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ミルク飲み人形のお話
K子さんは、ガーデニング花友の一人である。晩秋のある日、お庭を見せてもらう。薔薇のピンクの小花3輪返り咲いている。薔薇も冬支度なのか、葉を黄色に染め、おちはじめていた。
「上がりなさいよ。」
お言葉に甘えて、4畳半の応接室兼リビングに上がる。茶棚の上に品よく座っている人形を見つける。
「素敵な人形ですね。フランス人形ですか。」
K子さんは、
「ミルク飲み人形と言うのよ。」
と教えてくれた。
それを聞いた瞬間、ままごと遊びの光景を思い出した。
それは麗らかな春であった。隣家のあっこちゃんは、畳ゴザを2枚敷いて、ままごとの用品を並べ始めた。台所用品の数々、いくつかの人形、小さなお家などが置いてある。
世話好きなあっこちゃんは、ミルク飲み人形の髪をさすりながら、
「ミルクが欲しいの。そうなの。少し待ってね。」
と語りかけながら、ミルク飲み人形付属のミルク瓶に水をいれて、人形の口から飲ませるのだった。
しばらくすると、
「おしっこしたの。少し待ってね。おしめを替えますからね。」
と言って、今度は服を脱がせて、おむつを取り替えるのだった。
同様のことをしたか、K子さんに尋ねた。昭和のある期間、ミルク飲み人形は女の子の心を虜にしていたようだ。
少年の私が見たミルク飲み人形は、キューピーのような人形だった。が、K子さんが茶棚の上に飾っている人形は高さ38センチほどの大型で豪華な装いだった。
「この人形は、池袋のデパートで父に買ってもらったものです。当時15,000円ほどした記憶があります。これだけ豪華なミルク飲み人形は数少なかったと思います。」
Kさんの庭を後にしてから、自宅に帰って、「ミルク飲み人形」で検索をしてみた。
「1954年、日本橋の百貨店でミルク飲み人形を買い求めるお客さんが、開店前から長蛇の列をつくるほどの人気商品だった。」
とある。
令和時代に入って、女の子をときめかせているものは何だろう。
そう考えて、まったく思いつかなかった。昭和は遠い昔になってしまったようだ。硝子戸の隙間から入ってくる秋風が寂しかった。
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