【番外編】 もう1人の天才
僕が2000年代前半に出会ったデュエルマスターズプレイヤーの中で、明らかに秀でた才を持っていると感じた人物が2人いた。
1人はご存知佐々木優太少年ことささぼー。
そしてもう1人の男の名前は空井(そらい)。
別次元の強者だった。
2004年~2005年代の彼と同等の土台で戦えていた者はささぼーを含めても1人もいないだろう。
強さもさながら醸し出す独特なマイペース感と人当たりの良さがそうするのか、
どこか人を惹きつける魅力があった。
野津が地上で唯一敬意を払っていた人物でもある。
青き殺し屋の異名を持つ古参DMプレイヤー・Kブルーが、空井がいつだかの公式大会で珍しく初戦敗退を喫した際に
『空井が一回戦で負けたぁ!?誰に!?!?』
と、彼を負かした人物を会場中探し回ったときの青ざめた顔は今でも僕の脳裏に焼き付いている。
『空井のミストリエスが1ターン生き残ったゲームを拾った人類などいない』
誰かが彼の常人離れしたゲームメイクの強堅さを揶揄して言っていた。
僕がそんな彼と初めて出会ったのはたしかーー。
2004年 5月
アストラル・リーフが殿堂入りした直後の公式大会・スプリングチャレンジバトルが終わった翌々週の土曜日。
僕は中山のカードショップ『バートン』でささぼー、エノモトと卓を囲んでいた。
僕とささぼーがデッキを回し、横からエノモトあーでもないこーでもないと茶々入れをするお決まりのフォーメーションだ。
休日とはいえ公認大会がない日のバートンのデュエルスペースはそれなりに閑散としている。
『どう考えても今の環境の最強はアクアン白黒ガーディアンっぽいな!!なんでスプリングのときこのデッキ思いつかなかったんだろ!?』
ささぼーが店内に響き渡る大声で自身がベスト32で敗退した大会を懺悔する。
『ミキュートにたどり着くのが遅すぎた!!!んっ?』
ささぼーが窓際の席に一人、本を片手に佇んでいる男に対して視線を向けた。
男は体つきはスラっとしており、今どき風の髪型と明るい髪色。
スタイリッシュな白と黒のチェックのジップアップパーカーをTシャツの上に羽織っていた。
高校あるいは大学生くらいだろうか。
『空井くんじゃん!なにしてんのー?』
ささぼーが空井と呼ぶ人物のそばまで駆け寄っていくと
『おお!ささぼーか。』
と読みかけの本をトートバッグにしまった。
『公認大会でようと思ってさ!初めて来たんだけどやけに人少ないねこの店。そろそろ始まる時間なのに。』
『・・空井くん、ここの公認大会は明日だよ!!そのためにわざわざ静岡から来たの!?』
『えっ・・・ウン。各駅停車でな。』
『なにやってんの!!?
とりあえず俺らと遊ぼうぜ空井くん!
エノモト!わた!こっちこいよ!この人とデュエルしてみな。めちゃくちゃプレイングいいから。』
ホーン。と思った。
ささぼーが他人に『プレイングがいい』なんて言及するシーンなど初めて見たからだ。
エノモトが(おれは結構結構)のアイコンタクトをこちらに向けてきたので、僕が空井の正面に着席した。
僕も当時はデュエルマスターズに対する自信は人一倍あった。
ましてや静岡県から鈍行で3時間半もかけて大会も無い日のバートンに来店するなどという空前絶後的プレイングを果たすような人間がこれだけ毎週ささぼーとやりあってる僕より格上なんてことがあるだろうか?
どんなに上手くてもささぼークラスだろう。なら五分くらいの勝負にはなるはずだ・・。
『ワタナベです。よろしくお願いします。』
『初めまして空井です!よろしくね!』
僕が出したデッキはさっきまでささぼーと回していたアクアン白黒ガーディアン。
かなりプレイの練度は高めたつもりだし、リストもこの上ない完成度に満足している。
じゃんけんに勝った空井が1ターン目にチャージしたカードはソルガーラ。
(ミラーか!相手にとって不足なしだ。)
・・・2時間勝てなかった。
ほとんど毎試合、僕がイニシアチブを掴もうとする前のターンに仕組まれたかのようなハイドロハリケーンが飛んでくる。
そして1ターンもたついたところにロストソウル。そのままペースを握られて沈没させられてしまう。
『わた。この人ホントに上手いよ。イリュージョンを見せられてるみたいだ。』
横でずっと観戦していたエノモトが感嘆の声を漏らした。
『言ったでしょ?空井くんはマジで強いよ!』
確かに体験したことのない異質な強さだ。
僕もアクアンガーディアンにハイドロハリケーンは試したことがある。
だが青単色はアクアンで拾えない上に大抵の場合アクアンを出すための色としてマナにいってしまうため手打ちが難しい。ならばトリガーで使えるサーファーの方が強いという結論になった。
だがこの男は時に4ターン目の最強ムーブであるアクアンをマナに放棄してまでハイドロをキープするのだ。
ドローと展開はミストリエスに任せて、こちらがミストへの除去札を吐くことで展開がおろそかになる番に抱えていたハイドロを投下。
一気にテンポを取りきられてしまう。
『まいりました。ささぼーと交代するよ。プレイ見てもいいですか?』
『もちろんいいよー!』
・・・
空井はプレイングもさることながら構築もかなり独善的だった。
彼の使用する山はほとんどが空井の専用機みたいなもので、他の人が使用してもまるで同じように勝率が出ないのだ。
その一部を最後に紹介しようと思う。
おそらく空井が最も公認大会で高い優勝率を挙げたリスト。
盾を殴りつつライブラリーアウトにシフトチェンジしたり、アウトベースの進行から突如エールソニアスが突撃してきたりと千変万化なストラテジーを取れるデッキの性質が彼のプレイにマッチしていたのだろう。
ウェーブストライカー界最強であるサピエントアークとボルバルザーク色の赤はこの類のリストには必須である、という脳味噌を一つ壊した作品。
空井がこのデッキを使用しとある池袋の公認大会の決勝でガン不利対面であるはずの除去コンと対峙した際に、スケルトンバイスを本来の適正ターンである4ターン目に打つ事をせずに盤面を展開。
相手の打ったドローソースの返しである6ターン目に母なる大地経由のジャギラと同時にバイスを使用し一気に5枚ハンデスで相手のハンドを枯らした。
次ターンのキルスティン、次々ターンの呪紋の化身を安着させ勝利した試合は観戦者の中に涙を流した人物もいたと聞く。
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