【Outer Wilds考察】骨から見るNomaiの進化
****** 注意 ******
この記事ではNomaiという生物の進化史について好き勝手に妄想しており、Outer Wilds本編のネタバレをそれなりに含みます。
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妄想のはじまり
本編をクリアし無事Outer Wildsゾンビとなった筆者は、SpeedrunのMarshmallow%動画や美術資料を貪るように漁る日々を送っていた。
そしてNomaiの骨格デザイン図を見て感動して爆発四散した。
す、すごい…!!!特にこの足の骨……!!!!!!!!!
……ウッ!!!!!
その瞬間、爆発四散した脳に雷めいた電流が走り、Nomaiという生物の由来、辿った進化の歴史、木の炉辺太陽系での生活が走馬灯のように駆け巡った……私は全てを理解した……生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え……。
本記事では、なぜ骨だけを根拠にNomaiの存在しない進化史が突如脳内に溢れ出したのか、その根拠をできるだけ詳細に記載していきたい。
前提
Nomaiは地球出身の生物という前提をおきたい。
Nomaiの骨格が明らかに地球哺乳類の特徴を持っているからだ。
そもそも骨格図のキャプションにデザインの基盤がナマケモノ、シカ、ヤギにあると説明されているのはさておき、具体的な哺乳類性としては全体的な形状の類似の他、1本の頰骨弓、不揃いな歯並び、腹回りの肋骨の欠如、膝蓋骨の存在あたりが挙げられる。
Nomaiの第3の眼はどう説明すんだよという話なのだが、実は地球脊椎動物にも第3の眼がある。
実はトカゲ類、一部の魚類、基盤的な四肢動物(Walker & Liem, 1994)などには頭頂眼という感覚器官があり、これはちゃんと光を感知することができる (Foà et al., 2009)。当然、頭蓋の頭頂眼の部分には穴も空いている。
Nomaiの第3の眼が頭頂眼と相同かどうかは分からないが、Outer Wilds世界の進化のスピードは我々の1000倍ぐらい速いし(*)、なんかこういい感じに基盤的四肢動物から量子的経過(?)を辿って進化したとすれば哺乳類の眼が増えてもいいんじゃないか…な?
(*) 木の炉辺に棲む魚的な生き物とNomaiが出会ってからたった28万年でHearthianは地上棲二足歩行生物に進化し宇宙進出までしている。脊索動物の誕生から我々ホモ・サピエンスが出現するまでざっくり5億年と考えれば28万年はまばたきの速さ。やはりなんらかの量子的介入があったのでは?
Nomaiの脚の進化史
例のNomai骨格図の脚に注目してほしい。
ここでは他の地球哺乳類と比較して並べてみよう。
以下、太腿から下の全体を「脚」、ヒトで言えば靴を履く部分のことを「足」と書く。
ヒトは大腿骨1本、下腿骨2本、たくさんの丸い足根骨でできた太めの脚をしている。ヤギとNomaiは足がめちゃくちゃ長く、つま先で歩いている。ヤギは大腿骨1本、下腿骨1本、長い足根骨でできた棒のような脚をしている。
Nomaiの脚のプロポーションはかなり特殊化していて、大腿骨が1本、下腿骨が1本、長い足根骨が2本発達した特徴的な足、の3パーツで構成されている。
骨の本数はめちゃくちゃ大事である。
基本的に骨が2本あると、ねじる運動が簡単にできるのだ。ざっくり言えば器用になるということである。つまり、Nomaiは「脚を伸ばしたまま足の裏を天井に向ける」という運動ができる可能性がある。
では全ての骨をちょっと細くして2本ずつにしたらめちゃくちゃ可動域が上がるのでは?スゴイ!と思うのだが、実際のところはそう旨くない。骨は重いし細いとすぐ折れるから、ぐねぐね歩いているところを外敵に襲われてバキバキにされて死ぬだろう。
逆に骨が1本しかなければ可動域が減るのだが、それがまさにシカやヤギに見られる、1本ずつの骨で構成された「走るために特化した脚」である(Panafieu, 2011)。高速で走りたい哺乳類にとっては、狙った地面を確実に力強く蹴ることのできる可動域の狭い丈夫な構造が向いているのだ。
では下腿が1本の骨になっているNomaiもめちゃくちゃ速く走れるのか?というと多分そうでもない。シカやヤギの足や指の骨が太腿や下腿と同じく1本で細く、地面からの衝撃を効率よく推進力にできるのに対して、Nomaiの足は指が平べったく広がっていて、いかにもぺたぺた歩きそうだ。
整合的なNomaiの進化の順番を考えると、
ヤギのような四足歩行動物(基盤的Nomai) -> 二足歩行の獲得(二足歩行Nomai) -> 足根骨が変形し平べったい指に変化(我々がよく知る木の炉辺太陽系のNomai)
という感じがする。
それを踏まえた基盤的Nomaiの想像図を作ってみた。
