、反LGBTQ…。最近トランスジェンダーの子どもに性別違和を解消する医療を受けさせると、親が親権を剥奪される(親権が州に移る)というやばい法律が可決されてしまった。フロリダでは、去年は子どもに性的指向や性自認に関する教育を受けさせない法律(Don't say Gay Bill)が可決されたばかり(当初は小学校低学年までが対象だったが、一年で高校生以下に対象が広がった)。 反ワクチンについては言うまでもなくや

          楠本奇蹄「いつかささやく」

          潜伏キリシタンの農民の生活、その中での身近な人との別れを詠んだ連作として読んだ。自分はずいぶん前に絵踏という季語に惹かれて隠れキリシタンについて調べた時期があり、オラショ(祈りの言葉)・パライソ(天国)・アニマ(魂)・ロザリオといった言葉はなつかしい。これいい連作だけど用語の解説なしではきびしいのでは、という危機感を感じてここに書き残しておく。 焼野原くわんのんの手はこゑを灯し 聖母マリアは、キリシタンが弾圧されるようになると観音像に擬せられるようになった(マリア観音)。

          楠本奇蹄「いつかささやく」

          加害者にならないために

          以下は、2022年度の俳句同人誌「豆の木」に載せていただいたものです。 この時点で、プロジェクト「短歌・俳句・連句の会でセクハラをしないために」からのアンケートは送付されていましたが、アンケート回答は未公開の状態でした。そのことを踏まえてお読みいただけましたら幸いです。 *** 加害者にならないために -プロジェクト「短歌・俳句・連句の会でセクハラをしないために」に応えて-                                     最初に書いておくがこれは

          加害者にならないために

          好きな山にのぼる(各自で)

          句を上手かどうか、で測りたくない。うまくない句というものがあるとしても切り捨てたくない。評はもちろん誠実にするし、素晴らしいものには驚嘆する。でも自分の目にひっかからなかったものがあっても、それを取るに足らないものとして扱いたくない気持ちがある。 たとえば短歌の最先端を行っている若い人たちの間では、新聞投稿短歌を自分たちのやっている短歌とは別のものとしてくくる向きがあるように見受けるが、自分はそういうのを見ると、良し悪しではなくてけっこうどきっとしてしまう。そこで何かを取りこ

          好きな山にのぼる(各自で)

          Day7

          子どものころから性的な表現に忌避を感じるほうではなかったので、フェティッシュ・エログロもそれなりにたくさん通ってきた。 だからたとえば、ツイッターで起こっている性的広告表現の規制における論争を見て、高校生のときの自分は鼻で笑ったと思う。現実はもっともっとクソであることをすでに私たちは知っていた。塾の隣にはラブホ街がある。公共交通機関に乗れば性被害に遭い、女子数人で歩いていてすら売春を持ち掛けられる。私たちも性的な表現に萌えるし必要としている。搾取されるだけではなくこちらも搾