「仕事辞めたらヤリス買ってあげる」そんな旨い話がうちにはある。
「仕事を辞めようと思う。というか辞める」
そう夫に宣言したのは、ほんの1か月前だったと思う。
昨年下半期から続く私の体調不良に夫の仕事でのやるせない出来事が重なり続け、たった二人の笹煮家だが「いろいろ上手くいかない感」がとぐろを巻いていた。
二人きりだからこそ、お互いの影響がもろに出てしまうというのはあるかもしれない。
先に退職という割と大き目な現状打破を宣言したのは私だ。
いや、「女だ」と言おう。
女は動いた。
そして男はお風呂を壊した。
(゜レ゜)
マジか・・・と思った。
会社での飲み会から帰宅した夫の様子に、普段とちょっと違う酔い方だなぁ~とは思っていたが、別段気にすることなく「はよ、風呂に入りなさい」と入浴を促した数分後。
ドン!ドン!!と今までにない異音が轟き、築30年の我が賃貸マンションの浴槽は男の蹴りによりヒビが入ったのである。
男の名誉のために言っておくが、彼は普段とてもおだやかで優しい夫だ。
知り合って約3年、こんなことは初めてだった。
さらに男は壁に自らの頭を打ち付け始めたのだ。
女は戦慄した。
「これマズイやつやん・・・」
一刻も早く、夫をストレスから離さなければ手遅れになる。
手遅れ=うつ病
私は母をうつ病で亡くしていることから、何としてもうつ病にだけはしていけないと焦っていたのだろう。
死んだ魚のような眼をしながら、「辛い」といいつつ「明日は休めない」という夫に最上級の処方箋をぶちかました。
「仕事辞めるならヤリス買ってあげるよ」
ちなみにヤリスとはトヨタの新型車「yaris」。
https://toyota.jp/new-yaris/
車好きな夫が発表当時から欲しい欲しい言っていたが、我が家の経済状況では土台無理な話として流していた車である。
「今、社長に電話して辞めるって言ったらヤリス買ってあげる」
「二人で1年くらい無職やろうよ!絶対楽しいから」
と。
私はハイになっていたのだろうか。
夫を救わなければという状況に若干おかしくなっていたことは認める。
が、冷静になった今でもあの時の発言は本心だったと言えるし、間違ってはいなかったと思う。
ただ一つ。一つだけ心が軋むことがあるとすれば、あの時私は自分の提案の現実性を語るために、これまでにひた隠しにしていた独身時代の貯金額を夫に話したのである。
「あなたには言っていないけれど、実は●●●円貯金ある。だからヤリスは買えるし、二人で働かなくてもしばらくは全然大丈夫!」
ちなみに何千万という大金ではない。むしろこの年齢では平均くらいだが、結婚するまで貯金の習性がなかった夫にはちょっと驚きの金額に思えただろう。
それを聞いた男の目には人間っぽい光が戻った。
2月25日。
無職1日目の今日。
これまでは私が先に家を出ていたが、今日からは出勤する夫を見送ることになる。
あれからたいして時間は経っていないが、今のところ「辞める」とは言ってこない。なので仕事を辞めたのは私一人だし、ヤリスは買っていない。
変わったことと言ったら、夫にほんの少し今とは別の未来を想像する発言が出てきたことと、「ヤリスを買う」という話が頭の「会社を辞めたら」が抜けてたまに会話にあがるようになった。
もちろん以前より現実性を持った笑い話として。
今回の一件で何が言いたかったのかと言うと、ありきたりだけど「貯金の大切さ」と「お金は人のために使いましょう」ということになるのだろうか。もしくは「冬に風呂壊す奴は死刑」。
ヒビが入って使えなくなった浴槽⤴
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