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禁忌地方・凶都

 べべん! べんべ、べん!

 琵琶の弦がしなる。しなる。盲いた奏者のガムシャラなること。

 ここは、狂の都が兵暗凶へいあんきょう。今日もまた二人、どちらか死ぬまで戦うという。

 都の道道では護摩が焚かれ、ばちり、ばちり。木が爆ぜる。

「無銘なれど、我が手中なれば髭切よ。酒呑童子も切り捨ててしんぜよう」

 そう言いたるは、大太刀を振り回しスサノオの顕現が如き筋骨隆々、蓬髪無精髭の山男・猛刃丸。

「カッカッカ。お前のような山猿が振り回したところで、髭を切るどころか、避けられ地面に刺さりて抜けなくなるのが関の山」

 迎え撃つは、打刀を構えし観音菩薩像の如き眉目秀麗にして乱れなき一髻長身の色男・風祭駿之助。

 べべん! べんべ、べん!

 さあ、さあ。お立ち合い。お立ち合い。

 東は屍体を啄むカラス。西は屍焼きし煙が立ち昇る。

 ナンマイダー、ナンマイダー。やけくそに声張り上げし生臭坊主の読経。はて、どこから聞こえるのか。

 ざらり。ざらり。猛刃丸の草鞋が砂利をこする。一方、駿之助は微動だにしない。口元を片方吊り上げ、余裕綽々。余裕綽々。

 我慢の尽きた猛刃丸が大きく一振り。ひらりと躱す駿之助。どうん。空ぶった大太刀が重厚な衝撃音とともに土煙をあげた。

「おお。怖い。恐い。山猿の怪力。しかして、当たらねば、どうということもあるまいよ」

 びゅん。

 ごろん。ごろん、ごろん。はて、はて。何かが転がった。

 猛刃丸は一髻を掴み上げる。そこには麗しき観音像の頭がぷらん、ぷらん。哀れ、駿之助。返す刀のふた太刀目、あっさり首を落とされた。

「一太刀、防いだからと、ペラペラと。都の男はよう喋る」

 燃える護摩に頭を投げ込み、猛刃丸は鼻を鳴らした。

 ぷすり。

 一刻。どしん。猛刃丸のスサノオが如き体躯が崩れ落ちた。屋根瓦には、毒吹き矢の女が一人。

 ここは、狂の都が兵暗凶。隙を見せた者から殺される。

 ああ、ナンマイダー、ナンマイダー。

■■■To Be Continued■■■▶

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