自動車板金塗装の現状と今後の在り方
はじめに
私は、自動車整備学校に2年通い自動車整備士2級のガソリン、ジーゼルの二つの資格を取得後、更に1年通い車体整備士の資格を取得し、以降約7年ほど自動車板金塗装で塗装作業者として仕事をさせていただきました。
月200台以上の処理台数のマンモス工場で経験した7年間の知識と経験から現在販売されている車の現状と、今後の業界の変化、又は個人経営をする上で生き残るにはどういう特色が求められるか等をお話していきます。
またこの記事には画像等は一切使用せず文章のみとなっておりますのでご了承ください。
目次
1 現代の車の特徴
2 修理依頼時に部分修理ができなくなった理由
3 高騰し続ける技術と材料費
4 育てられない現場の現状
5 これからの板金塗装の在り方と個人店の需要
本文
1 現代の車の特徴
2000~2020年の20年で販売されている自動車本体の構造の変化というものは技術の発展により大きく変化してきました。
内装、機能面の変化は著しく分かりやすいのですが、では外装の変化はあると思いますか?
答えはYESです。
一番の変化は使用する部材の変化で主に軽量化の為により薄くて硬さを維持した超高張力鋼板を積極的に使用するようになりました。
超高張力鋼板は合金成分の添加、組織の制御などを行って、一般構造用鋼材よりも強度を向上させた鋼材のことです。
鋼板だけでなく、バンパーやミラーカバー等で使われていたプラスチック部品がフロントフェンダーやリアフェンダー、リアゲート等にも使用されるケースも増えておりプラスチック部材の使用目的は、主にコストカットと軽量化の両方を掛け合わせております。
次に塗膜の変化もあります。
マツダのソウルレッドプレミアムメタリック(キャンディー塗装)、マシーングレーメタリック(メッキ調塗装)を筆頭に高級車やカスタムカーでしか実装されていなかった、特殊塗装と呼ばれる技術が大衆車にも取り入れられるようになりました。
塗膜の表面に塗られているクリア塗装にも大きな変化がありました。クリアにもより軽く、コストダウンを図る為により薄く硬い塗料が使われることが多くなりました。
また、一部車種で取り入れられる対擦り傷クリア等クリア塗装にも他社との差別化を図る車まで登場しました。
コーティングに関しましても、ディーラーではワックスはほぼ使用しなくなり、メーカーからも必ずといっていいほどコーティングを進めるようになりました。
このように機能面の変化に囚わがちで、外装面の進化を感じにくい昨今の自動車ですが、外装面でも大きな進化を遂げています。
2 修理依頼時に部分修理が難しくなった理由
先程までで外装面の変化を書かせていただきました。
それらの変化を踏まえて部分修理が難しくなった理由を鋼板と塗装二つの観点からお話させていただきます。
まず一つめの鋼板の変化は、超高張力鋼板は添加物や熱処理により高い強度を得ることに成功した素材です。
熱処理をすることにより分子構造を変化させたわけですからまた熱を加えることにより性質は変化し、本来の強度は失われることになります。
簡単に言うとある一定以上の熱を加えると鉄板が伸びてしまいグニャグニャになってしまうということです。
ですから、昔ながらの板金で使われる熱を加えて急冷することで鋼板を絞り、強度を維持するという作業が、超高張力鋼板では高度な技術と機材が必要になり、今までの時間と料金では出来ないため交換のほうがコスト的にも安いという判断になっています。
また、従来の鋼板より修復可能な損傷の程度が、かなり制限された状態になっているのが現状です。
同じように塗装にも大きな変化があります。
自動車の補修塗装の際、塗料のお話をする上でよく勘違いをされている人がいるのですが、大前提として自動車メーカーは塗料を販売していなということ。
つまり、修理業者は自動車メーカーから塗料を買っているのではなく、塗料メーカーから購入して混ぜ合わせて調色したものを使用して塗装しているということです。
調色では完全に修理車両と色を合わせることは困難で、塗装面全てに色を塗るのではなく修理箇所から修理が必要ない場所に塗料を散らすことで補修後の色の差を極力わからなくするボカシ塗装という作業を行います。
最初にお話しました、特殊塗装といわれる方法となると部分修理、つまり狭い範囲での補修はさらに困難になります。
塗装方法をおおまかに分類すると。
ソリッド塗装(単色) 2コートパール塗装 2コートメタリック塗装 3コートパール塗装 3コートキャンディー塗装 メッキ調塗装(3コート)
この他にも様々な塗装方法があり、塗色にもよりますが、上記の後述に行くほどボカシ塗装に必要な面積は大きくなります。
2コートというのはベースとなる色とクリア塗装の2層の塗装をしているので2コート塗装という呼び方をしており、3コートパールの場合ベースカラーにパールカラーその上にクリア塗装と3層からなる塗膜と思って頂ければわかりやすいかと思います。
また、ボカシ塗装はより広い面積でグラデーションをかけるほど色の違いは分かりにくくなります。
例えば幅1メートル程の運転席ドアの真ん中に15センチの傷と少しの凹みがあるとします。
これを交換せずにパテやサフ等で最低限の作業範囲にしたとしても、30センチは色を塗らなければいけない面積ができます。
ここで色を塗るとその1.5倍の範囲の50センチ近く色がついてしまいます。
1メートルとして半分の50センチは色は止まっていて残り50センチの範囲で色の差をごまかす必要が出てきます。
ソリッドや2コートの塗装でしたら調色の精度次第では色の差をごまかすこともできますが、3コートパールやキャンディー塗装となるとさらに広い範囲で塗装する必要がでてきます。
これによりボカシ塗装を行う為の面積が足りなくなり、運転席のドアだけでなく前後の部品にもボカシ塗装をする必要となる可能性が出てきます。
このような事情で仕上がりの質を安定させるためにはドア1枚を塗装して前後の部品一面をボカシ塗装の為に使う。
このように鋼板の材質変化と、塗装の変化から部分修理ではなく部品単位での修理が多くなった大きな原因と言えます。
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