11月20日に思い出したのは、息子たちが小さい時のこと。
朝、8時。
の、少し前。私はスマートフォンとにらめっこをしていた。小児科の予約を取るためだ。
先週末から、小学5年生の次男の体調が悪い。微熱が下がらず、風邪症状もある。月曜日に病院に行き、薬をもらった。しかし、症状が改善せず、小児科再びである。こんな時に、ザ・リターンズはいらない。小児科はノーリターンがベストだけど、そう自分の思惑どおりにうまくいくはずもない。
私は握りしめたスマートフォンに入力可能なところまで入力して、8時になったらすぐポチった。
さながらコンサートのチケット争奪戦だ。今日は一桁台の座席を獲得することができて、私は大興奮だった。アリーナゲット!イエーイ!
それにしてもコロナ前は、ネット予約などなく、小児科で二時間待ちもザラだった。「呼ばれた時にいなかったら、最後に回される」というルールだったので、その場から離れるわけにはいない。ゴホゴホ、ゼーゼー、ずるずる、オエー、という効果音が鳴り響く不健康になれる森を彷徨い、木陰を見つけてじっと名前が呼ばれるのを、小さくなって待つしかなかった。
それが今は、呼ばれる直前に行けばいい!
なんとありがたいことか!
今回は、月曜日に処方してもらった薬とは別に、新しい薬を処方してもらい、様子を見ましょうとのことだった。
待合室では、小さな子どもがお母さんの膝に座り、絵本を読んでいた。
もちろん文字は読めないので、読んでもらっているが正しいかもしれない。
その子どもは「これ、なーに?」と指差しながら、絵本に描かれた動物の名前を教えてもらっている。
私はすごく懐かしい気持ちになった。
こんな時期もあったなぁ、と。
「これなぁに?」と聞かれれば、すぐに名前を教えて、息子たちは教えてもらった名前を反復する。ティラノサウルスにアンパンマン、ライオンにフォークリフト。舌足らずでも、一所懸命に名前を繰り返すその仕草が、何よりも面白くて愛おしかった。
それが今や、横を見ると、次男は携帯でスマホゲームをしている。待合室で読み放題の絵本を開く素振りもない。
「順番まだ?結構、時間かかるね」
気だるそうにゲームをしながら、次男は私の膝に頭を乗せてきた。
それはそれで、かわいいな、と思う。
膝枕をさせてもらうなんてことは、もう少しすればなくなるのかもしれない。ただ、「これなぁに?」って聞いてもらうことは、もうないんだな、と思うと寂しくなった。
でも質問は、毎日されている。寂しくなんてないかもしれない。彼らは私に必ず聞くのだ。
今日の晩ごはん、なぁに?