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初めに文があった。幼児の「ワンワン」は文。

「ワンワン」とつぶやいている幼児を見て、にっこりする。

言葉を覚えたての1歳代の子が、「ワンワン」と言った時、それは単語を覚えたのではない。この「ワンワン」を一語文と呼ぶ。単語という言葉は、文という伝達単位を分けて得られた文法用語である。単語、文節、助詞、形容詞、助動詞なども、文を分けて得られた分類である。先に文があった。

幼児は、文法など知らない。が、「ワンワン」と呟いて母親に何かを伝えようとしている。母親は、「ワンワンね。ワンワン、かわいいね。」と返している。再び、幼児は「ワンワン」と呟く。幼児の「ワンワン」の発語の深層構造には、「ワンワン、いるよ」の「いるよ」が隠れている。もちろん「いるよ」以外かもしれない。

「ワンワン、こわい。」
「ワンワン、かわいい。」
「ワンワン、すき。」

上の3つ以外かもしれない。いずれにしろ、文法的にいう陳述部分は省かれている。

陳述部分は隠れ見えない。見えないけれどちゃんと存在する。それを最も身近に感じているのが母親である。

母親は、「ワンワン」と呟く我が子に、「ワンワン、かわいいね。」と返す。それは、母親の思いでもあるが、わが子の「ワンワン」の奥に隠れている意思を推測して言い当てている営みでもある。

一語文とは、一語のあとに見えない陳述が予想できる文のことである。

この幼児は、やがて「ワンワン」だけの発語から、「ワンワン、かわいい」の二語文が話せるようになる。

これが小学校入門期になると、「犬はかわいいです。」
と改まった言い方ができるようになる。

思考の単位は文であることを一語文を話す幼児が教えてくれる。繰り返しになるが、言葉を覚え始めた幼児の「ワンワン」は、語ではなく文なのだ。

初めに文があった。語ではない。



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フンボルト
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