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漱石の寿命49年

漱石が生まれたのは1867年2月9日の凍てつくような朝方であった。亡くなったのは1916年12月9日であった。享年49歳。

現代から見れば早逝の人である。今や、人生100年時代と吹聴されているから、多くの人は長生きできる時代に幸運を感じているかもしれない。が、明日の命は誰にも分からない。漱石もまた、「明日の命は分からない」と思って、『明暗』を書いていただろう。

漱石の親友・正岡子規もまた、「只今現在」の充実だけを考えて生きた。今の充実を優先しないで、ただ長生きを目指したところで、その長生きを保障する神はいない。

漱石は言う。
「幸福は月並みでない形でやってくる。」

ここで言う月並みとは、
お金がある。地位がある。名誉がある。財産があるなどである。

が、それがあることがほんとうの幸福であると言えるだろうか。漱石は疑問を呈している。

きょう生きていることに感謝できるか。窓を開けて梅の蕾がほころび、微かな香りが漂っていることに気づけるか。

本を読んでいて、この文章と出会ったのは偶然ではない不思議を感じることができるか。

こうした月並みでない感じ方ができた時、幸せは存在するのだ、と漱石は言っている。

漱石の早逝をもって惜しい、早過ぎる、と思う方が多いだろう。果たしてそうだろうか。

きょうの充実の積み重ねから言えば、漱石の充実度は百年以上に匹敵するのではないか。なぜなら、漱石文体は「週刊文春」にも「週刊新潮」にも息づいているからだ。

物理的な百年という時間に誤魔化されてはならない。刹那刹那、一瞬一瞬に感動があるか。ないか。これが人生の主題であるかもしれないのだから。


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フンボルト
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