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「さゆりんごー」 「ふじもりんごー」 20代後半にもなって、彼女とこんな呼び合いをするなんて思ってもいなかった。 彼女の名前の”さゆり”と、彼女の好物りんごを合わせて、あだ名が”さゆりんご”らしい。付き合って一週間で、彼女に「さゆりんごって呼んでね!」なんて言われたら、断れるわけがない。それどころか、俺の名字の”藤森”から、「わたしはふじもりんごって呼ぶからね」と宣言されたら、俺だけあだ名を呼ばずないわけにはいかなかった。 「じゃあ、今ね。目的地着いたから」 「うん。
「桜キレイだねー」 隣で女友達の蘭世が目を潤々とさせながら言った。 桜並木の想像以上の美しさに、感極まって、涙を浮かべているわけじゃないと、僕には分かった。 蘭世は、今日会ったときから、目を赤くしながらマスクをつけていた。 僕も、おそろコーデと言わんばかりに、マスクをつけて、目は赤くなっていたと思う。 この時期の風物詩。 花粉症。 そう、2人とも花粉症を患っている。 目も鼻も、取り外して家に置いたまま外出したいくらいだ。花粉の時期は、目と鼻を外に連れていきた