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書店で本をとろうとした時にお互いの手と手が触れ合った瞬間。まるで、電流が走ったように、君に恋をした。 時が止まったように、お互いを見つめたまま、「運命の出会いだ」と脳内の言葉がハモる。 けど現実はそんな甘くない。 そんな出会いなんて、物語の中だけで存在すると思っていた。 そう思っていた。 薄汚れた現代で、こんな妄想をしている人なんて、温室育ちの純粋無垢な人でもいないんじゃないだろうか。 だから、そんな期待は一切せずに、俺は純粋にただ面白い小説を探しに書店に来た
「あ、中田先輩、お疲れ様です」 「あ、新内」 声をかけられて初めて、隣に新内が立っていることに気づいた。 明日のプレゼンの資料を血眼で作っていたら、いつの間にか0時近くになっていた。自分の周り以外は、真っ暗で不気味なオフィスに、今更ゾッとした。。 「あ、よかったら、コーヒーどうですか?」 新内は缶コーヒを差し出してきた。 「気が利くねぇ」と俺は、笑って缶コーヒーを受け取り、椅子にもたれかかった。さっきまで前のめりになっていたせいで、腰がコンクリのように固まっていた。
自由行動。 みんなその時間を一番楽しみにしていた。 友達と遠出の旅行に行ったことのない高校生にとっては、好きな友達とワイワイ騒ぎながら、好きなところへ行ける自由行動は最高なのだろう。 俺にとっては、全部ツアーみたいに、ガイド付きで案内してくれたほうが気楽だった。自分でわざわざ観光スポットを調べる必要もないし、効率がいい。なにより、自分に友達のいないことが露呈しない。 でも、自由行動反対派なんて俺くらいだから、そんなマイノリティな希望は多数派にかき消される。
「卒業おめでとうー」 「おめでとうー」 高校最後の学び舎の教室で、みなみとお互いの卒業を祝いあった。 さっきまで校内を練り歩いて、ひたすら写真を撮りまくっていたが、教室に財布を忘れたことに気づき、1人さびしく教室に取りに来た。 3階の校舎の端の教室。 階段を上がるのが面倒で仕方なかったが、もうそのしんどい思いをしなくなると考えると、寂しい気もする。 窓から校庭を眺めて、もうこの景色を見るのも最後かと思ったら、いつもと変わらない景色でもセンチメンタルになった。 教
「桜キレイだねー」 隣で女友達の蘭世が目を潤々とさせながら言った。 桜並木の想像以上の美しさに、感極まって、涙を浮かべているわけじゃないと、僕には分かった。 蘭世は、今日会ったときから、目を赤くしながらマスクをつけていた。 僕も、おそろコーデと言わんばかりに、マスクをつけて、目は赤くなっていたと思う。 この時期の風物詩。 花粉症。 そう、2人とも花粉症を患っている。 目も鼻も、取り外して家に置いたまま外出したいくらいだ。花粉の時期は、目と鼻を外に連れていきた
「はぁ」 試合が終わってから、何度目のため息だろうか。 帰り道、幼馴染のみなみと二人っきりになっても、俺からため息は漏れていた。 「試合お疲れ様ー」 みなみは改めて労ってくれた。わざわざ休みに応援に来てくれた。なのに、ダサいところしか見せられなかったのが余計に悔しい。 「最悪だよ……。あんなに練習したのに」 今日の試合で、今までの努力を全否定された気がした。俺の努力に対しての見返りがゼロだ。あんなに頑張ったのに、なにがダメだったんだというんだ。 「そうだね……。練
「結構高いね」 目の前の彼が苦し紛れに言った。 「そうだね。私、結構高いところダメなんだよね」 私はそう答えたが、実際はダメなことはない。高所恐怖症なのに、観覧車に乗ろうと誘うことはしない。そこまでバカじゃない。 なのに、平常心を失って支離滅裂な返答をしてしまった。 でも、今の私の状態は、高いところが怖いんじゃなくて、この空間が怖い。 観覧車のゴンドラという空間は、大抵の人は幸せになる空間のはず。 高いところかつ、密室で景色を楽しむことができる空間で、こんなにも
「結構高いね」 目の前の彼女との会話が続かず、俺は観覧車のゴンドラから見える光景に、ありきたりな感想を言った。 「そうだね。私、結構高いところダメなんだよね」 そう答えた彼女を見ると、どこかそわそわしている様子だった。 言われてみれば、ゴンドラに乗ってからの梅ちゃんの様子はいつもと比べると変だった。どんな時でも、クールで落ち着いている彼女が、今は動揺を隠せていない。 それに女子にしては身長が高い彼女は、外の景色を見ることもなく体を縮ませている。 だけど、観覧車に乗ろ