
I think
僕は考える。
君を連れていきたい、場所のことを。
そこは、何にもしなくても、おなか一杯ご飯が食べられるところ。
そこは、何にもしなくても、布団でぐっすり眠ることのできるところ。
そこは、あったかくて、ふわふわしてて、痛いことも、苦しいこともない。
そこは、とにかく、行ってみなくちゃわからないけれど――素敵なところだ。
それで、君が好きな、蒲公英の花がめいいっぱい咲いてるんだ。
それから、君が絵本でしか知らない薔薇もあるんだ。
そうして、どれだけ花を摘んでも怒られない。
おまけに、ほっぺたがおちそうな甘いお菓子も出るんだ。
それから、お父さんも――お父さんがどんなものか、僕は知らないけれど――いるんだ。
となりにはお母さんもいて、僕のほっぺをぶったりしないし、きみに包丁も突き付けない。
君はいつだって、笑っていなくたっていい。
悲しい時には泣いてもいいし、悔しい時には怒ってもいい。
病気の時には熱を出していいし、おかゆをねだってもいい。
そうして、君が君が苦しかったことや、君にとってのあたりまえを言っても。
ちっとも、みんな、かわいそうだといわないし、そんなのおかしいって言わないんだ。
ただ、頑張ったねって言って、ぎゅうってハグしてくれるし、生まれてきてくれてありがとうってたくさん言ってもらえるんだ。
それからきっと、頭だって撫でてもらえるんだ。
そのあとで、ぎゅってはぐして、大好きって言ってもらえるんだ。
そこじゃ、誰も君に石を投げない。
そこじゃ、誰も君を縛り付けない。
そこじゃ、誰も君を焔であぶらない。
そこじゃ、誰もが、君がきちんと帰ってこれるまでじっと待っててくれるんだ。
もしも迷子になっても、探して、少し怒って、無事でよかったって抱きしめてくれるんだ。
誰も探しに来てくれなかったり、ひたすら罵られたりはしないんだ。
土管の隅っこで、足を抱えて、一人で泣いていなくたっていいんだ。
どんなわがままを言ってもいいんだ。
くさはらの上を歩いてみたいとか。
つめたい川に足を浸してみたいとか。
明日のご飯はカレーがいいとか。
そんなわがままを、いっても怒られないんだ。
いくらでも、好きなだけ歌っていいんだ。
いくらでも、好きなだけ喋ってもいいんだ。
――あんまり夜遅くは、だめかもしれないけど。
でも、もしも間違えても、怒らないで、静かに教えてくれるとこなんだ。
本当に危ない時よりほかは、みんな、怒らないでいてくれるんだ。
そこに行けば、僕ら、幸せになれるんだ。
そうだよ、そこはすてきなとこなんだ。
行ってみなきゃわからないけれど、確かに、素敵なとこなんだ。
少なくとも、ここよりはずっとずっといいところなんだ。
そんなとこに、きみをつれてきたい。
そんなとこに、君を連れていきたかった。
そんなとこが、あれば、よかったのになぁ