前肢がナマケモノ、後肢がヤギの動物の生息環境を考えたら、「足場の狭い岩場に背の低い木が生えていて」「祖先はジャンプで岩を飛び移ったり腕で木から木に渡ったりする」というシチュエーションになってしまった。
とにかくその後、時が経つにつれ二足歩行を獲得し、脳が重くなり(*)、木の炉辺太陽系に来たNomaiの基となる思考文化を持つに至ったのだろう。
(*) この過程で首の筋肉系にも重い脳を支えるための何らかの変化が起きたに違いない。NomaiのS字の頸椎では何らかの軟組織の支持構造がないと負荷でブチ折れそうだからだ。ナマケモノの特殊化(Arnold et al., 2017)にからめて頭周りの筋骨格系の力学的戦略を妄想したら絶対に面白いのだが、今回は省略します。
さて、二足歩行Nomaiから木の炉辺太陽系Nomaiに至るまでに獲得したであろう、例の特徴的な足の形状には何かの役割があったのだろうか。
Nomaiの足の特徴をまとめると、以下の2点になる。
長く発達した2本の足根骨 (*ヒトの前腕に似ている)
生える角度の違う3本の指 (*鳥類の足、ヒトの手に似ている)
つまりNomaiの足は可動域が広く物を自由に掴める機能があり、脚全体を見るとヒトの腕に関節が1つ増えたような進化をしている。
後脚というのは基本的には移動のための運動器官であり、大抵の場合に求められる機能は体重の負荷に耐えられることだ。
それがまるで3本目、4本目の腕のような進化をした…?
つまり移動の負荷を考えなくてよくて、器用に動くことが適応的な生息環境にいて……
うーん……?それって………
宇宙文明……ってコト!?
Nomaiの足の高い可動性は、無重量状態の宇宙船内で壁の出っ張りを足で掴んで身体を固定したり、自由に方向転換を行ったりするのにぴったりではないか!
Outer Wilds世界の著しい進化速度によって、地上棲だったNomaiは宇宙船環境下という特殊極まる生息環境へも安々と適応していたのだ!
逆に重力下で身体を支えるのが苦手な脚になったから、木の炉辺太陽系Nomaiの靴は妙に硬くてゴツくて丈夫そうなのかもしれない。
もしNomaiたちが28万年後の現在まで木の炉辺太陽系で暮らしていたならどんな姿になっていただろうか。木の炉辺太陽系の惑星はそれぞれ過酷極まる全く違った環境下にあるし、もしかしたら各惑星で地理的隔離と種分化が起き、多種多様なNomai類が出現していたかもしれない。
つくづく彗星の到来が悔やまれる。
今後の展望
本記事では図らずも宇宙という特殊な環境下でNomaiが地球史上類を見ない進化をした可能性を指摘できた。
ただし、根拠が1枚の骨格図だけというのはあまりにおぼつかない話だ。普通こういう進化史を推定する場合は化石を時系列的に並べたり、現代に生きている子孫をよく観察して証拠を集めていくものである。特に今生きている動物であれば、実際の運動の様子、筋肉の構造、胚発生の様子などが分かり、得られる情報量が爆裂に増える。
というわけで、今後Outer Wildsの主人公君には、22分間でCTスキャン装置を作りSolanumちゃんをスキャンして、Nomaiの筋骨格系の情報を我々に提供してほしい。
それから、今回の話ではDLCに出てくる彼らを無視してしまっており、科学的にあまり誠実な態度をとっていない。これは偏に筆者のDLCプレイ進捗が乏しいからであり、反省すべき点である。今後のDLCプレイにより新たな事実が浮かび上がる可能性もあり、喫緊の課題といえる。
言うまでもないですが、本記事は全編ただの妄想にすぎないので、一笑に付してくれれば幸いです。
[ 追記 ]2022-06-18
参考文献
Jean-Baptiste de Panafieu (2011). 骨から見る生物の進化 河出書房新社
Walker, W. F., & Liem, K. F. (1994). Functional anatomy of the vertebrates an evolutionary perspective.
Foà, A., Basaglia, F., Beltrami, G., Carnacina, M., Moretto, E., & Bertolucci, C. (2009). Orientation of lizards in a Morris water-maze: roles of the sun compass and the parietal eye. Journal of Experimental Biology, 212(18), 2918-2924.
Arnold, P., Esteve-Altava, B., & Fischer, M. S. (2017). Musculoskeletal networks reveal topological disparity in mammalian neck evolution. BMC evolutionary biology, 17(1), 1-18.