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掌編小説009(お題:近距離のペンフレンド)
久しぶりの手紙に驚かれているでしょうか。
思えば十数年前、あなたにせっつかれてようやくメールを覚えてからは、もっぱらそちらでのやりとりが主流となりましたね。
私たちが手紙のやりとりをはじめたのは、奇しくもちょうど、今日のような秋の訪れを感じる肌寒い日のことでした。きっかけはあなただったこと、覚えていますか? 初めてあなたから手紙をもらったあの夜のことを、私は今でも鮮明に覚えています。
あなたの手紙は、まず大きく書かれた挨拶からはじまりました。そして、その日にあった出来事ーーうれしいことも悲しいことも、朝から晩までのことを、事細かに綴ってくれましたね。あなたの綴る文字は筆圧が強く元気いっぱいで、私は便箋の凹凸をなぞりながら、こんなに書かれては返信も一苦労だと笑いながら便箋を引っぱりだしてきたものです。
まずは挨拶。そして「手紙をくれてありがとう」と綴り、あなたが教えてくれたあわただしくも微笑ましい一日への応酬。それらが一段落してからようやく、私の一日について。あなたは私のことをとても知りたがってくれましたから、これも事細かに綴る必要がありました。返信を綴るのはなかなか骨の折れる作業であると同時に、あなたと自分自身の人生を見つめる、充実したひとときでもありました。
時が経つにつれ、二人のあいだに必要な言葉は少なくなり、いつしか手紙はメールという形に変わりましたが、それは長い歳月の中で育ててきた絆が私たちの言葉をより洗練させていった結果だと、私は思っています。……なんて言うのは自惚れでしょうか。
今になってあの頃のように長々と手紙をしたためる気になったのは、なにを隠そう、これがきっと私からあなたへ送る最後の「手紙」になるからです。手紙からはじまった私たちのささやかな交流は、やはり手紙でもって一つの節目を迎えるべきだと、そう、思ったのです。
長いあいだ、仕事で帰りが遅い私のためにたくさんの「おかえり」を綴ってくれた最愛のペンフレンドへ。私もまた、翌朝手紙を読むあなたのためにと長く使いこんできたこの言葉を添えて。
結婚おめでとう。
行ってらっしゃい!
父より