好きな女と結婚できないなら
いつか続きを書きますが、とりあえず冒頭だけ投稿しておきます。
夏は何度も来ない。好きな女と過ごす夏は、そう何度も来てはくれない。九歳の夏、詩織さんの大きなお腹を見ながら、私は得体の知れない存在が誕生するのを待っていた。
詩織さんは時々私にお腹を触らせてくれた。詩織さんが嬉しそうなので私は黙ってお腹を撫でていたけど、どんな顔をするべきなのかわからなかった。笑えばよかった?
隣の家の大好きなお姉ちゃんだった詩織さんが、私と一切の関係なく変わっていくのが怖かった。詩織さんの旦那さんである慶太くんは、二年前の結婚式でリングガールを務めた私を可愛がってくれていたし、妊娠中の詩織さんを度々訪ねる私にも嫌な顔ひとつせずお菓子を出してくれた。
私の頭上で、いつも二人は何かを話していた。私はそれを聞き取ることはできず、二人はそんな私に視線を落としては、高いところから優しく笑っていた。自分の小さい体がもどかしかった。
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