13. コウボキン、ステント
さて、入院は3月10日だった。十二指腸に4センチ長のがんがあり、腸が狭くなっていた。周囲や全身の転移状況を検査してしまう前に、腸がほぼ閉塞し閉塞部分は6センチを超えた。検査よりも抗がん剤治療優先となった。外科の方も現状では適応外とのこと。
簡単な図にすると腸の絵を書いて6センチ区間の内側にがんが、血管壁のコレステロールプラークのように取り付いている形で説明されるが、体の中はそんなに単純ではない。腸のすぐ外側は間膜や血管で覆われており、隣り合っている臓器もひしめき合っており、幹線の動脈が近く、しかも動脈の分かれ目が多くある。腸の位置や落ち着きどころもあちこちに移動するらしい。周囲の血管やリンパ節にも取り付いているだろうことが容易に想像される。
主治医は、「自宅での生活が過ごせたほうが良いでしょう」と何度か言っていたが、子供もいないので妻の負担を考えると自分ではそれほどこだわりもなかった。それでも常套句としてよく出てくるので、緩和ケア病棟の適応になるのならそちらで良いと伝えていた。各種ルートがつながっている状況で、自宅での生活は想像できなかった。退院を促すシステムがあるのかもしれないなと少し思った。しらんけど。
5月の末にステント留置の案が浮上してきた。元々は、外科手術に邪魔になる為刹那的なステントはしないという方向だったが、ステントしましょうということは、手術は諦めましょうということね。と理解した。そこまでは言及されなかったが、自宅に帰れた方が良いでしょうと何度か言われる。別にアパアトに帰った所で・・・、と思っていたが、黙って「そうですね」と穏やかでいた。
6月6日の内視鏡検査とステント留置の予定を入れた後、熱発が始まった。
身体自体はそれほど苦しくなかったものの、体温が跳ね上がっていた。点滴してもなかなか収まらなかったし、原因がしばらくわからなかった。他科とのカンファも行っていたのだろう検査結果も考慮して、血液中にコウボキンが入ってしまったとの事。
僕も妻も、「コウボキン?」美味しいパンが作れるやつ、とボケようとしたが、先生がノリツッコミしてくれる可能性は全く無いので、言葉を飲み込んだ。
カンジタ菌血症ということで、点滴治療となるが、死滅したところで抗生剤投与を2週間続けないと安心できないらしい。しかも菌が目に集まってきて色々と悪さをするらしいというわけで眼科でのチェックを開始した。前記した各科のリストに眼科が、加わる。血液内科がどこまで関与したかはわからないが、アドバイスくらいはもらっていたかもしれない。
総合病院の利点を存分に発揮している。
でそのコウボキンの流入は、CVポートからではないかとなり、早速、CVポートの抜去を施術される。迅速に対応しないと命に関わることだったようだ。美味しいパンとか言わないで良かった。
6月6日、内視鏡でのステント留置手術を行ったが、それより重要なこととして、鼻から通してあったW-EDチューブの呪縛から開放された!
鼻から十二指腸の奥まで入っていたチューブがなくなった。ずっと盲導犬のように共にあった廃液バッグがなくなった!
点滴はまだあるけれど、このチューブが外れたのは大きい。
なんだか、生きる希望が湧いてきた。