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10月31日に捨てていく思考

イヤホンがない。多分、ダイニングテーブルの上にある。積み上げられた本の下敷きになっているだろう。歩いている時は、大抵イヤホンをつけているから、なんだか寂しい。それに耳が余計に音を拾う。目も見るもの見るものを拾ってくる。頭の中は、余計なことばかりを考える。それが面倒だから、イヤホンをつけているのに。今日は、イヤホンがない。

寄り道した商業ビルで、本のイベントが行われていた。素敵な本がたくさんあった。気になった表紙の本を手に取り、ぺらっとめくる。一行目を読む。あ、と息が止まる。一行目からやばい。重い重い重い。この一行目を生み出すのに、どれほどまでの言葉を飲み込んできたのだろうか。私は本を閉じて、別の本を開く。やはり重い。商業出版をしたいなんて、軽々しく口にした自分が情けなくなる。自分の言葉の軽さと一行目の重さに眩暈がする。

私の言葉なんて、出店の大してうまくもない焼きそばを食べてたら、突然雨に降られて、即席でできた水たまりに落ちた片方の割り箸くらいに軽い。雨宿りのために駆け出した誰かに踏まれて、翌日の片付けの時に、舌打ちされながらゴミ袋に放り投げられるぐらいに、価値がない。

信号待ちをしてたら、横断歩道の向こう側に、布きれのオバケみたいのがいた。信号を渡って近寄ってみたら、ホームレスっぽいおばあさんだった。大量の荷物の上に、何か食べ物をのせて、むしゃむしゃ食べていた。何を食べてるのかが気になったので、覗きこもうとしたけど、見えなくてやめた。あのおばあさんは、何を食べてたんだろう。

目の前に関取のげんこつくらいの大きさの、何を入れるのかもわからないFENDIのバックを持ってる女の人が歩いてた。何を入れるんだろうな、とじっとみていたら、隣の男の人と仲良さそうに話すのが見えた。後ろ姿の印象より、女の人はずっと落ち着いた年齢に見えた。隣の男の人は、まだ二十歳前後に見えた。親子かなと思ったけど、女の人が男の人の腕にさりげなく触れた距離感が、どうも親子のそれには見えなかった。あのバックには何が入ってたんだろう。

「お菓子、大丈夫ですか?」

派手な服を着た、派手な髪色の人たちが、派手なパッケージのお菓子を配っていた。ちらりと目をやると、オバケみたいな絵が書いてあった。ハロウィンだから配ってるのかな、と思った。派手な人たちが街中で、中身のわからないお菓子を配ってても、今の世の中、もらいにくい。怪しい食べ物だったらイヤだし。私は貰わなかったけど、あのお菓子は、なんのお菓子だったんだろう。

信号を渡ったら、ビルの工事をしていた。
クレーンが何かを運んでいる。上を見上げたら、薄い灰色の雲が一面に広がっていた。


明日は、雨らしい。
生きるって、なんだろう。


ああ、お腹がいっぱい。
カキフライ5個は、食べ過ぎだな。




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