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「卒業おめでとうー」 「おめでとうー」 高校最後の学び舎の教室で、みなみとお互いの卒業を祝いあった。 さっきまで校内を練り歩いて、ひたすら写真を撮りまくっていたが、教室に財布を忘れたことに気づき、1人さびしく教室に取りに来た。 3階の校舎の端の教室。 階段を上がるのが面倒で仕方なかったが、もうそのしんどい思いをしなくなると考えると、寂しい気もする。 窓から校庭を眺めて、もうこの景色を見るのも最後かと思ったら、いつもと変わらない景色でもセンチメンタルになった。 教
「桜キレイだねー」 隣で女友達の蘭世が目を潤々とさせながら言った。 桜並木の想像以上の美しさに、感極まって、涙を浮かべているわけじゃないと、僕には分かった。 蘭世は、今日会ったときから、目を赤くしながらマスクをつけていた。 僕も、おそろコーデと言わんばかりに、マスクをつけて、目は赤くなっていたと思う。 この時期の風物詩。 花粉症。 そう、2人とも花粉症を患っている。 目も鼻も、取り外して家に置いたまま外出したいくらいだ。花粉の時期は、目と鼻を外に連れていきた
「はぁ」 試合が終わってから、何度目のため息だろうか。 帰り道、幼馴染のみなみと二人っきりになっても、俺からため息は漏れていた。 「試合お疲れ様ー」 みなみは改めて労ってくれた。わざわざ休みに応援に来てくれた。なのに、ダサいところしか見せられなかったのが余計に悔しい。 「最悪だよ……。あんなに練習したのに」 今日の試合で、今までの努力を全否定された気がした。俺の努力に対しての見返りがゼロだ。あんなに頑張ったのに、なにがダメだったんだというんだ。 「そうだね……。練
「結構高いね」 目の前の彼が苦し紛れに言った。 「そうだね。私、結構高いところダメなんだよね」 私はそう答えたが、実際はダメなことはない。高所恐怖症なのに、観覧車に乗ろうと誘うことはしない。そこまでバカじゃない。 なのに、平常心を失って支離滅裂な返答をしてしまった。 でも、今の私の状態は、高いところが怖いんじゃなくて、この空間が怖い。 観覧車のゴンドラという空間は、大抵の人は幸せになる空間のはず。 高いところかつ、密室で景色を楽しむことができる空間で、こんなにも
「結構高いね」 目の前の彼女との会話が続かず、俺は観覧車のゴンドラから見える光景に、ありきたりな感想を言った。 「そうだね。私、結構高いところダメなんだよね」 そう答えた彼女を見ると、どこかそわそわしている様子だった。 言われてみれば、ゴンドラに乗ってからの梅ちゃんの様子はいつもと比べると変だった。どんな時でも、クールで落ち着いている彼女が、今は動揺を隠せていない。 それに女子にしては身長が高い彼女は、外の景色を見ることもなく体を縮ませている。 だけど、観覧車に乗ろ
冬の足音が聞こえ始めた頃。幼馴染のみなみと、学校の帰りが一緒になった。 みなみは家が近所で、小学校からの幼馴染だ。 高3になった今でも、俺とみなみは同じ高校で同じクラス。とはいえ、中学校に入ってからは2人で遊ぶことはなくなって、学校でも自然と話さなくなっていた 別に喧嘩をしたわけでもないし、どちらかが告白して気まずくなったわけでもない。ただただ、自然に話す機会が減って、話さなくなっただけだし、お互い部活で帰る時間も被ることはなかったからだ。 だが、先週の文化祭で俺は