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ここで飲むしあわせ~飲み友達の2人が繰り広げる「飲み漫才」


○登場人物杯(さかずき)くん:晩酌のビールが生きがい。愛すべきおまぬけ男子。
         
能美(のみ)くん:炭火での一人焼肉が趣味。舌鋒鋭い大酒飲み。     


2人「かんぱーい!」
杯「今日はさ、『ここで飲むしあわせ』というテーマを肴にして飲もうか」

能美「やっぱり飲む場所やシチュエーションって大事だよね。同じ酒とつまみでも、『どこで飲むか』で全然違ってくる」

杯「うん、家で一人、コンビニで買ってきた缶ビールを背中丸めて飲んでても少しわびしいよね」(背中丸める)

能美「そうそう」

杯「ね、同じ缶ビールでもさ、背筋伸ばして飲むと全然違うよね」(背筋伸ばす)

能美「いや、缶ビールの味変わんないだろ。背中関係ないよ。『どこで飲むか』の話だよ」

杯「そうそう、同じ缶ビールでもさ、やっぱりコンビニで買うのとスーパーで買うのとでは、ひと味違うよね」

能美「いや、変わんないだろ、それ」

杯「やっぱスーパーでもなく、酒屋さんで買いたいよね」

能美「いやいや」

杯「それよりネットで買うと配達してくれるからその方がいいかな、いや、でもコンビニのお手軽さは本当にありがたいよね」

能美「いや、『どこで買うか』の話になってるよ。そうじゃなくて、同じ缶ビールでも、飲む場所が違えば美味しさも違ってくるよ、っていう話をして盛り上がりたいんだよ」

杯「たしかに『どこで飲むか』は重要だよね」

能美「うん」

杯「家で一人缶ビール飲むのと、コンビニのイートインコーナーで飲むのとでは全然違う」

能美「何かとコンビニ出てくるな。てか、コンビニで飲むなよ」

杯「やっぱりどこか後ろめたさがあって、レジ袋で缶を隠しちゃったりしてね」

能美「隠してもそれが酒であることはバレバレではあるけども。たまに電車でもいるよな」

杯「いるいる。袋で缶のパッケージを覆うようにしていたら間違いなくそれは酒だよね。そうなんだけど隠さずにはいられない。それが、人間っていう生き物の悲しい性なんだよ」

能美「いや、人間全般のこととしてまとめるんじゃないよ。それやってるのはごく一部の人間ね」

杯「いやむしろ人間であることをやめてしまった獣だよね」

能美「ちょっと言い過ぎだと思うけど」

杯「そういう奴はだいたい背中丸めて飲んでるから」

能美「背中どうでもいいよ」

杯「移動中であれ何であれとにかくアルコールを摂取したいという欲望を抑えきれないわけなの。そこにはもう情緒もつまみも存在しない。あるのは背徳感とロング缶のみ」

能美「うまい感じでまとめてんじゃないよ。ますます話が本筋から離れてってるわ」

杯「ごめんごめん、コンビニ飲みの話から離れてたね」

能美「コンビニもういいよ。じゃ、俺の話していいかな?」

杯「どうぞ」

能美「俺はさ、野外で飲むのが好きなのよ。例えば、夜に一人家で飲むにしても、ベランダにイスとテーブル出して飲むと全然気持ちが違うんだよ。星も見えたりしてさ」

杯「あ~いいね、外飲み。僕も、敷物持ってピクニック飲みによく出掛けるよ」

能美「いいね、弁当持って」

杯「ピクニック飲みのいいところはね、まず電車で出掛けるんだけど、その電車に乗り込む際にプシュッと開けるわけよ」

能美「それ、ピクニック飲みじゃなくただの電車飲みじゃん」

杯「大丈夫。もちろんキオスクのレジ袋で缶を隠しているから」

能美「いや、隠せてないだろ。それ、さっき悲しい性だとか言ってた行為だろ」

杯「やっぱりさ、休日の午前中の電車だから、子どもとか家族連れとかもいて気を遣うわけよ」

能美「全然気ぃ遣ってないよ。遠慮しろよ、飲むの」

杯「いや、移動中であれ何であれとにかくアルコールを摂取したいという欲望を抑えきれないわけなの」

能美「それこそ人間であることをやめてしまった獣呼ばわりしてたでしょ」

杯「そう。その背徳感がもたらす酔い具合が別次元の快楽なんだよ」

能美「変態の域だな。もはやピクニックより電車で飲むのがメインになってない?」

杯「いやいや、ピクニック飲みのいいところもちゃんとありますよ」

能美「やっぱり大空の下で飲んで、食べて、開放感があっていいよね」

杯「それよりも、ピクニック帰りの電車でも飲めるっていうことだよね」

能美「おい!開放感より背徳感のが上かよ。もはやピクニック行く必要なくね?」

杯「まあまあ。他にもさ、僕が好きなのは映画観ながら飲むの」

能美「おっ。それも楽しいよね」

杯「うん。僕は法廷モノが好きでさ。だいたいチューハイ飲みながら観るんだよね」

能美「え、杯くん普段はビールだよね?」

杯「『氷結のとき』っていう」

能美「うまいな!」

杯「で、つまみは自分でこしらえた刺身ね」

能美「ほお、それはなんで?」

杯「魚をさばくからね」

能美「法廷だけに!うまいけど、ダジャレの為に無理やり法廷引っ張ってきた感じするな」

杯「まあまあ。あとは、『どこで飲むか』もあるけど『誰と飲むか』っていうのも大事だよね」

能美「そうだね。俺が憧れているのは、美人の嫁さんに『おつかれさま』なんてお酌してもらって、夫婦でしっぽりと飲むやつ」

杯「いいね」

能美「普段は飲まない嫁さんも『私も少しもらおうかしら』なんて言って、ちょっと飲んだだけですっかり赤くなっちゃって、気付けば大きな瞳がうっすら潤んできていて・・」

杯「いや、イメージ古いな!能見くん意外と」

能美「たしかに昔のパック酒のCMみたいだな。じゃあ、杯くんは『誰と飲む』のがいいの?」

杯「そうだなー、やっぱり僕は、和気あいあいとした休日の家族連れと飲むのが楽しいな」

能美「それ電車の乗客だろ!一緒に飲んでるわけじゃないからね、その家族は。むしろ君が飲んでることで和気あいあいとしてる空気に水差すわ」

杯「いや、ちゃんとレジ袋で缶を隠すから」

能美「だめだよ。ちょっと我慢しろよ」

杯「ごめんごめん、ちょっとふざけただけだよ。『誰と飲むか』、だよね」

能美「そうそう」

杯「僕はやっぱり、こうして能見くんと飲むのが一番楽しいな」

能美「まじかよ!」

杯「うん、気心の知れた友達と馬鹿な話しながら飲んでいるこの時間が、もう最高だと思う」

能美「・・・よし、今夜は飲むか!」

2人「では改めまして・・・、かんぱーい!」終

#ここで飲むしあわせ

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