熱狂のライブハウス
「好きなバンドがライブするから、チケット取ったんだ」
「名前は?」
女の好きなバンドはすでに解散していた。
新しく好きになったバンドの話は、聞いたことがない。
「名前は知らない」
「なんだよ、それ」
男は眉をひそめた。
「でも、すごいの」
女は、目を輝かせた。
顔と声のいいボーカルとベース、ユニークなドラム、少し癖の強いギター。シルエットだけで、そのバンドとわかるの、と語った。
女の語ったバンドは、解散したバンドとそっくりだった。再結成はありえない。なぜならそのバンドは、人気絶頂の最中、ボーカルがドラッグ中毒で死んだのだ。コピーバンドでも出てきたのだろうか。
会場は、解散したバンドが売れる前に、毎週ライブをしていたライブハウスだった。
そして、当日。
会場は熱狂に包まれた。
ステージ上に現れたバンドのシルエットは、解散したバンドそのものだった。
スポットライトが当たった瞬間、男は目を疑った。
ステージに人はいない。
かつての彼らが残した残像が、そこにいた。
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今週も、たらはかにさんの#毎週ショートショートnote に参加しています。
お題は#バンドを組む残像 でした!
めっちゃムズい。