プロとバカと紅一点【創作台本?】
【昼休み・教室】
大田「松山っ、おれ思いついたんだけど」
松山「なに、大田」
(ペンを止める)
大田「お前いっつも漫画描いてて、絵うまいじゃん」
松山「まぁ……17年間勉強よりも勤しんでいるからな」
大田「げぇ。勉強しなくても平均点以上かよ」
松山「赤点取らないから親も止めないし。大田は、やばいよね」
大田「や、おれ文系だから。理系はちょっと……」
松山「俺もクラス同じだから、文系だが」
大田「んん」(咳払い)
松山「誤魔化した」
大田「文系の天才、大田くんは気づきました。絵のうまい松山なら、おれの理想の女子を描けるんじゃないかと!」
松山「ほーう」
大田「なんだよ。ノリ気じゃないなー」
松山「これを見ても同じことを言えるか」
(ページをめくる)
大田「うわ、女子同じ顔じゃん。なにこれ、誰が誰だかわかるのか」
松山「髪型を変えたり、Tシャツの色を変えている」
大田「ああ、うん。なんで」
松山「好きな顔だからだ。かわいいだろ」
大田「まぁそうだな。ふつうに少年漫画のヒロインみたいな、王道系でいいな」
松山「ふ つ う に ?」
大田「え、うん。かわいいですね」
松山「な、だから女子はこの顔以外無理だ」
大田「描き分けくらいできたほうがいいと思うけどなぁ」
松山「俺しか読まないから、いいんだ」
大田「え、ツイッターとか投稿しないのか。せっかくつくってるのにさ、もったいないじゃん」
松山「中学のとき友達に見せたら、ギャグ漫画かと勘違いされたからな。あれ以来、誰にも読ませたことないんだ。硬派な冒険物語だったのに」
大田 ⦅顔が量産型だもんな⦆「硬派な冒険物語ねぇ」
(松山、また書きはじめる)
三原「大田と松山、なにしてんの」
大田「松山の描く女子がみんな同じ顔してるって話」
松山「元は違ったろ。大田が俺に好みの女子を描かせようとしてた」
三原「ふーん。じゃあ男子は? イケメン描いてよ」
大田「三原さんは正直だなー」
松山「似たようなもんだろ。姉だってなんとかっていう俳優にキャーキャーしてた」
大田「あーあの、松山に似てなくて美人なおねーさん!」
松山「俺に似てるほうが美人になるだろ」
三原「松山はナルシストなんだ」
松山「ケバケバさせるより、すっぴんのほうが数倍マシだ。確実に」
三原「やっぱナルシストじゃん。あたし間違ったこと言ってないよ」
大田「そうじゃなくて、松山の照れ隠しだよ、三原さん」
三原「なるほどー。きょうだい、仲良いね。あたしの兄貴もイケメンだったらなぁ。クリス・ヘムズワースみたいな! 毎日ドキドキしちゃうわ」
大田「え、誰」
松山「日本人ですらない」
三原「ね、クリヘム描いてよ」
大田「ヘムヘム?」
松山「模写ってこと」
三原「写真だったら直視できんくらいだから、オリジナリティ出していいよ。どう描いても、イケメンになるでしょ」
松山「参考画像ある」
三原「ん、ほら」
松山「確かに、欧米のイケメンって感じする」
三原「でしょー」
(松山、別のノートに描きはじめる)
松山「なんで三原さんが得意気なの」
三原「だって推しが褒められるとうれしいでしょ」
大田「ヘムヘム……」
松山「三原さんの言う通りだな。ちなみにそこのノート、俺の推しの顔だ」
三原「あー、うん。好きなんだなってのは伝わるよ」
大田「なぁ、ヘムヘムってなんだっけ」
三原「ヘムヘム」
松山「ずっと考えてたんだな」
三原「忍たまの鐘を鳴らす犬じゃない」
大田「あ、そっか。三原さん、ヘムヘムがイケメンだと思ってるの」
三原「いや、そうとは言ってないけど」
大田「ああ犬だもんな」
三原「でもハスキーは、かっこいいと思う」
大田「キリッとしてるイメージあるな」
三原「人よりもね」
大田「それは言いすぎじゃない」
(スマホをいじる)
大田「画像見たら、険しい顔してる」
三原「そこがいいよ。人だとやな奴だけど、犬だとかわいいってなる」
大田「それは言えてる」
松山「できた」
(ペンを止める)
三原「お、どれどれ」
大田「おれにも見せて」(スマホからノートへ)
松山「はじめて外国人描いたから、あんま自信ない、けど」
三原「イケメンはどう足掻いてもイケメンになるね」
松山「足搔くって」
大田「その、外国の人よりさ。ハスキーのほうがうまいの、なんなん」
松山「母さんの持っている漫画にハスキーが出てくるからな。よく読んでたし、動物も、動物モチーフのキャラは子どもの頃から好きだし」
大田「ノート借りるときにラクガキ見るけど、ポケモンよく描いてるもんな。しかも、うまいし」
松山「授業中のほうが、うまいときある」
三原「この絵もらっていい」
松山「ぜひそうしてくれ」
(三原、はさみを取り出して切る)
大田「おー、うれしそうだな松山」
松山「あまり言われたことないからな。大田はいいのか。理想の女子は無理だが、ハスキーなら応えられたぞ」
大田「いやおれ頼んでないし」
松山「ヘムヘムがよかったか」
三原「引っぱられすぎでしょ」
大田「ヘムヘムには悪いけど、いいわ」
三原「松山、ありがと」(ノートを返す)
松山「どういたしまして。大田は」(ノートを受け取る)
三原「こだわるね」
松山「三原さんに応えて、大田に応えないのは不平等だろ」
大田「おれは別にいいけど」
三原「なんかプロだわ」
大田「プロ!」
松山「プロ?」
大田「わかる」
松山「わかるのか、俺より平均点低いのに」
大田「三原さんの前で言うか、それ」
三原「大田の頭が良くないのは、クラス中が知ってるから」
大田「え、もしかしてバカだと思われてる!?」
松山「それに近しい、とは思ってるな」
大田「ひどい」(泣くマネ)
三原「もろいなぁ」
松山「ほれ、ますますハスキーが恋しいだろう」
大田「ハスキー推し、なんなん。いらんわ」
三原「ハスキー……」
松山「しょうがない、ポケモンでどうだろう。自信はある」
三原「プロだね」
大田「サービス精神……。プロだね」
松山「それが?」
大田「松山のプロみに敬意を表してお願いするわ。はじめての御三家の、進化系ゲッコウガで!」
松山「わかった。ケロマツだな」
大田「なんで退化してんだよ」
松山「ちいさい奴が強敵に勝つという構図が好きなんだ。俺が」
大田「いや知らん。リクエストになってねーじゃん」
三原「プロだねー」
大田「三原さん、面倒になってるだろ」
未来の大田 「けっきょく、松山はケロマツを描いておれに渡した。そして松山はプロにはならなかった」